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折に触れて
(01:2021年8月20日)
皆さんは‘心の山’を持っていますか
日本の代表的な山と言えば、富士山である。きれいな裾野持つこの独立峰の美しさは、日本人のみならず日本を訪れる多くの外国人をも魅了する。
さて、ずいぶん前のことになるが、研究船で鹿児島港に入港したときのことである。研究室にいた宮崎県出身の学生Yさんの親御さんが、車で研究船を訪問された。宮崎県や鹿児島県を車で案内してくださるという。
その車中の会話で、宮崎県人の‘心の山’は、霧島連山の韓国岳や高千穂山だという話をお聞きした。
話の中から、‘心の山’とは、単に日常的に見ている山以上のもので、畏敬の思いを持ちつつ、いつも心に思い浮かぶような山のことを指しているようであった。確かに、霧島連山は威容を誇るとともに、天孫降臨の伝説がある神宿る山々である。
会話の中で、私に心の山はありますかと問われたので、即座に私の心の山は「月山」です、とお答えした。
私の生家は、山寺と天童の市街地を結ぶ道路(天童山寺公園線)沿いで、ちょうど山寺と天童市街地の中間の位置にある。生家がある地帯は立谷川(たちやがわ)が作った扇状地にあたり、一面果樹畑となっている。
私が中学生、高校生だった時は、生家の2階の部屋を使っていた。西側の窓からは、右手に荒々しい葉山が、左手に高い山々が連なる朝日連峰が、そして真正面に、両側になだらかな裾野を持つ月山を見ることができた。生家は完全に南北方向ではなく、若干北北東から南南西方向に建っていたため、位置的には西北西にあるのだが、西側の窓からは月山が真正面に見えたのであった。
月山を中心とする「出羽三山(月山、羽黒山、湯殿山)」は修験者の修行場である。すなわち、出羽三山は‘神の山(モンテディオ)’なのである。
窓を開ければいつでも見える月山は、私の家からは毎日太陽が沈む山でもある。夏は緑一色に覆われ、冬は真っ白い雪で覆われる。私は四季折々、いろいろなお化粧をした月山を楽しんだ。
山形は山の多い県である。蔵王の山々も、吾妻の山々もある。それぞれの地域に住む人たちは、それぞれに心の山があるのだろう。ところで、庄内に住む人の心の山は、やはり月山なのだろうか、それとも出羽富士との異名を持つ鳥海山なのだろうか。
この文章を準備するにあたり、日頃鶴岡市にお住いの林田光祐副学長に、庄内に住む人の心の山をお聞きした。答えは、酒田の人は鳥海山で、鶴岡の人は月山です、と明快に返ってきた。藤沢周平は、鶴岡に城を構えた庄内藩をモデルにした海坂藩を舞台にした小説を、数多く出版した。物語を扱ったテレビ番組や映画では、鳥海山よりは月山の方がよく映し出されるらしい。
さて、ここまで長々と‘心の山’のことを書いたのだが、このエッセイを掲載する欄を「がっさん通信」とした理由を説明するためであった。当初私は、「山形大学通信」としようかと考えていたが、広報を担当されている矢作清理事から、もう少し柔らかい名前にした方がいいのではと示唆された。その後の会話の中で矢作理事から、好きな山はありますかと問われ、即座に、私が好きな(心の)山は月山です、と答えたのがきっかけで「がっさん通信」となった。
「がっさん」はもちろん「月山」であるのだが、いろんな情報をまとめて発信するという意味の「合算」でもある。大変よい名前を付けていただいたと思っている。
さて、皆さん、皆さんは‘心の山’を持っていますか。