INTEGRATED REPORT 2022 山形大学 統合報告書2022

Message

つなぐちから。山形大学 共育・共創・共生による持続可能な幸福社会の実現

いつの時代も大学は、社会変革の原動力だった。
いまこそ大学の存在意義に立ち返るとき。

 山形大学は、1949年の開学以来、常に大学の進むべき方向性を自らに問い直しながら、社会の期待に応えるべく全力で教育・研究・社会貢献に取り組んできました。

 いま、私たちの社会は、産業構造と自然環境が急激に変化する予測不能で不確実な時代を迎えています。そして、新型コロナウイルスによるパンデミックは、人と人のつながりに大きな影響をもたらし続けています。しかし、このような将来が見通しにくい状況でこそ、大学は明るい未来への道のりを見定めて、前に進まなければなりません。

 「山形大学将来ビジョン」である“つなぐちから”は、山形大学がこれから目指す姿を一言で表現したものです。山形大学が掲げる「地域創生」「次世代形成」「多文化共生」の3つの使命を果たすために、地域社会と共に歩む大学の真の在り方を心に刻むべく策定しました。

 現代社会では、情報を集めて価値化する企業や組織が「つながり」のサービスを提供しています。しかし、それは、私たちにとって安心できる“つなぐちから”になるでしょうか?一方、大学には、学術機関として質保証した情報を提供するという信頼性があります。そして、特定の意図に支配されない自由な交流ができる学問的な自律性があります。膨大な情報が溢れる世の中で、大学の確かな「知」と「自律性」から生まれる“つなぐちから”は、これからますます重要になるでしょう。山形大学は6学部・6研究科を有する総合大学で、県内4か所にキャンパスがあります。この特性を活かして、教育・研究・社会連携の全てにおいて、“つなぐちから”となる機能を高め、社会に大きなインパクトをもたらしていきたいと考えています。

 新たな知や価値を生み出す創造力は、異質なものとの出会いから生まれます。大学は、そのために必要とされる“つなぐちから”となり、さまざまな垣根を越えて、人と人、異なる知と知を縦横無尽に結びつけることができるのです。人新世と呼ばれる激変の時代、いまこそ、この大学の存在意義に立ち返り、社会の紐帯となって活躍する大学を目指していきます。

 「山形大学将来ビジョン」ではさらに、「共育・共創・共生」をキーワードに掲げ、それらがもたらすゴールを「持続可能な幸福社会の実現」と定めました。学内意見では「幸福」という抽象的な言葉を大学の目標として掲げるのはどうかという声もありました。たしかに幸福社会の在り方にはさまざまな選択肢があり、幸福の定義も多様で尺度もひとつではありません。これに対し山形大学は、教育・研究として「幸福」を科学的なアプローチで解明・貢献できるという強みがあります。この特性を活かし、独自のアイデンティティを確立することで山形大学を社会から注目される存在にしていきたいと考えています。

 かつて山形大学は、第2次世界大戦が終わって間もない1949年に、山形県内に設置されていた5つの高等教育機関を母体として開学しました。当時、他地域の国立大学との統合案もあったなかで山形県に本学が設置されたことには、地域の発展を願う人々の大きな期待が込められていたはずです。その期待に応えて、これまで山形大学は10万人を超える有為の人材を世に送り出し、社会変革の原動力となってきました。豊かな地域文化と雄大な自然に恵まれた山形は、現代における「自分らしい生き方」を見出す最前線の現場です。学生のみなさんには、地域やキャンパスライフでさまざまなことに挑戦し、自らの可能性を大きく広げることを願っています。

 人口減少が進む令和の時代、地域の持続的発展に貢献する山形大学への期待は、ますます高まっています。山形大学は、新時代の原動力となる「コモンズ」として、一人ひとりが幸せを手にする世界を目指し、地域のさまざまな人々と共に考え、共に動いてまいります。

 最後になりますが、本学は昨年度まで財務情報とその関連情報をまとめた「Annual Report」を制作してまいりました。2022年度より従来の財務情報に加え、本学のビジョン・戦略や特色ある取り組み等の非財務情報を統合し、よりステークホルダーの方々から共感を得ることを目指した「統合報告書」を制作しました。本報告書を通じ、ステークホルダーの方々との対話を推進してまいりますので、今後とも山形大学をどうぞよろしくお願いいたします。


山形大学 学長 玉手英利