ささえるひと #17

理事・副学長 宮内 健二

人口急減社会の中で
存在感を放ち続ける大学づくり
新理事が語る 山形大学の未来。

2024.09.13

人口急減社会の中で存在感を放ち続ける大学づくり新理事が語る 山形大学の未来。

本学は2024年10月、創立75周年を迎える。この機会に、山大生も普段なかなか話す機会が少ない理事たちに今の思いを聞いてみよう。今回お届けするのは4月に就任したばかりの宮内健二理事のインタビュー。現在の大学運営の課題や今後の展望とともに「子育てに奮闘中」という私生活のエピソードも明かしてくれた。

仕事の基本目標として、
学生が意欲的に学ぶことができ
教職員が働きやすい環境を目指します。

 宮内理事が全国の国立大学経営に携わるようになって、2024年で13年目。これまで香川大学の高松市、福岡教育大学の宗像市、宮城教育大学の仙台市にて勤務、居住し、本学のある山形市は4都市目になる。「仙台在任時代から子供と仙山線に乗って頻繁に来ていて、気候や食べ物など、良いところがたくさんある街だと感じています」と山形市の印象を語る。
 山大生と直接交流する機会は職務柄少ないものの、就任直後に全キャンパスを巡り、普段から小白川キャンパス内とその近辺をよく歩くようにしているといい、「学んでいる学生さんたちが元気で大学全体に活気があり、教職員の皆さんも一生懸命にやられています。総合大学だけにいろいろな施設がそろっていて、行われている教育・研究内容が多彩。教員養成単科大学に比べると 『知』『人』の多様性を感じています」と力を込める。

「幅広い教育研究テーマに取り組む本学の資源をいかに生かしてさらに面白い大学、山形大学でしか学べない、取り組めない『知』を作っていくか。この山形で、せっかく仕事させていただく以上、今後の未知なる社会の中でビジョンを持って発展していける大学、意欲を持って安心して教職員の方々が働ける職場、学生が学べる環境を作っていきたいと思っています」と、宮内理事。

 「国立大学協会の声明に『もう限界です』のパワーワードが用いられるように、昨今の国立大学経営を取り巻く環境は厳しいですが、本学ではすでに経営上の課題についてさまざまな提起がなされ、解決・克服に向けた取り組み、改革改変も始まっています。総務の担当理事として、縦糸と横糸を組み合わせての総合的に有効な取り組みを構築、着実に実施し、加速させていくことが必要な状況と認識しています。また、これまでの全国各地域での経験を生かしての視点、工夫などにより、本学の前例にそぐわなくても有意義なものを考案し、スパイスなり味なりを付け加えていけたら良いと、思っています」と打ち明け、「改革改変というと、どこの大学でも、自分の経験でも大騒動となることが多いのですが、今後の社会、国立大学の置かれている状況を考えると常時改革改変は必要になると思われるため、大学全体での各教職員の方々が、随時必要な情報を共有して、思考、判断し、根拠を持って提案したり、話したりできるような環境づくりを目指していきたいと思います」と話す。

宮内理事が愛用する仕事の相棒が、次男が幼稚園時に製作したペン立て。子どもを授かって人生観が根本的に変わり「おむつ替えから食事の準備まで、授乳以外の子育てに仕事以外の時間はほぼすべて費やしてきた」という宮内理事。「2人の息子は今、小学生。男兄弟2人の喧嘩を仲裁し、算数のテストの結果、かけっこ勝ち負けに檄を飛ばす毎日です」

令和22(2040)年には
明治30年頃の人口となる山形県、
止まらぬ首都圏への
一極集中を踏まえての大学づくり

(上表はいずれも国立社会保障・人口問題研究所、山形県の公表資料から) 2024(令和6)年現在、山形県の人口は約101万人、山形市が約24万人だが、都道府県別の人口の推計を見ると2040年の山形県の人口は82万8000人。今後15年ほど経過したら、山形県から現在の山形市1つ分近くの人口が消滅してしまうことになる。この約83万人の人口数は1897(明治30)年頃の山形県のものと推計される。また、子供の出生者数の減少が毎年続いて、1897年頃とは生産年齢人口(15~64歳)の割合が大きく異なっているものと考えられる。つまり、15年後には現在存命の方は誰も見たことがない山形県の風景、社会となると思われる。

 宮内理事は「今生きている人たちが経験したことがない未知なる社会が確実にくる中で、地域や大学をどう元気にしていくのか、どう作っていくのかが、これから非常に大きな大学経営上の課題になると思われます。特に出生者数が大きく減っていくことは、山形県はもちろん東北地方全体における全国に先行しての課題です。令和6年度の本学学部入学者の約68%は東北地方各県の出身者であり、そこでの18歳人口が大きく減ると進学者全体の減、ひいては本学志願者、入学者数や入学者の様相を大きく変え、教育研究に影響することになると予想されます」と指摘する。
 「県全体の人口減、18歳人口減は大学としてはいかんともし難い、それらを前提として山形大学として、これからどんな展望やビジョンを持って、将来どのような大学を作っていくのか。どうやって教職員や学生の方々が不安なく未来に希望を持って、仕事や教育研究を行えるようにしていくのか。大学の改革改変は大変時間を要するものであるため、15年くらいはあっという間のことと思われます。大学経営において早めに怠りなく必要な準備や手をうっていく必要があるというのが、私の任期中の基本的な姿勢、取り組み方針です」
 全国的な人口減少の中で、東京都のみは2040年まで人口増加が続くと見込まれている(2020年 14,048千人→2040年 14,507千人/国立社会保障・人口問題研究所推計)。
 宮内理事が大学経営上のもう一つの大きな課題としてあげるのが、山形県をはじめとする東北地方の若い方々の東京を中心とする首都圏への集中傾向だ。
 「この問題は古くから言われており、私も学生時代に大分県の『一村一品運動』について勉強したりし、就職してからも千葉県、高知県、香川県、福岡県、宮城県、山形県の行政機関、大学で働く機会を得る中で見聞しましたが、いずこでも東京を上回って若者を引きつける状況に至るのは極めて難しいと考えます。ただ、東京一極集中は、最近は加速していると言われ、これが続き、拡大していくと、大学経営にとどまらず、国、各地域の存立自体に関わるのではないかと懸念します。全国のいろいろな地域に、いろいろな人がいて、いろいろな考えや発想があって、いろいろな文化や営み、食べ物があることが国としての強みではないか。大学ではいかんともし難い問題ではありますが、魅力ある山形大学ならではの教育研究の取り組みにより、意欲ある若い方々が山形県に住み『この大学で学びたい』となる大学づくりを行っていきたいし、学生さん、教職員の方々の研究や取り組み成果が、学校卒業後に『山形県で働きたい』、出産や子育てをする年齢になって『山形県で暮らしたい』と思われるような地域づくりに寄与していければと思います」と語る。

宮内理事の休日の過ごし方は? 「私自身がもともと鉄道好きで、小さい頃から連れて行くうちに2人の息子も見事“てっちゃん”になりました。休日は、一緒に山形県内外に鉄道に乗って出かけています。先日、全国に3つある『宮内』駅の最後、念願の山形鉄道フラワー長井線『宮内』駅にも行きました」

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みやうちけんじ

みやうちけんじ●理事・副学長(総務・人事担当)。香川大学研究推進機構教授・学長特別補佐、福岡教育大学副学長(博士課程設置構想・教職大学院担当)、宮城教育大学理事・副学長(財務・施設担当)・事務局長の国立大学業務を経て現在、本学経営に参画。

※内容や所属等は2024年8月当時のものです。

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