ささえるひと 特別記事

小山清人

「山形大学70周年」に寄せて
過去・現在・そして未来へ。

2019.04.01

昭和24年(1949年)の新制国立大学としての開学から70年を迎える山形大学。自らも本学出身で、思い出も思い入れも格別な小山清人学長が山形大学の歩み、そして現在、未来について熱く語った。

県民の決意と熱意が
成し遂げた大学創設。

 山形大学は、旧制の山形高等学校、山形師範学校(設立時は山形県師範学校)、山形青年師範学校、米沢工業専門学校(設立時は米沢高等工業学校)、山形県立農林専門学校を母体として創設されました。1年次に学生全員が学ぶ小白川キャンパスの前身は旧制山形高等学校です。大正中期に山形高等学校の創設運動が始まり、間もなく設立を国が決定しました。土地、建物、設備などに必要な経費の不足分を県内の資産家に寄附をお願いしましたが、それでも資金が足りず、県民特別税として徴収しています。山形県民の支援がなければ、今の小白川キャンパスは存在しません。  
 また、米沢では明治40年(1907年)頃、国立の高等工業学校の誘致活動が行われ、設置に必要な経費の約1/3が、山形県、置賜地域の市町村、そして個人の方からの寄附で準備されたそうです。さらに、米沢キャンパスの敷地は、もとは武士たちが住む住宅地で、そこに住んでいた人たちが話し合い、国の学校を誘致するためにと更地にして差し出したといいます。なかなかできることではありません。米沢キャンパスは、当時の人々の素晴らしい志と自己犠牲の精神の賜と言っていいでしょう。
 他のキャンパスいずれにも同様のヒストリーがあり、地元の人々の献身的な尽力により創設された大学であることを物語っています。山形大学は今年で創立70年を迎えますが、地域の方々の教育や学問に対する期待と熱意は、前身である各学校の創設時から、非常に大きかったのです。そして、その思いは、時代を超えて受け継がれ、本学の発展を支えてきました。10万人を超える山形大学の卒業生は、国内外で活躍しており、山形大学のブランド力は着実に向上しています。これもひとえに地域の皆様の理解と協力、サポートの賜と心より感謝申し上げます。

山形師範学校、山形高等学校、米沢工業専門学校、山形県立農林専門学校

大人しくて真面目で誠実、そして
忍耐強い。不変の学生気質。

 この70年の間には実に様々なことがありましたが、大学にとって最も大きな出来事の一つは、2004年の法人化ではないでしょうか。国の指揮下から一法人になったことは、いろいろな意味で非常に大きな変化でした。もう一つは、1973年の医学部開設です。一県一医大構想のもと、医学部ができたことによって地域医療との密接な関係が築かれました。
 私は、学生時代から、教員を経て、現在、学長を務めさせていただいていますので、山形大学歴は約50年です。その中で、変わっていない点は、分散キャンパスであり続けているということと学生の気質です。インターネットやスマホの普及で変わっているように見えても、それは手段が変わったに過ぎず、学生の気質は変わっていません。今も昔も大人しくて真面目で誠実、そして忍耐強い学生が多いです。これはとてもいいことなのですが、残念なことに、そのことに自信を持っていない学生が多いのです。学生は自信を持つと凄い力を発揮します。ですから、折に触れ、“自信を持て”“誇りを持て”と伝えています。
 また、先生方には、授業では知識を授けるのではなく、自分が勉強して面白かったこと、社会の役に立ったことなど、学生の興味を引くような学問のロマンを語り、「学生の心に火をつけてくれ」とお願いしています。その一方で、教育については、かつての先生一人ひとりが自分の研究に基づいて教えるという個々の教育から組織での教育へと変革をしてきました。

山形大学の学生たちの様子

地域全体で学び合い、
山形県全体を成長、発展へ導く。

 私の理想は、「山形県全体が山形大学のキャンパス」として、キャンパスの枠を超えて、学び合う姿です。これからは、IT化や長寿命化により社会全体の構造が変わり、今のように大学のキャンパス内で学ぶことが少なくなると思っています。人と人とのコミュニケーションの中で課題を見つけてツールを生かして解決していく、そこには学生、教員、一般市民といった区別はなく、相互に学び合うことで新しいものを創りだし、山形県全体が成長、発展していく、そんなイメージを描いています。
 地域の皆様にも山形に自信を持って欲しいと常々思っています。厳しい冬があって雪が降って、その雪が溶けて緑が芽吹く、このワクワク感はほかでは味わえない感覚です。「山形はいいところ」という思いをみんなで共有することで若者も自信を持って、魅力を感じて山形に留まり、山形の発展につながると思います。大学はそのための役割を果たしていきます。

地域全体で学び合う

変革できる、新たに創造できる
リーダーを育てる大学へ。

 目の前で学生たちに教えたことが教育の成果ではなく、育てた学生たちが10年後、20年後、30年後に社会をどうリードしているかが教育の成果です。大学はそれをコツコツやって、将来の地域のリーダー、国のリーダー、世界のリーダーを輩出していく、それに尽きます。変化する社会に先駆けて、先へ先へと行ける人、変革できる、新しいものを創造する、そういう人を育てる大学でありたいと思っています。

こやまきよひと

こやまきよひと●学長。和歌山県出身。山形大学大学院修士課程修了、1974年に工学部助手となり、1992年より教授。工学博士。専門は高分子レオロジー工学、超音波工学。2004〜2007年に工学部長を務め、2007年副学長就任。2014年より現職。学生、教員の立場で山形大学一筋。

※内容や所属等は2019年当時のものです。

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