ささえるひと #01

玉谷貴子

西川町の活性化に若い力と感性を
学生たちには実践的な学びと体験を。

2018.01.15

西川町の活性化に若い力と感性を学生たちには実践的な学びと体験を。

「玉谷製麺所」の取締役営業部長であり、山形県認定庄内浜文化伝道師、フードアナリスト、クラゲマイスターなど、多彩な顔を持つ玉谷貴子さんは、出身大学こそ違えど、本学とは縁の深い人物。数年来、地域教育文化学部の学生が取り組む西川町活性化プロジェクトでは、新名物「西川ガレット」の開発などを通して全面的に指導・協力いただいている。

食への関心強く、縁あって西川町へ
雪結晶パスタでグッドデザイン賞。

 実家が食品会社だったこともあり、小学生の頃から食への関心が強く、父親の役に立ちたいとの思いもあって岩手大学農学部に進学した玉谷貴子さん。卒業後は出身地新潟県で菓子メーカーに就職したものの、翌年には縁あって月山の麓・西川町に嫁ぎ、現在は「玉谷製麺所」の取締役営業部長として品質管理や企画開発を担当している。フードアナリスト、食生活アドバイザー、だしソムリエなど、食に関する多数の資格を持つ玉谷さんが、彼女ならではの感性で企画開発した「雪結晶パスタ」は、大ヒットし、グッドデザイン賞2014を受賞。その後も、斬新な商品開発で注目を集め続けている。
 一方、本業以外でも山形県認定庄内浜文化伝道師やクラゲマイスターなどの肩書きを持つ玉谷さんの活躍の場は広がるばかり。しかも、双子の小学生の母でもあり、多忙を極める毎日にもかかわらず、クラゲマイスターとしてのボランティア活動には特に力を入れている。会社の定休日には可能な限り加茂水族館へと足を運んでいる。その原動力は、大学時代にオワンクラゲのGFP(蛍光たんぱく質)を使用する免疫学に関与する研究を行っていたことに加え、東日本大震災を機に人の役に立ちたい、人に喜んでほしい、そんな思いが一層強くなったからだという。奇しくも、加茂水族館の前館長は本学OBであり、岩手大学も農学研究科の連合大学院としてつながりの深い大学。玉谷さんと本学の連携は水面下ですでに始まっていたようだ。

雪の結晶パスタ

玉谷さんが豪雪地帯の雪の苦労を逆手にとって商品化したきれいな雪の結晶パスタが話題に。グッドデザイン賞2014受賞、フード・アクション・ニッポン アワード2014入賞。

おいしいだけじゃない、そば粉の魅力
「西川ガレット」を町の新名物に。

 その水面下の連携が顕在化したきっかけは、2013年頃に西川町が大学に地域を活性化させるためのプロジェクトを依頼したことに始まる。栄養生理学が専門の小酒井貴晴准教授が、地域教育文化学部の学生たちとともに西川町を訪れるようになり、地元の人が気づかない町の魅力探しに乗り出したのだ。そこで、小酒井先生たちが注目したのは大井沢地区で栽培され、ごく当たり前に食べられているそば。昔からずっと食べ続けられ、食文化として根付いてきたのには、ただおいしいだけではない何か理由があるはずと研究対象になった。確かに、そばにはルチンという機能性成分が含まれているが、そばの実のどの部分に多く含まれているかはまだよくわかっていない。殻の部分か、甘皮なのか、発芽そばなのか、自身も大学時代は食を化学してきただけに玉谷さんも興味津々。これを化学的に調べられるのは大学の研究室ならでは、と期待を込めてサンプルとなるそば粉を提供している。
 また、そば粉の新たな可能性を広げて町の魅力につなげようと、学生たちが中心となってフランス料理のそば粉ガレット作りに挑戦。生地をおいしく焼くための特製ブレンドそば粉は玉谷製麺所との共同企画。その生地に合うトッピングにも西川町らしさを意識した山菜やきのこ、鴨肉などをアレンジして「西川ガレット」として提案している。

学生と玉谷さん

2016年10月、玉谷製麺所企画の新そば祭りに地域教育文化学部の学生たちが参加した際の記念写真。西川町に何度も足を運んだ学生たちは、玉谷さんともとても和やかな雰囲気。

総合大学ならではの多様な可能性
学生に実践力を、社内には刺激を。

 2016年11月にはプロジェクトの成果発表会として「西川町をもっと好きになる会」が西川町の「月山湖・水の文化館」で開催された。メニュー開発チームは、4種類の西川ガレットを販売し、地元の人たちから好評を得た。その後も「西川ガレット」作りは、次の学年へと引き継がれ、どんどん進化を遂げている。毎年メンバーが新しくなる学生たちを玉谷製麺所では会社全体で温かく迎え入れ、アドバイスやサポートをしてくれている。「今度、学生さんたちはいつ来る?と、みんな楽しみにしているみたいです。若い人たちは、社内に活気をもたらしてくれますね」と玉谷さん。玉谷さん自身も実践で得た知識や経験をもとに学生たちにアドバイスすると同時に、学生たちから刺激を受けることも少なくないという。もともと研究好きな玉谷さん、いずれまた大学にもどって博士号を取得したいとの思いも強い。
 また、農学や工学、アート系など、総合大学である本学には複合的なコラボレーションの可能性があるとして、「西川ガレット」はもちろん、今後もさまざまなカタチで大学との連携を継続させていく考えだという。学生たちは、西川町と玉谷さんという懐の深い、実践的な学びのフィールドに恵まれている。

西川町のイベント風景

西川町のイベントに出店し「西川ガレット」を調理・販売する地域教育文化学部の学生たち。最初は、耳慣れなかったガレットというフランス料理も徐々に浸透してきている。

西川ガレット

年々進化している「西川ガレット」。生地のそば粉の配合を工夫したり、生地に合う具材を吟味したり、町の新名物を目指して試行錯誤が続く。玉谷さんのアドバイス、協力など貢献度は大きい。

たまやたかこ

たまやたかこ●新潟県出身。有限会社玉谷製麺所取締役営業部長。岩手大学農学部卒業。食品系のさまざまな資格に加えて、クラゲマイスターとしての知識も有し、鶴岡市立加茂水族館ではボランティアガイドとしても活躍。双子の母。

※内容や所属等は2018年当時のものです。

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