ささえるひと #03
野川北山
「新庄まつり」の伝統を守り伝え、
学生たちに学びを、地域に活力を。
2019.02.28
ささえるひと #03
野川北山
2019.02.28
山形大学では、2005年から最上地域8市町村をフィールドとする授業「エリアキャンパスもがみ」を実施している。その講師として初年度からご協力いただいているのが能面師・人形師の野川北山さん。歴史ある「新庄まつり」に長年関わってきた野川さんが、新庄まつりを通して学生たちに何を伝え、何を期待しているのか。幼くして人形師の道を自ら選んだ野川さんの生き方からも、学ぶべきことは多そうだ。
新庄市では「エリアキャンパスもがみ」の前期プログラムとして毎年4つの授業が行われている。その中のひとつ「新庄まつりとオレ」は、260年以上の歴史を誇り、2016年にはユネスコ無形文化遺産に登録された新庄まつりがテーマ。野川北山さんは、歌舞伎や物語を題材とした絢爛豪華な山車(やたい)20台が見どころの新庄まつりを、130年以上にわたって人形師として支えている野川家の四代目。新庄まつりには欠かせない人物として市から要請を受け、エリアキャンパスもがみの準備段階からプログラムの充実に尽力している。
野川さんは、6歳の時に自らの意志で、父である野川家三代・陽山に弟子入りし、高校卒業後から本格的に師事。現在は新庄まつりの人形師として、一年の半分を新庄市の工房で過ごし、残りの半年を仙台市の工房で能面師として制作活動を行っている。新庄まつりは、8月24日〜26日の3日間のみだが、その準備は前年の祭りが終わった瞬間から始まっていると言われるほど、新庄の人々の祭りへの思いは熱く、長く厳しい冬を乗り切る原動力にもなっている。毎年、20台の山車で取り上げられる歌舞伎や物語に合わせて、80体以上の人形を一手に貸出提供している野川さんも、春から本格的な準備に入る。
当初のプログラムは、若い学生たちに新庄市や新庄まつりの魅力を知ってもらい、好きになってもらおうとの思いから、新庄まつりの歴史を伝えたり、名所を案内するなど、おもてなしの要素が強かった。そして、毎年受講生の顔ぶれは変わるものの、授業内容は変わらない。それに違和感を感じた野川さんの提案もあり、学生たちがより能動的に新庄まつりに関われる授業、年々リレー式に引き継がれ、蓄積されていくプログラムへと改良されていった。新庄の人々にとっては当たり前の新庄まつりが、若い学生たちにはどのように映っているのか、新しい意見やアイデアで、祭りをもっと魅力あるものにしてほしいとの思いも込められている。
現在では、新庄まつりを知るために歴史を学び、人形制作や山車制作の現場を見学するなどのインプットを行った上で、新庄まつりファンを増やすことをテーマに企画立案を行う。最終的には、新庄市長をはじめとする関係者とのタウンミーティングで企画発表を行い、アウトプットでプログラムを締めくくる。野川さんは、新庄まつりの歴史を伝え、人形師としての伝統を繫ぐということにも触れつつ、人形作りの工程などを紹介。さらに、全行程を通してアドバイザーとして学生たちに寄り添い、地元の人々とのパイプ役を務めるなど、プログラム全体をサポートしてくれている。
学生たちは、実地調査や聞き取りを行った上で、新庄まつりの魅力拡大や課題解決に取り組む。2018年の実績としては、来場者に歌舞伎独特の化粧法「隈取」メイクを施して、祭り気分を盛り上げるという企画が実現。授業の日程外にもかかわらず、企画した学生たちが自主的に祭り当日の運営に携わった。もちろん、学生たちに隈取メイクの指導を行ったのは野川さん。インパクトのある隈取メイクは祭り会場で話題となり、客が客を呼び、予想以上の人気企画となった。また、祭りのゴミ問題に着目したグループは、神輿行列のかごをイメージしたゴミ箱を製作し、ゴミを回収してまわる作戦を実践し、注目を集めるとともに成果を上げた。野川さんは、これらの取り組みを次年度の受講生に伝えることで、そこからさらに新たな企画やアイデアが生まれてくることを期待している。
「市長に直接提案することや伝統ある祭りに新たな企画を持ち込むことは、かなり希少な体験で、社会に出てからも役に立ち、大きな自信にもつながります。若い人の発想やアイデアを生かすチャンスは提供するので、今後もどんどんチャレンジしてほしいですね」と野川さん。新庄市での経験を出身地の活性化につなげたり、自分の夢の足掛かりにしたり、様々なかたちで将来の糧にしてほしいとの熱い思いが伝わってきた。
のがわほくざん●宮城県出身。能面師・人形師。高校卒業後から本格的に父・二代陽山に師事。新庄まつりの人形師として活躍。2005年より「エリアキャンパスもがみ」講師。2007年二代北山を襲名。本名、知孝。
※内容や所属等は2018年当時のものです。