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令和5年度 新入生に対する告辞

 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。また、皆さんをこれまで支えてこられたご家族のみなさまにも、心からお祝い申し上げます。本日、新入生の皆さんと一堂に会し、このように対面にて令和5年度入学式を挙行することは、山形大学にとって大きな喜びであります。山形大学教職員と皆さんの先輩となる在学生一同、皆さんを同じ学びの場に集う新たな仲間として、心から歓迎します。
 
 はじめに、本日、このような形で入学式をおこなうことの意味を、皆さんと共に考えたいと思います。新型コロナウイルス感染症は、我々の生活を大きく変えました。特に感染症が流行した当初、私たちの行動は今までにないほど大きく制限されました。山形大学でも2年間にわたり対面での入学式を行うことができませんでした。

 新型コロナウイルスはまだ駆逐されたわけではありません。それにもかかわらず、本日、対面で、マスクの着用を各自の判断として入学式を開催できるようになったのは、私たちが、未知の脅威だった新型コロナウイルスについて、科学研究や社会的経験によって知識を深め、それを克服しうるものに変えてきたからです。

 「知識は力なり」という近世の哲学者フランシス・ベーコンの有名な言葉があります。その言葉のとおり、コロナ禍で私たちが学んだのは、社会や自分にとっての脅威や妨げがあるときに、それについて深く知ることが、前に進む力を与えるということでした。本日の入学式はまさに「知識が力になること」を、私たちが行動をもって示すものです。これから、皆さんが大学で学ぶことは全て、自分自身と自分を取り巻く世界を「知り」、「自らの力」とするためにあります。そのことを、今日、心に刻んでほしいと思います。

 「知識は力なり」という言葉で使われた「知識」とは、英語のサイエンスの語源となったラテン語のscientia、つまり経験を通じて科学的に検証された知識です。フランシス・ベーコンの時代に比べて、今は様々な情報が世の中にあふれています。そのなかで、何が信頼できるものなのか、それを自分で見極める力、批判的思考力とかクリティカルシンキングといわれる能力を高めることは、大学での学びの中で重要な目標です。入ってきた情報をそのまま受け入れるのではなく、皆さんがこれまで身につけた知識と、これからそれぞれの学部や研究科で身に着ける知識を使って、その意味を見極め、自分のものにしてください。

 さらに、大学での学びでは、新たな知識を身につけるだけでなく、皆さん自身が各学部・大学院で行われている研究に参加し、これまでにない概念や発見、発明など、新たな知識を生み出すことにも挑戦してください。山形大学では、「持続可能な幸福社会の実現」を将来ビジョンに掲げ、教育・研究・社会共創を通じてwell-beingの実現に貢献することを目指しています。well-beingは幸せと訳すこともありますが、心身が健康であるばかりでなく、一人ひとりが社会的にも満たされた状態であることを意味します。皆さんも、大学の学びのなかで、自分が取り組む新たな「知識」がどのようなwell-beingをもたらすのかについて、考えを深めていただきたいと思います。

 入学にあたって、もうひとつ、皆さんにお伝えしたいことがあります。それは、大学は皆さんにとって社会に出るための通過点ではないということです。18歳を過ぎて、皆さんは社会的にも独立した個人として行動することが認められています。大学で何年間か勉強したあとで、社会に出て活躍する、という考え方は過去のものとなっています。自分がやりたいと思うことを、大学卒業まで待つ必要はありません。自分が思い描く夢を実現するために、学生であっても、皆さんは社会においては自立したプレイヤーとして活動できるのです。

 そのために、山形大学では、皆さんが社会の一員として活躍できる様々な機会を設けています。本学の学生のなかには、研究の成果をもとに新たなビジネスプランを提案して、その実現に向けた研究資金を獲得した先輩もいます。また、授業で学んだことを出発点として地域活性化の活動に取り組み、「輝く県民活躍大賞」を受賞したサークルの先輩もいます。皆さんの人生のなかで、大学時代は多くの時間を自分の思う通りに使える貴重な時期です。この貴重な時間を大切にして、これまで興味を持っていなかったこと、別の世界だと思っていたことにも積極的に挑戦して、自分が活動する世界を大きく広げてください。

 社会全体でウィズコロナの行動変容が進むなかで、新たな生活を始める皆さんには期待とともに不安もあるかもしれません。しかし、大学の中で、皆さんは一人ではありません。必ず、自分の存在を気にかけてくれるたくさんの人が皆さんの傍らにいます。これから多くのことを経験する中で、時には自分一人では解決できないことや、苦しいこと、つらいことに直面するかもしれません。そんな時は、友人やご家族、そして私たち教職員に声をかけてください。私たちは、皆さんとのつながりを何よりも大切に考え、どのような場でも、皆さんが安心して大学生活を過ごせるように、全力で支えてまいります。

 皆さんが、山形大学で充実した日々を過ごされることを心より願い、私からの歓迎の言葉といたします。

 

令和5年4月3日 山形大学長 玉手英利

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