ささえるひと #09

有海順子

障がいも、大学の垣根も越えて
いきいきと学べる環境づくりで連携。

2020.12.30

障がいも、大学の垣根も越えていきいきと学べる環境づくりで連携。

障がい学生支援センターの有海順子先生は、学生時代から障がい学生支援に関わり、その後も教育・研究を続けてきた当該分野のスペシャリスト。米沢女子短期大学からも、聴覚障がい学生の支援体制について相談を受けていた経緯がある。コロナ禍で大学教育も混迷する中、2つの大学が連携し、オンラインによる聴覚障がい学生への支援をスタートさせた。県内初のこの取り組みに注目と期待が集まっている。

専門性の高い専任教員の着任で
よりニーズに適う支援が可能に。

 2016年4月の「障害者差別解消法」施行を受け、山形大学では2015年4月に「障がい学生支援センター」を設置。障がい学生に対し合理的配慮の提供に努めている。支援センターの専任教員である有海先生は、筑波大学大学院で人間総合科学研究科障害科学を専攻し、博士課程修了後は同大学の障害学生支援室に勤務していた。もともと出身地の山形が大好きで、いずれUターンしたいと考えていたところに、自身のキャリアが生かせるポストが本学にできることを知り、応募して着任に至った。障がい学生支援に関するスペシャリストが着任したことで、聴覚障害、視覚障害、運動障害(肢体不自由)、発達障害など、障がいのある学生の特性に応じて修学支援を行うことが可能になった。
 具体的には、支援を希望する学生からの申し出を受け、本人、学部、支援センターとで面談を行い、個々のニーズに応じて支援内容を決めていく。主な支援内容は、障がい共通として授業や試験における支援や配慮に関する相談対応、履修科目の担当教員に対する配慮依頼文書の作成など。障がい別では、視覚障がい学生に対する教材等のテキストデータ化、代筆など、聴覚障がい学生に対する授業における情報保障支援(ノートテイク)など、運動障がい学生に対する学内移動支援などがある。

障がい学生支援センター

障がい学生支援センターは、障がい学生支援に関するすべての相談窓口。有海先生を含む女性スタッフ3名が対応。学部の先生、事務の方々とも連携を密に支援を行なっている。

相談に訪れた学生に丁寧に対応する有海先生。

相談に訪れた学生に丁寧に対応する有海先生。コロナ禍の影響で悩みを抱える学生も増えている昨今、「気軽に相談に来てほしい」と利用しやすい雰囲気づくりを大切にしている。

支援を担うYUハートサポーター
大学連携で他大生の修学も支援。

 教材等のテキストデータ化やノートテイク、学内移動などの支援活動を担っているのは、YUハートサポーター(通称ハトサポ)として登録している支援学生たち。ボランティアや支援活動に興味のある学生が「障がい学生支援技術養成講座」を受講し、支援技術を身につけた上で、空きコマを利用して有償で支援活動を行なっている。なぜ有償ボランティアなのかというと、障がい学生が遠慮することなく支援に関する要望を出せるように、また、障がい学生とハトサポの双方が対等の立場でいられるように、そして、ハトサポが障がい学生支援をひとつの仕事として責任をもって活動できるように、といった理由からだ。
 2020年度はコロナ禍によるオンライン授業の影響等もあり、支援センターには例年以上の相談が寄せられたという。また、昨年度から聴覚障がいのある新入生への支援体制に関して相談を受けていた、米沢女子短期大学(以下、米短)との連携が本格化。有海先生は米短の先生方に、養成講座を通して支援の仕方や大事にすべきことなどを伝えてきた。米短で実際に対面授業が始まった7月からは、有海先生と本学の学生が修学支援に参加。米短の支援学生と協力して、聴覚障がい学生に対して遠隔情報保障支援を行なっている。遠隔情報保障支援とは、インターネット等を介して、授業内容を文字化し聴覚障がい学生に伝達する支援を指している。

captiOnlineのwebシステム上でつながり、情報保障を行う

遠隔情報保障支援の様子。支援学生がZoomで授業を聴取し、captiOnlineで音声を文字化したものをチェックして伝達。聴覚障がい学生はその文字情報を閲覧しながら授業に参加する。

障がい学生支援体制を充実させ
誰もがいきいきと学べる大学へ。

 今回の聴覚障がい学生への支援は、次の通りに実施されている。有海先生や本学の支援学生は、支援センターや自宅などの遠隔で、米短の先生の授業映像と音声をオンライン会議ツールのZoomで聴取。同時に、Webシステム「captiOnline(キャプションライン)」上で音声認識された文字のチェックと修正を行う。その文字情報はリアルタイムにcaptiOnlineの閲覧ページに反映され、それを見ることで、聴覚障がい学生は授業内容を理解できるようになる。「情報保障のおかげで楽しく授業を受けることができた」と利用学生からは高評価が得られ、支援学生も学びの一助となれたことにやりがいを感じ、双方にとって学びと成⻑の機会となっている。
 コロナ禍によってオンライン化が急速に進んだことと、有海先生がcaptiOnlineに精通していたことで、スムーズに実現した今回の支援。大学間連携による障がい学生支援は、県内初の取り組みだ。「障がい学生が卒業してしまうと支援体制の維持が難しくなるので、大学間の連携がさらに広がり、必要な時に必要な支援を補完し合えれば理想的です」と有海先生。誰もがいきいきと安心して学べる大学であるためには、障がい学生支援体制の充実が不可欠。理解と協力を求めて、教員や学生に対してより積極的に情報発信していきたいとしている。

Webシステム「captiOnline(キャプションライン)」の画面

今回の遠隔情報保障支援で利用されているWebシステム「captiOnline(キャプションライン)」の画面。文字に誤りがないかを素早くチェックして修正する、集中力のいる大変な作業。

リアルタイムで聴覚障がい学生のもとへ。

支援学生が1台のPCで授業を聴取し、もう1台のPCではcaptiOnlineによって文字化された情報をチェック。必要に応じて修正を加えて、リアルタイムで聴覚障がい学生のもとへ。

支援学生の声

誰もが安心して自分らしく
学べる大学へ

ありうみじゅんこ

ありうみじゅんこ●准教授/障がい学生支援センター専任教員。山形県出身。筑波大学大学院人間総合科学研究科障害科学専攻博士課程修了。筑波大学助教を経て、2015年8月本学着任。誰もがいきいきと学べる大学づくりを目指す。

※内容や所属等は2020年12月当時のものです。

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