山形大学2020年度アニュアルレポート
SDGs04

IRによる教育改善

IRの活用:基盤力テストの実施と教育改善の効果検証

基盤力テストとは?

 基盤力テストは、本学における学生の学習達成度を直接的に評価することを目的に、平成29(2017)年度から本格実施している全学共通テストのことです。「学問基盤力」「実践地域基盤力」「国際基盤力」の3つの基盤力で構成され、入学時、1年次終了時、3~4年次の3回にわたって実施することで、学生の学びの状況を客観的に把握するために実施しています。

基盤力テストの説明

どのように実施している?

 基盤力テストは、独自に開発したスマートフォンアプリ「YU Portal」を活用し、4月初旬の新入生及び2年生を対象にしたオリエンテーション等に組み込んで実施することで、入学時については98%超、2年次以降も80%に迫る高い受験率を達成しています。そして、これらの結果を活用し、例えば化学の領域においては、カリキュラム改善を実施する際の根拠データとして活用するとともに、カリキュラム改善による学生の学びの伸長を客観的に把握し、教育改善の効果を統計的に検証するなど、国内もさることながら世界的に見ても先進的な取組を推進しています。

具体的に何ができる?

 直近の最も効果的な活用事例として、農学部におけるカリキュラム改善とその効果検証があります。農学部においては、2019年度から従来の6コースを3コースに再編する際、右図の基盤力テストの分析結果等(E2017、E2018の入学時と2年始業時の伸び幅が小さい)を考慮し、1年生を対象とした基盤共通教育における科目の構成を見直しています。そして、この新たなカリキュラムにより実施した教育の効果は、2019年度入学生及び2020年度入学生に実施した結果(E2019及びE2020の入学時と2年始業時の伸び幅が大きい)から読み取ることができます。すなわち、農学部におけるカリキュラム改善は学生の学びの伸長(1年次の学習の成果)に寄与していることを基盤力テストが客観的に捉えていることが示唆されています。

基盤力テストの分析結果

※IR(インスティテューショナル・リサーチ)…高等教育機関において、機関に関する情報の調査及び分析を実施する機能又は部門。機関情報を一元的に収集、分析する事で、機関が計画立案、政策形成、意思決定を円滑に行うことを可能とさせる。また、必要に応じて内外に対し機関情報の提供を行う。

学生の活躍

アルツハイマー病の解明に挑み、数々の受賞を糧に、さらに前へ。

大学院理工学研究科(理学系)2年、フレックス大学院1年

飯田 茜

 Iida Akane

 栃木県出身の飯田さんは、高校時代、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)で月に1度大学に行き、食品添加物の研究に取り組んでいたという生粋のリケジョ。医学や薬学ではなく、科学の視点から病気が解明できたら面白いのではないか、との思いから理学部を志望しました。なかでも、化学を軸に物理も生物も学べる本学の物質生命化学科(当時)に魅力を感じて本学を進学先に決め、大学では、物理化学、非平衡化学が専門の並河英紀教授のもとで、アルツハイマー病の発症機構を解明する研究に取り組んでいます。
 飯田さんが発症メカニズムの解明を目指すアルツハイマー病とは、脳細胞表面にアミロイドβ(Aβ)タンパク質が凝集・蓄積し、記憶障害や知能の低下が生じる認知症の一種。根本的な機構が解明されていないため、治療が困難となっています。そこで、Aβが細胞膜にどのように吸着し、細胞膜を壊すのかを生体内を模倣した非平衡流動場において蛍光顕微鏡等を使って観察し、Aβの凝縮メカニズムを提案しました。この研究は、第9回CSJ科学フェスタ2019において「優秀ポスター発表賞」を受賞したほか、第29回非線形反応と協同現象研究会藤枝賞など、これまで数々の賞を受賞しています。さらに、同研究内容を視点やアプローチを変えて様々な分野の学会で発表したところ、注目度が高まり、学術雑誌「細胞」からの依頼で、並河教授との共著として論文を掲載するという希少な経験にも恵まれ、大きな自信になっています。

飯田茜さん
研究中の飯田茜さん

 博士課程では海外でのインターンシップが予定されており、アルツハイマー病の研究が進んでいるヨーロッパへの留学を希望しています。自らの研究を、将来的には創薬へ橋渡ししたいと願う飯田さんは、医学や薬学の知識も必要だと考えています。すぐには結果が出にくい理学の世界で、間接的ではあってもより多くの人を幸せにする手助けになればと、今後も研究に励むとともにグローバルリーダーとしての成長を目指しています。

(内容や所属は2020年12月当時のものです。)

体験会でVRの魅力や可能性を発信。企業などからも一目置かれる存在に。

有機材料システム研究科博士後期課程1年

髙木 直人

 Takagi Naoto

 静岡県出身の髙木直人さんは、高校生の頃から有機エレクトロニクスに興味があり、有機ELの研究開発では国内トップクラスの教授陣及び設備を誇る山形大学に憧れて入学しました。研究室では「ブラシポリマーを用いた高効率な有機薄膜太陽電池の開発」に取り組み、サークル活動ではVR部の部長として学内外で活発に活動を繰り広げています。
 VR部では、部員同士で知識や技術の勉強をし、情報共有するとともに、地域の人々にVRの魅力を伝えるためにVR体験会などを実施しています。 新入生歓迎会や大学祭でVRを初体験し、予想を遥かに超えるリアリティに感動して入部を希望する学生も少なくありません。また、隣県の会津大学、新潟大学と3大学合同で「ANYハッカソン」という新しいサービスやプロダクトを作るイベントを企画運営するなど、外部との交流を通して化学反応を楽しんでいます。
 これらの活動や「VR」の注目度の高さも相まって、企業や自治体からの反響は大きく、会社見学に来てほしい、製品の紹介VRを作りたい、地域の魅力を発信したいなど、様々なオファーが舞い込んでいるそうです。コロナ禍の影響もあってVR人口が増加しているにも関わらず、VRに詳しい人材は圧倒的に不足しているのが現状です。大学としても、VR部の能力に注目し、オープンキャンパスの動画作成等を依頼しています。各方面との人脈も出来て前途洋々のVR部。髙木さんは、それらの技術や人脈をしっかり後輩たちに伝え、自らはVRに詳しい有機デバイスの研究者を目指しています。

髙木直人さん
VRを操作する髙木直人さん

(内容や所属は2021年3月当時のものです。)