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令和2年度卒業生に対する告辞

 本日、学位記を授与された皆さん、卒業ならびに修了、おめでとうございます。すべての卒業生・修了生の皆さんに、心よりお祝いを申し上げます。

 皆さんが、この一年、卒業や修了を控えながら、コロナ禍がいつ終息するのか、先が見えない中で毎日を過ごしてきたことは、周囲が思う以上に大きな不安やストレスがあったことと思います。

 それでも、皆さんが着実に勉学や研究を進めて、こうして卒業、修了を迎えられたことは大変に素晴らしいことで、皆さんのこれまでのご努力を心から讃えたいと思います。

 この一年、山形大学は、対面の学びを重視しつつも、感染拡大防止のため、前期授業や後期の1月以降の授業の大部分をオンラインで行い、サークル活動の一部制限などを学生の皆さんにお願いしてきました。山形大学には、約9000名の学生の皆さんがいますが、今日まで、学生の感染者は数名に止まり、キャンパス内での感染やクラスターの発生はありませんでした。これも、皆さん一人一人が社会の一員としての自覚を持ち、感染防止のために何をなすべきかを自分で考えながら、授業や研究、進路に関する活動で適切に行動したからです。このような山形大学の学生の皆さんを、私は大変に誇らしく思います。

 世界中で、いまも、新型コロナウイルスによる感染拡大が続き、日本においても様々な社会活動が制限されるなかで、今日、山形大学の学位授与式を、私たちが一堂に会して行う意味を、皆さんと共に考えたいと思います。

 これは、私から皆さんに渡す大学生活で最後の試験問題です。なぜ私たちはこのようなかたちで学位授与式を行うのでしょうか?

 この問題に対する答えを出す前に、新型コロナウイルスが私たちの社会にどのような影響を及ぼしたかを考えてみましょう。

 日本では、これまで政府による2度の緊急事態宣言が発出され、不要不急の移動、外出の自粛要請がなされるなど、私たちの生活は変化を余儀なくされ、多くの忍耐を求められています。移動や外出を控えたことで、周囲の人たちと分断され、時には孤立しているように感じた方々も多くいらしたと思います。

 もともと、人間は集団で生活する生き物として進化しました。そのため、私たちの社会はお互いが協力することで成立しています。協力という行動は、ヒトとヒトの密接なコミュニケーション、言語によるコミュニケーションだけでなく言語によらない身体的なコミュニケーションがあってこそ生じるものです。しかし、インターネットを介したコミュニケーションが発しても、まだ対面での身体性を伴ったコミュニケーションを完全に置き換えることはできていません。

 コロナ禍がもたらす最大の脅威は、社会が発展するために不可欠な協力行動の基盤となる人と人の直接のつながりが失われ、社会的分断や対立が進むことです。そうならないためには、感染防止を図りながらも、対面による社会活動も続けなければなりません。いま、私たちに求められているのは、withコロナの世界での新たな生活様式を見出すことですが、そのためには山形大学で私たちがこの一年取り組んできたように、一人一人が社会の一員としての自覚を持ち、何をなすべきかを自分で考えたうえで、具体的な行動として示すことが必要です。

 先ほどの問題に戻りましょう。なぜ、山形大学はこのようなかたちで学位授与式を行うのでしょうか?

 学位授与式は、皆さんが社会に出てから、withコロナの世界で何をすれば良いのかを自分自身で考えるための始めの一歩であり、他者とのつながりと思いやりを大切にして、より良い社会を実現するための決意を共にする場であると思います。自分で考えて行動する、この決意を私たちが身をもって示すことが、本日、この場において学位授与式を開催する最大の意義であり理由であると私は考えています。

 これが私の考える答えです。現在、山形県と山形市では緊急事態宣言が発出されています。この状況において、いま、この時にも、これから自分が何をなすべきかを考えて、適切に行動するようにお願いします。

 私が皆さんにお話しした「問い」に対する答えは一つとは限りません。今日の学位授与式が皆さんにとってどのような意味をもつのか、これから人生の様々な節目において、この「問い」を思い出して、そのたびに新たな答えを見つけていただきたいと願っています。

 最後になりましたが、社会に出てからも、皆さんの大学生活を支えたご家族や友人の皆さまへの感謝とともに、様々な社会からのご支援に対する感謝の気持ちを持ち続けるようにお願いします。コロナ禍のもとで、国の給付金事業による国民の皆さまからの経済的な支援はもちろんのこと、同窓生の方々、地域の方々や企業各社、そして教職員など大変多くの皆さまから様々な形でのご支援をいただいています。この未曾有の危機に、多くの皆さまからご支援をいただいたことで、学生の皆さんにいかに多くの「期待」が寄せられているのかを、あらためて強く感じました。

 この期待に応えて、すべての卒業生・修了生の皆さんが、明るい未来、より良い社会の実現を目指して、社会の様々な場で活躍することを心から願っております。
 以上で、私の告辞とします。

令和3年3月25日 山形大学長 玉手英利