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2020年度 入学生へのメッセージ

 新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。また、みなさんをこれまで支えてこられたご家族の皆さまにも、心からお祝い申し上げます。山形大学の教職員一同は、みなさんを学びの場に集う新たな仲間として、心から歓迎します。

 世界各地で感染拡大が続く新型コロナウイルスの影響は、未だ終息の兆しが見えません。そのような中、4000人を超える人々が一堂に会する式典を挙行することは難しく、感染拡大防止の観点から、山形大学では入学式の開催を中止するという苦渋の決断をしました。厳しい受験を乗り越えてこられたみなさんと、その努力を支えてきたご家族の皆さまが、人生の大切な記念日として入学式をどれほど楽しみにされていたかは想像に難くありません。私をはじめ山形大学の教職員一同も、みなさんを入学式でお迎えすることができずに大変残念に思っています。しかし、これから始まる大学生活が希望に満ちた明るく楽しいものになるように、私たちもみなさんと力を合わせて困難に立ち向かってまいります。

 世界が大きく動揺しているこの時に、みなさんに深く考えてほしい「問い」があります。

『なぜ大学で学ぶのか?』

 山形大学には6つの学部と7つの研究科があり、約9000人の学生が学んでいます。みなさんもその一員として新しい学びを始めるのですが、みなさんは「なぜ大学で学ぶのか」と問われたら、何と答えますか?志望動機や大学生活に期待することなど、答えはさまざまでしょう。しかし、それぞれの学部や大学院で学ぶ知識や技能は異なっていても、最終的な学びの目標は一つです。それは「正解が未だない問題」を解決する力を身につけることです。

 「正解が未だない問題」とは、判断のよりどころとなる定式がなく、自分で新たな答えを探さなければならない問題のことをいいます。

 受験勉強をはじめ、みなさんがこれまで行ってきた勉強では、多くの場合、「問題」に対する「正解」があり、それとの答え合わせが中心になっていたと思います。学校での「正解」は教科書や参考書、授業での先生の教えの中にありました。

 一方、現実の社会では、まだ正解がみつからないか、正解そのものが存在しない「問題」がたくさんあります。それを実感するのは、社会が大きな危機に直面したときです。2011年の東日本大震災とそれに続く原子力発電所の事故は、地域社会に甚大な被害を及ぼし、人々の暮らしを大きく変えました。このとき、「想定外」という言葉が多く使われましたが、それは、日本の社会が、この大災害という「問題」を解決する、あるいは未然に防止するための「正解」を持っていなかったことを意味しています。

 そして2020年の今、私たちは新型コロナウイルスという新たな危機に直面しています。人類の歴史においてパンデミックは何度か起こりましたが、そのたびに、人々は新しい治療法や予防策を見つけ、危機を乗り越えてきました。今回も必ず克服することでしょう。しかし、そのためには、グローバル化された社会での感染拡大という、これまでの歴史では無かった「想定外」の問題を解決する新たな答えを見出さなければなりません。

 科学・技術の発達はとても早く、社会と人々の考え方も時代とともに大きく変化していきます。私がみなさんと同じように大学生となったのは、今からもう40年以上前の1973年でした。携帯電話やスマートフォンはもちろん無く、パソコンやインターネットもほとんど普及していなかった時代です。当時を考えると、今はまったく違う世界に住んでいるような気がします。同じように、みなさんが暮らす未来の社会は、想像もできないくらい変容しているでしょう。また、地球温暖化の進行が止まらなければ、自然環境も大きく変わることが予想されています。震災やパンデミックのような危機が訪れなくても、社会や環境の変化によって生じるさまざまな「正解が未だない問題」に、これからも私たちは取り組んでいかなければならないのです。

 大学では、みなさんが初めて聞く学問分野の授業や、地域や海外に飛び出して学ぶチャンスがあります。授業以外でも、キャンパスでは、課外活動やセミナーなどが毎日のように行われています。学生生活では、このような新たな体験をする機会がたくさんあります。今は興味・関心があまり無くても、試してみたら夢中になれることが必ずあるでしょう。ぜひ、これまで経験したことがない様々なアクティビティに、思いきって挑戦してください。大学で学ぶ知識や技能は、時代とともにいずれ新しいものに置き換わっていきます。しかし、大学で新しいものに挑戦することで身につく深い思考力や判断力、そして他者に働きかける力は、みなさんの長い人生で遭遇する多くの「正解が未だない問題」を解決するときに必ず役に立ちます。大学で学ぶことの究極の意義はそこにあります。

 総合大学である山形大学には、日本各地、世界各国から、様々なバックグラウンドを持つ人たちが集い、学んでいます。キャンパスで出会う仲間たち、また、地域での活動で出会う多様な人たちと共にする時間も大切にして欲しいと思っています。言葉や文化、年齢や価値観などが自分と違う人たちとの交流は、きっとみなさんの人生にとってかけがえのない経験になるでしょう。さきに述べた他者に働きかける力は、そういった経験を積み重ねることで確実に身についていくと思います。

 大学院に入学したみなさんは、これから多くの時間を研究に費やして、文字通り「正解が未だない問題」に正面から挑むことになります。その時間をどうか大切にしてください。自分の研究テーマを徹底して究めていくと、世界中の誰もがまだ知らない「新たな発見」に出会う瞬間があります。そこで得られる感動と興奮は、大きな自信につながり、自分をさらなる高みへと導いてくれるでしょう。

 以上、大学で学ぶことの意味についてお話しました。もうひとつ、みなさんにお伝えしたいメッセージがあります。それは、みなさんと大学とのつながりについてです。

 これから始まる学生生活は、みなさんの人生のなかで、社会へと巣立つための重要な時期となります。この大切な時期に、私たち山形大学の教職員一同は、ご家族や、地域の人々とともに、みなさんを見守り、応援しています。これまで経験しなかったような楽しいことがたくさんある一方で、時には挫けそうになることもあるかもしれません。もし、日々の生活において、簡単には解決できないことや、苦しいこと、つらいことがあったら、一人で悩まずに、すぐに私たち教職員に声をかけてください。私たちはみなさんとのつながりを何よりも大切に考え、ともに歩んでいきたいと思っています。

 みなさんが、幸せで充実した学生生活を過ごされることを心から願い、私の歓迎の言葉といたします。