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折に触れて

(07:2022年2月20日)

値上げにふみきろう

 物流経費や原材料費の高騰、原油の高価格化などが絡み、このところ値上げラッシュが起こっている。先日はインスタントラーメンやカップラーメンの老舗である大手食品会社が、製品価格を今年(2022年)の6月から、5%~15%ほど値上げすると発表して、大きな反響があった。  

 さて、このところの値上げラッシュを取り上げた、朝日新聞(2022年)1月31日(月)の「天声人語」を読んでびっくりした。

 今は故人となられたフォークシンガーに高田渡(たかだ わたる)さんがいる。1949年の生まれで、2005年に56歳の若さで亡くなった。1960年代後半に登場した高田さんは、ギター弾き語りのスタイルで、多くのヒット曲を出した。

 高田さんの曲の一つに、政治家が当初「値上げはぜんぜんかんがえぬ」としていたのに、時間とともにそのトーンが次第に変わり、最後は「値上げにふみきろう」と宣言する内容のものがあった。高田さんのこの曲の題名は「値上げ」であり、彼の曲の中で最も知られた曲ではないだろうか。

 いかにも高田さんらしい曲なので、当時ほとんどのフォークシンガーの曲がそうだったように、この曲も高田さんの作詞・作曲であるとずっと思っていた。それが、上記天声人語を読んで、実はこの詩は、詩人の有馬敲(ありま たかし、1931-)さんの作品であると知った。

 有馬さんは毎日の通勤電車の中で新聞を読むのだが、値上げに関するある政治家の発言が、次第に少しずつ‘変化’していくことに気づいたのだそうだ。この政治家の発言を報道した新聞の見出しを、時系列的に並べたのが「変化」と題する20行の短い詩であるという。1971年に出版された詩集『くりかえし』(葦書房)に収められている。この詩に曲を付けたのが高田さんで、曲の題名を「値上げ」としたのだった。

 全20行のうち、1行目、5行目、と3行飛ばしで、最後だけは2行飛ばしで、6行分を紹介したい。以下、「/」は行変えを表す。

値上げはぜんぜんかんがえぬ////今のところ値上げは見送りたい////値上げをせざるをえないという声もあるが////値上げの時期はかんがえたい////年内に値上げもやむをえぬ///値上げにふみきろう

 この詩を高田さんが歌うと、とにかく笑えてしまい、値上げのときっていつもそうなんだよなーと合点し、納得してしまう。この曲は、YouTube上で高田さんの動画や、なぎら健壱さんと坂崎幸之助さんによる動画で聞くことができる。興味のある方はぜひご視聴を。

 天声人語の後半には、有馬さんの会議を取り上げた詩のことも紹介していた。私はこの詩を全く知らなかったのだが、有馬さんの代表的な詩をまとめた『有馬敲詩集』(2016)には、「変化」のすぐ後にこの「会議」という詩が収められていた。初出の詩集は、「変化」と同じく『くりかえし』である。この詩も大変な傑作で、読むにつれクスっとし、そして考えさせられ、反省してしまう。ぜひ、この詩を味わってみてください。

【参考文献】
 有馬敲、2016:『有馬敲詩集』、現代詩文庫225、思潮社、258ページ。