ささえるひと ♯22

安藤耕己&片桐滉斗

不登校や引きこもり、
悩みを抱える人の「伴走者」に。

2025.02.14

不登校や引きこもり、悩みを抱える人の「伴走者」に。

「人とコミュニケーションを取るのが苦手」「集団生活になじめない」など、さまざまな理由で引きこもりや不登校に悩んでいる子どもたちがいる。その受け皿の一つになっているのが、フリースクールなどの支援施設だ。今回は、クローバーの会@やまがたの理事を務める本学の安藤耕己教授と職員の片桐滉斗さんに話を聞いた。

 

小・中学生の学習や活動に寄り添い、
元気を回復できる場所を目指す。

 フリースクールよつばは子どもや若者、その家族の居場所づくりに取り組む特定非営利活動法人「クローバーの会@やまがた」が運営している支援施設。火〜金曜日の10:00〜14:00に開設し、山形県内在住の小・中学生を受け入れている。民家を活用したアットホームな雰囲気の中、それぞれのペースで学習や活動に取り組める。大学生ボランティアによる学習支援の他、受験対策に家庭教師を付けることもできる。
 クローバーの会@やまがたの職員である片桐さんは、フリースクールの他、14:00〜17:00に開設しているフリースペースの業務も担当。フリースペースには高校生や大学生、大人も通っている。

ワークブックをそろえるなど、学習支援の準備をする片桐さん。子どもたちに勉強を教えることもあるが、「強要はしないで、一人一人のペースを尊重しています」と説明する。

家庭でも学校でもない、
「第三の居場所」を伝えたい。

 「今の時代は学校に行きづらいと感じている子どもが多くいます。生きづらさを抱え、休職中だったり、働きながら息抜きに訪れたりする大人もいます。ここでは誰にも否定されません。顔が暗かったり、元気がなかったりする人も、関わりを持っていくうちに笑顔が増えていきます。学校や職場に戻れたらいいですし、引き続きここで過ごす選択もあります」
 こう語る片桐さん自身、不登校と引きこもりを経験。中学時代に苦手だった先輩を避け、山形県立山形工業高校に進学したが、「工業系の勉強に興味があったわけではなく、目標を見つけられず、体調が悪くなりました。涙が止まらなくなって、高校1年生の冬休み明けから高校に行けなくなりました」と打ち明ける。
 高校に通えなくなった片桐さんだが、在籍したまま高校卒業程度認定試験に合格。大学受験の勉強にも励んだ。家庭教師のアドバイスや教育系に興味があったこともあり、本学の地域教育文化学部を受験。見事合格した。
 大学生になる新生活に期待を抱いた一方で、不安も感じていた片桐さん。「人と関わらずに家で勉強ばかりしていたので、コミュニケーション能力は下がるばかり。全国から多くの人が集まる大学で人間関係を築くことは、当時の僕にはとても難しいことでした」と表情を曇らせる。
 そんな時に出会ったのが、学生をサポートするアドバイザーをしていた安藤教授だ。片桐さんは安藤教授との面談を通して、第三の居場所であるフリースペースの存在を知った。
 「家に引きこもっていると飽きてきて、人と話したいと思ってくるんです。大学入学から2年ほど経ったときに、安藤教授に教えてもらったフリースペースに試しに行ってみました」
 このフリースペースは、現在片桐さんが所属しているクローバーの会@やまがたの前身団体が運営していた。小学生から大学生、社会人、休職中の人など、さまざまな年齢や立場の人々が通い、個人を尊重する環境。「自分もここに居ていい」と気持ちが軽くなったという。そんな自身の体験を踏まえ、片桐さんは「フリースクールは元気を回復できる場所でありたいです」と力を込める。
 安藤教授との出会い、フリースペースとの出合いが、片桐さんの人生の大きな転機になった。「家庭でも学校でもない、第三の居場所に救われました」と笑顔を見せる。
 片桐さんの恩師であり、現在も仕事を通して片桐さんと関わる機会が多い、安藤教授は「学校に通えなかった彼が支援施設の利用者になり、今度は職員になりました。このような流れは、彼にとってもフリースクールを利用する子どもたちにとっても良いことだと思います」と目を細める。

「フリースクールやフリースペースで過ごすことは、社会とつながる選択肢の一つだと思います」と話す片桐さん。フリースクールよつばでは利用者の要望や意見を尊重し、その実現に向けて支援している。

支援施設、学校、地域が連携し、
互いに信頼できる関係が大切。

 2019年4月からは、かつて自身が通っていたフリースペースの活動に、スタッフとして関わるようになった。職業訓練や就職などで一時離れた時期もあったが、2022年7月にフリースペースの後継団体が運営するフリースクールよつばの学習支援スタッフになった。
 現在は、運営団体のクローバーの会@やまがたの職員として、仕事の幅を広げている。職員の中では2番目に勤務歴が長く、本学の学生など人前で支援施設の役割や仕事について話す機会もある。
 安藤教授は「彼の場合、経験に裏打ちされた知識とスキルがあり、説得力が全然違うので、学生にとっても非常に勉強になっています。本学では教育実践実習Aを修得し、教員採用試験を受けた4年生が地域学校協働インターンシップに取り組んでいます。その中にはフリースクールもありますから、今後も継続して連携していけたら」と語る。

山形市南原町にあるフリースクールよつば。片桐さんら職員の他、ボランティアスタッフが子どもたちと過ごしている。安藤教授と連携し、現役の山大生もボランティアとして参加している。

 安藤教授を経由して大学生ボランティアを受け入れるなど、本学との連携を図っている。片桐さんは「大学生だった時より、安藤教授と密にやり取りをしています」と笑う。自身が不登校、引きこもりを経て、前向きに働けるようになった実体験があるからこそ、利用者に共感できる部分が多いという。
 「私たちの役目は支援というより伴走だと感じています。友だちではないですが、仲間のような関係。最終的に人生を前向きに考えてもらえるようになれば。今は不登校や引きこもりだとしても、次のステップに進める時が来るはずです」と力を込める。
 安藤教授は「将来の教員を養成する大学、フリースクールなどの支援施設、小中高校、地域がみな手をつないでいける開かれた環境も大切です」と強調する。

つづきを読む

あんどうこうき

あんどうこうき●岩手県花巻市出身、山形市在住。学術研究院教授(地域教育文化学部主担当)。岩手県立盛岡商業高等学校教諭を経て、筑波大学大学院博士課程教育学研究科教育基礎学専攻単位取得後退学。以後、筑波大学助手、吉備国際大学准教授などを経て、2010年8月に本学地域教育文化学部准教授に着任。2019年10月より現職。研究テーマは、勤労青年教育の歴史研究、子ども・若者の「居場所」「たまり場」をめぐる社会史的研究など。2024年6月よりクローバーの会@やまがたの理事を務める。

かたぎりひろと

かたぎりひろと●山形県山形市出身、東根市在住。地域教育文化学部地域教育文化学科児童教育コースで学び、2019年4月にクローバーの会@やまがたの活動に参加。2022年7月にフリースクールよつばのスタッフになる。現在はクローバーの会@やまがたの職員。

※内容や所属等は2024年9月当時のものです。

他の記事も読む