ささえるひと #08
フェイスシールドで繋がる教職員
総合大学の強みで医療現場を救え!
高精度フェイスシールドを高速生産。
2020.10.30
ささえるひと #08
フェイスシールドで繋がる教職員
2020.10.30
新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて本学医学部附属病院でも医療物資不足は深刻化していた。そこで、医学部と工学部の学内連携で山形大学オリジナルモデルのフェイスシールドを超短期間で設計・生産し、医療現場へと届けた。しかも、工業高校や企業等でも製作できるようにと、その設計データをウェブ上で公開。これまでの学内連携で培った関係性があったからこそ実現した超高速設計・生産の真相をリポートする。
新型コロナウイルスの感染拡大により全国的に医療物資が不足する中、本学医学部附属病院でもマスクなどの感染予防物資の入手に苦慮していた。出口の見えないこの状況を総合大学ならではの「学内連携」で乗り切ろうと副病院長の欠畑誠治教授は、3Dプリンターの技術開発に取り組む工学部の古川英光教授にフェイスシールドの製作を依頼した。内視鏡下耳科手術の第一人者でもある欠畑先生は、セミナー等で使用する手術実習用の耳型モデルを3Dプリンターで製作してもらうなど、医工連携により工学部の技術力をよく知っていたのだ。
古川先生を通じて病院からの打診を受けた川上勝准教授はこの依頼を快諾。早速、翌日からフェイスシールドの設計に取りかかった。4月中旬、緊急事態宣言が全国に拡大され、不要不急の外出自粛が要請される直前のタイミングだった。医療従事者用のフェイスシールドということで飛沫予防の厳密さ、視界の確保、長時間着用に耐えうる軽さや着け心地など、配慮すべきことは少なくなかった。さらに、透明度の高いシールド材や装着者のサイズにアジャストさせるためのゴムなどの資材調達も厳しい状況だったという。幸いにも、シールド材については、米沢市発祥の大手繊維メーカー・帝人株式会社から透明度の高いポリカーボネートシートの提供を受けることができた。
医療従事者をはじめ、受付・事務職員にまで行き渡らせるためにはフェイスシールド1,000個ほどが必要。クオリティとともにスピード感も求められた。レーザーカッターでアクリル板をカットしてフレームを製作する工程では、時間も材料も無駄なく効率的にカットするための設計図をCADの得意な学生が担当。シールド部分のポリカーボネートの裁断やフレームとシールドをドッキングさせるための穴開け、最終的な組み立ては全て手作業で行われた。そして、病院から依頼を受けたわずか10日後、医療現場との意見交換で出された要望やアドバイスも取り入れ、試行錯誤の末に完成したフェイスシールドの試作モデル5個が病院に届けられ、欠畑先生等の試用・確認を経て本格的な生産態勢に入った。研究室の一角がフェイスシールド工場となり、職員や学生等の協力もあって5月1日に第一弾として約100個、5月末までに約1,000個の供給を完了した。
さらに、診療科によってはゴーグルや額にライトをつけた状態で装着できるようにしてほしいとの要望があり、小ロットのものについては3Dプリンターで対応。また、小児科からの子どもが怖がらないようにとの要望に応えて川上先生は版権交渉まで行い、人気キャラクターをあしらったフェイスシールドを完成させた。
時間との勝負でありつつ、コスト意識が求められ、さらに大量生産。全てが大学における通常の研究開発ではなかなか経験できないこと。「コロナ禍で本来の研究活動ができないことは残念ですが、非常時に医療現場支援や地域貢献を最優先するのは当たり前。役に立ててうれしいです」と川上先生。
古川研究室では、この設計データをウェブ上でオープンにしている。これを参考に3Dプリンターやレーザーカッターを持つ工業高校などがフェイスシールドを製作し、市や医療機関等に寄贈する活動が広がった。あのYahoo! JAPANが医療現場に無償提供したフェイスシールドも山形大学モデルをベースにしているという。学内連携からスタートした取り組みが、地域連携、高大連携、社会連携など、様々な連携パワーを生み出している。山形大学であることの強みを生かした次なる連携や貢献にも大いに期待したい。
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※内容や所属等は2020年9月当時のものです。