ホーム > 大学紹介 > 学長室だより > 令和7年3月卒業者・修了者向け学長メッセージ

令和7年3月卒業者・修了者向け学長メッセージ

 このたび、卒業・修了を迎え、学位を授与された皆さん、誠におめでとうございます。すべての卒業生・修了生の皆さんに、心よりお祝いを申し上げます。また、本日ご列席のご家族や関係者の皆様におかれましては、新型コロナウイルスの影響で混乱が続く中、多くのご心配を抱えられたことと存じます。それでも、こうして学生の皆さんが無事に卒業・修了の日を迎えられたのは、ご家族や関係者の皆様の温かな支えによるものであり、深く感謝申し上げます。

 現在、キャンパスに目を向けると、朝には授業へ向かう学生たちの賑やかな声が響き、お昼には学食で楽しそうに談笑しながら食事をとる姿が見られます。夕方には、課外活動に励む学生たちの掛け声や吹奏楽の音色がキャンパスに響き渡っています。しかし、皆さんが学ばれた2020年から21年にかけての時期は、コロナ禍によってこうした日常の風景は失われ、行動も制限されて、多くのストレスと不安を抱えて日々を過ごされたことと思います。

 そうした困難の中にあっても、皆さんは目の前に立ちはだかる壁から逃げることなく、前向きに解決策を見出しながら、多くの試練を乗り越えてこられました。そして今、活気を取り戻したキャンパスの姿は、皆さん一人ひとりの努力の結晶です。皆さんは大きな制約を乗り越え、学業を全うし、本日こうして学位を手にされました。この成果は、決して容易に成し遂げられるものではありません。皆さんのたゆまぬ努力に、心から敬意を表します。

 さて、私たちが生きる社会は、かつてない速さで変化しています。国際社会では紛争が絶えず、世界の安定が揺らぐ中で、私たちの生活にも大きな影響を及ぼしています。さらに、テクノロジーの進歩、とりわけAIの発展は、私たちの働き方や企業の在り方を大きく変えています。従来の職業が姿を消し、新たな仕事が生まれる時代において、これまでの常識が通用しない場面も増えていくでしょう。

 さらに、権威主義の台頭や情報の操作は、世界の多くの地域で民主主義の基盤そのものを脅かしています。大きな力をもつ限られた数の人間が世の中を動かすようになると、私たちが得る情報の信頼性が問われ、正しい判断を下すことがより難しくなってきます。このような時代には、多様な視点を持ち、批判的思考を養うことが重要です。そして、私たち一人ひとりが主体的に考え、社会の方向性と深く関わっていく必要があります。

 こうした時代に、皆さんに大切にしていただきたいのは、「自分らしく生きる」ということです。しかし、急激な社会の変化の中で「自分らしさ」を保ち続けることは容易ではありません。それを実現するためには、まず、自分が何を大切にし、何を成し遂げたいのかを問い続けることが必要です。そして、変化を柔軟に受け入れ、異なる価値観を持つ人々と協力しながら、新たな道を切り拓く力を養うことが重要です。

 では、その力をどのように身につけることができるでしょうか。それは、学び続ける姿勢を持ち、多様な経験を積むことにほかなりません。知識を広げ、好奇心を持ち続けることで、どのような変化にも対応できる柔軟な思考が育まれます。特に、自分とは異なる考え方や文化に触れることが大切です。現代社会では情報が溢れているように見えますが、私たちが目にする情報は、検索履歴や関心に基づいて選択的に提供されることが多く、気づかぬうちに狭い価値観の中に閉じこもってしまうことがあります。また、仕事に追われる日々の中で、交流する人々も限られがちです。このような状況では、新たな発想を得ることや、現状を打破するための知見を得ることは困難になります。 

 だからこそ、皆さんには、日常の枠を超えた新たな挑戦に踏み出していただきたいと思います。その機会は、大学が提供しています。キャリアを積む中で新たな学びを深めたいときや、新しいつながりを築きたいときには、ぜひ母校を訪れてください。大学は、社会とともに変化しながら、常にその時代に求められる教育と研究を提供し続けます。

 人生100年時代といわれる今、皆さんの歩む道の先には、社会全体が大きな選択を迫られる局面が訪れるかもしれません。そんな時代を生きる皆さんに、私が期待するのは、社会の変化に受け身になるのではなく、自ら未来を切り拓く主体となることです。不確実な時代だからこそ、可能性は無限に広がっています。変化を恐れず、挑戦する心を持ち、自分の信じる道を歩んでください。皆さんの今後の活躍を、心から楽しみにしています。

 最後に、皆さんが無事に卒業・修了の日を迎えられたのは、多くの方々の支えがあったからこそです。特に、コロナ禍で不安な日々が続く中、ご家族や関係者の皆様、そして各学部の同窓会や地域の皆様が皆さんの生活を支え、応援してくださいました。その温かな思いを忘れず、感謝の気持ちを胸に、これからの人生を歩んでいってください。

 結びに、皆さんの未来が、自分らしく生きることのできる社会となり、すべての人が尊重される平和な世界が実現することを心より願い、私からの告辞といたします。

令和7年3月25日 山形大学長 玉手英利

英語版はこちら