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学長特別対談『20年後の社会から私たちが求められること』

 荘内銀行の頭取として銀行の改革に取り組んだ経験を持つ町田睿フィデアホールディングス株式会社取締役会議長。本学経営協議会学外委員として、経 営者の視点から本学を見てきた町田氏と、学生として、教員として山形大学を見てきた小山学長が、変革の時代にあって、今、大学に求められていることは何 か、将来を見据えて、山形大学のあるべき姿とはどのようなものか、大いに語っていただきました。

これからの「地方」。これからの社会の形。

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町田 睿(まちだ さとる)

フィデアホールディングス株式会社取締役会議長

1938年秋田県生まれ。東京大学卒業後、富士銀行(現在のみずほ銀行)入行、常務取締役などを経て、94年荘内銀行へ。95年より13年間取締役 頭取を務めた。09年10月より現職。北都銀行取締役会長、荘内銀行取締役相談役も兼務。08年4月から本学の経営協議会学外委員を務める。12年4月か ら2年間東北公益文科大学の学長としても活躍。元気の秘訣は、「世のため人のために残りの人生を懸ける」という意識。

小山 本日はよろしくお願いします。
さて早速ですが、大学はいま激動の時期に入っております。今後の20年先まで見据えたとき、先生は日本の、世界の現状をどのように捉えていらっしゃいますか?

町田 国内は急激な人口減少で変わり目に来ておりますし、同時に中国など新興国の台頭で日本を取り巻く世界情勢も激動期になっているわけで、難しい時代に入ったと思っています。

小山 世界の人口は増加していますが、日本の人口は減少していますね。

町田 地球全体では人口爆発と言えますね。21世紀の前半は中近東も含めたアジアが膨張して、21世紀後半はお そらくアフリカ諸国が人口問 題を抱えるのではないかと思っています。いずれにしても「アジアの世紀」と言いますか、西欧文明からアジアへ、という大きな流れの中で、日本はこれからど うやって独自性・主体性を出していくかという点が難しい課題ではないでしょうか。

小山 その20年先の、日本の社会、東北の社会をどのようにイメージしていますか?

町田 いま日本は少子高齢化と人口減少の加速で心配されているわけですが、私はむしろこれが良い刺激になってく れればと思っています。つま り今、変化を求められているということです。少子高齢化と聞くと、明るくない未来のように感じてしまいますが、そうではなく、変化が対応の機会(チャン ス)を生むのだ、と。

小山 トリガーとして「人口減少」を使っていくべきというお考えなのですね。

町田 そうですね。国でも今、地方創生を大きな政策にしていますが、それぞれの地方がしっかりした主体性を持って自分たちの未来を開いていく、これが非常に大事だと思っています。
山形県にしても秋田県にしても、県単位で見れば縮小均衡にならざるを得ません。しかし、日本列島を地域特性の視点から地方を広域化して捉え、広域化することで、自分たちが持っている資源を、自分たちで作り変えていく。こういうことが可能だと思います。

小山 なるほど。人口が少し減ったとしても、もっと広域で人の交流、人材の交流をしていく。これが新しい社会の姿ということでしょうか。

町田 大きな時代の流れを見ると、やはり違った発想を持ち込める人の存在が重要です。これは私が大学に大いに期待しているところでもあります。
それに、この山形県自体が多極分散型ですよね。山形、米沢、そして庄内、新庄。それぞれの文化を競い合う良さがあると思います。キャンパスも県内各地に分 かれていますから、地域的な切磋琢磨もできるわけで、そういう意味で山形大学は、これからの地方分権の核になるのではないかと思いますね。

組織に活力をもたらすマネージメントとは

小山 ところで先生は21年前に荘内銀行へ来られて、今はフィデアホールディングスの取締役会議長をお務めですが、今までやってこられた戦略についてお話しいただけますか?

町田 もともと荘内銀行は庄内地区を営業地盤としていたのですが荘内銀行を預からせてもらった時は庄内地方は山 形県のちょうど1/4。面積 だけでなく人口も、産出額も1/4でした。そこで、庄内地方だけでなく県内全域をマーケットにするため、すぐ県都・山形市に本部機能のかなりの部分を移し ました。山形市に拠点を移すと、仙台が至近になります。私は東北全体がひとつの経済圏になるのではないかと考えていますので、荘内銀行の戦略も面的な広が りを、と考えました。

小山 地域を広域経済圏として捉えるということですね。

町田 同時に仙台進出の手掛かりは個人マーケットだとも思っていました。というのも、庄内地域に限ってみても、 酒田衆だ鶴岡衆だと、それぞ れの経済人は塊を作ってしまってですね、そこに新しい取引を広げていくのは至難の技です。ならば個人のお客様の方が合理的な判断をしてくれる。サービスや 金利が良ければ取引していただけるということで、個人のリテールバンキング(※個人や中小企業を対象とした小口金融業務のこと)で仙台へ進出したのです。

小山 具体的にはどのようなものですか。

町田 その時の戦略がインストアブランチ(※大型商業施設の中にある銀行の支店)で、ショッピングモールなど主 に主婦の方が集まる場所で金 融のサービスをするものでした。新しく店舗を建てる設備投資が要りませんから非常に低コストで、なおかつ女性の力を借りられました。インストアブランチ は、店長をはじめスタッフほとんどが女性です。主婦のお客様とよく話が合うようで、しかも女性は話題を絶やすことがない。それでお客様から「今日は勉強に なったわ」とか「また相談に乗ってね」と言っていただける。当初はスタッフの約6割がパートタイマーでしたが、みなさん非常にやる気を出してくれて、一年 もすると証券外務員や保険の資格などを取ってしまう。それはやはり仕事が面白いからではないでしょうか。

小山 なるほど。「面白さ」をデザインされたわけですね。20年も前から、これからは女性の力が大きくなるとお考えだったと。

町田 私は都市銀行の人事改革に携わっていた時、男女雇用機会均等法が施行された昭和61年4月に、総合職・一 般職という制度を始めまし た。当時は「これからは女性にも男性と同じように目一杯 活躍してもらう軍団をつくろう」という考えでしたが、今では総合職・一般職なんていうものは必要なくなってきていますよね。そのくらい女性の活躍が一般的 になったのだと思います。

小山 大学では、学生数で言うと半分が女性で、職員も管理職の女性が増えてきていますが、教員が少ないのです。工学部ではおそらく3%、4%程度だと思います。これから女性が活躍する時代に向けて、取り組んでいかなければならない課題ですね。

町田 組織というのは一部のエリートだけがやる気を出すより、全員が同じ方向(ビジョン)を向いたほうが強いですよね。ですから一人ひとりを上手に活かすという、それぞれの人が持っているものを花開かせていくことができれば良いと思います。

これからの20年間で求められる大学の役割とは

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小山清人(こやまきよひと)

山形大学長

1949年和歌山県生まれ。山形大学大学院理工学研究科修士課程修了後、山形大学工学部助手、助教授、教授を経て2004年から山形大学工学部長・ 理工学研究科長、07年から山形大学理事・副学長。14年4月より現職。工学博士。専門は高分子レジオロジー工学、超音波工学。学生時代から山形大学ひと すじの「山形大学47年生」。

小山 山形県では今後の20年間で約2割、人口が減ると言われています。これを1割に食い止めるのが大学の役割だと考えているのですが、大学が成すべきことはどんな事柄でしょうか?

町田 地方に拠点を持つ大学は、地域を教材にして、そして発展させる。特にこれが役割かなと思います。地方創生 というのは、地域を挙げて自 分たちの資源にもう一度 光を当て、その地域らしい付加価値を生み出すというものです。その先頭に立つのは「知の拠点」ではないでしょうか。山形大学には東北の地でリーダーシップ を発揮してもらいたいですね。分散しているキャンパスはマネージメントが難しいでしょうが、山形県全体を活性化する、地方創生するうえでは非常に意味のあ ることだと思います。

小山 マネージメントの効率という点では不利ですが、市民の皆さんとの距離という点では有利ですよね。どこからどこまでがキャンパスというのではなく、山形県全域がキャンパスというイメージでいたいと思っています。

町田 それから私は、教育ということが非常に大事だと思っています。いま地球上では新興国を中心に人口爆発を起 こし、生きるための競争をさ せられていますが、下手をすればこれは人類滅亡の引き金を引くリスクもあるわけです。そのリスクを乗り越えられるのは教育だと。それと今、資本主義の世の 中ですが、私はこれも危ないと思っています。資本主義の良いところは「競い合う」ことです。つまりフェアなルールの中で切磋琢磨すること。これが行き過ぎ てしまったら、リスクになるでしょう。最後のところでは倫理と言いますか、モラル。このモラルの無い競争社会というのは心配で、下手をすると人類破滅の道 だと思いますね。

小山 競争とモラルを両立させなければならないですね。

町田 日本人は品性ですとか、いわば徳を大切にする文化を持っています。これに自信を持って世界をリードする。「徳の国」として我々日本人は生きていくべきじゃないかと思いますね。

小山 その「徳」を持った人材を育成する、アイデアをいただけますか?

町田 いま山形大学でも進めておられる、リベラルアーツではないでしょうか。どんなにグローバリゼーション、イノベーションと言っても、この教養という土台が無い事にはリスクを持ちかねない。リベラルアーツのうえに花を咲かせていただきたいと思っています。

小山 人間として、自分の立ち位置をきちんと理解できるような教育が必要ということですね。 日本では昔から「教養人」という考え方がありますし、寺子屋や藩校が大学のひとつのモデルだと思います。その日本の伝統の中で人を育てられたら良いですよね。
後段になりますが、今後 山形大学にこうなって欲しいですとか、こうあるべきだというご意見をいただけますか?

町田 山形大学には、地域と共に、という部分で非常に大きな期待をしています。老衰した日本に活力を持たせて、 この世界の中で日本の存在感 をどう発揮していくか。上杉鷹山公の時代のように自己抑制の効いた、人間として品性の高いリーダーを、大学として数多く輩出てもらいたいと思います。

小山 なるほど、それは取り組みがいのある課題ですね。いま人口爆発を起こしているような新興国も、いずれ老衰してきます。その時のひとつのモデルを、我々が作りたい。

町田 はい、大変だとは思いますが。期待しています。

小山 今日はどうもありがとうございました。