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折に触れて

(13:2022年8月20日)

It’s raining cats and dogs!

  表題は「降れば、土砂降り」の英語表現である。中学生のときだと思うが‘土砂降り’を英語でこう表現すると聞いて、猫と犬は仲が悪く、出会えばとんでもない大騒動になることから、大雨のことをこのように表現するのだろうと、勝手に解釈していた。閑話休題。

 さて、今月(2022年8月)3日(水)、山形県南部と新潟県北部に、‘線状降水帯‘が発生し、記録的な豪雨となった。気象庁は同日19時15分、「大雨特別警報」(警戒レベル5)を米沢市、南陽市、高畠町、川西町、長井市、飯豊町に発令し、災害発生への備えを喚起した。警戒レベル5の取るべき行動とは、「命の危険 直ちに安全確保!」という最上位のものである。

 3日の降水量は、アメダスの観測点名で記すと、高峰(飯豊町)で292㎜、小国で287.0㎜、長井で234.0㎜であった。8月1か月間の降水量の平年値(1991年から2020年までの30年間の平均値)は、それぞれ173.7㎜、234.7㎜、160.2㎜であるので、1日で1か月分以上の降水量があったことになる。高峰は観測史上最大、小国と長井は8月の観測史上最大の値である。なお、8月10日(水)、山形地方気象台は、「低気圧や前線に伴う大雨(令和4年8月2日~5日)」で、この期間の降水量などの詳細な資料を公表している(末尾にURLを示す)。

 この大雨による被害の全貌は未だ明らかとなっていないが、最上川が複数個所氾濫し、JR米坂線の小白川にかかる鉄橋が崩落したり、飯豊町では橋が崩落したりと、甚大な被害が出ている。

 さて、‘線状降水帯’が注目されたのは、2014年8月19日から20日にかけての、広島の集中豪雨による災害である。広島市安佐南区と安佐北区などの山際の地域で、広範囲にわたり多くの箇所で土砂崩れが起こり、犠牲者も70名を超した。この時の集中豪雨では、‘バックビルディング現象’の発生が原因とされた。バックビルディング現象とは、背の高い積乱雲が、同じような位置で次々と発生して下流側に流されることから、高層建築が(背後に)林立するようなイメージでこう呼ばれたのであろう。線状降水帯の形成のメカニズムの一つである。

 その後も毎年のように線状降水帯による災害が発生するため、気象庁は昨年(2021年)6月、線状降水帯の発生を半日前に予測して「顕著な大雨に関する気象情報」を発表することを決めた(末尾のURL参照)。そして同年8月には、広島県に対し初めて線状降水帯の発生予報が発表された。

 今回8月3日の例では、この予報は出されなかったが、実況観測に基づいた「記録的短時間大雨情報」は3日から4日にかけて10回も出され、そのうちの2回は小国町の降雨に対してであった。また、「顕著な大雨に関する全般的気象情報」が、3日午前には青森県や秋田県に、午後には山形県や新潟県に、合計5回出されている。さらに、冒頭に記したように、同日19時15分、山形県置賜地域に「大雨特別警報」(警戒レベル5)が発表された。

 この線状降水帯は、既に指摘されているように、東北沖に抜けた低気圧から東西に伸びた前線に沿ってできたものである。通常、低気圧は中央部から南東側に温暖前線を持ち、中央部から南西側に寒冷前線を持っている。今回は、この南西側の寒冷前線が、東西に長く伸びて‘停滞前線’(動かない前線)化しているのが特徴であった。この停滞前線に、北からは寒冷な大気が、南側からは暖かく湿った大気が、それぞれ吹き込み収束する(寄り集まる)ことで、積乱雲が同じような位置に次々と出来て線状降水帯を発生させた。

 この前線帯には水蒸気が大量に供給され続けたが、それを可能にしたのは、直前に発生していた台風6号であると指摘されている。台風6号は、7月31日12時に沖縄本島付近で発生して北上し、8月1日21時に朝鮮半島西岸で消滅した。この間、台風6号は、東シナ海上で大量の海水を蒸発させ、水蒸気として大気へ供給したというのである。これはまだ仮説の域を出ないが、早晩詳細な解析により解明されるであろう。

 東北地方に住む私たちにとって、「土砂降り」と表現されるような状態の雨に出会うことはこれまでめったになかった。前の大学の研究室には九州出身の学生もいたが、彼らは異口同音に、東北地方の雨は‘優しい’ですねと表現していた。雨粒が小さく、降り方も大人しい、というのである。

 それが最近は、今回の豪雨に象徴されるように、「降れば、土砂降り」状態が多くなってきた。このことは実際のデータにも現れている。気象庁によると、東北地方では、1時間降水量が30㎜を超える降雨の年間発生数が、約30年で1.9倍になったという(山形県の気候変動:末尾にURL)。なお、1時間に30mm以上の雨とは、「バケツをひっくり返したように降る雨」と表現される。

 この原因は、地球温暖化の進行である。将来予測においても、豪雨発生の頻度は、今後(今以上の)追加的な緩和策を取らない4℃上昇シナリオで、21世紀末は20世紀末に比べて約2.5倍に、パリ協定の2℃目標が達成されたシナリオで、約1.6倍に増加すると見積られている。

 集中豪雨という短期間の気象現象であるが、地球温暖化が背景となって、その頻度と強度を増していることを私たちは認識しなければならない。豪雨による土砂崩れや浸水災害の低減のためにも、地球温暖化を一刻も早く抑えこむことが重要なのである。容易なことでは地球温暖化をくい止めることはできないのだが、まずは何ができるか、日々の私たちの行動を問い直す必要がある。

【気象庁等のURL情報】
1.山形気象台「低気圧や前線に伴う大雨(令和4年8月2日~5日)」資料のURL
https://www.jma-net.go.jp/yamagata/pdf/support/storm/2022_1.pdf
2.「線状降水帯に関する各種情報」のURL
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/kishojoho_senjoukousuitai.html#b
3.山形気象台・仙台管区気象台発行の「山形県の気候変動」リーフレットのURL
https://www.data.jma.go.jp/sendai/knowledge/climate/change/leaf/yamagata_l2022.pdf