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折に触れて
(14:2022年9月20日)
2022年の梅雨入りと梅雨明けについて
今月(2022年9月)1日(木)、気象庁は「夏(6~8月)の天候」の報道発表を行った(末尾にURLを示す)。この中の3番目の項目に、「令和4年の梅雨入り・明け(確定値)」がある。今年の梅雨入り日と梅雨明け日の、既にその都度報道されていた速報値(末尾にURL)と、今回の確定値とを、表1に示す。
気象庁は日本周辺における気圧配置や前線の形成、その動き、各地の天気の状態などから総合的に判断し、梅雨の開始時期(梅雨入り日)と終了時期(梅雨明け日)を判定して発表している。ただし、ある日を境にして急激に天気が変わるわけではなく、ある程度の移行期間(5日程度)をおいて変わるので、その中ごろの日を梅雨入り日や梅雨明け日としている。日本は東西、南北にある程度の範囲を持っているので、地域的な特性を踏まえ12の地域に区分し、それぞれに対して判定する。
さて、今年の梅雨入りと梅雨明けである。速報値では、九州以北に限れば6月中旬に梅雨入りし、東北北部を除き、6月末までには梅雨明けした、と発表されていた。そのため、ほとんどの地域では、約2週間で梅雨が終わったとのことで、「史上最短の梅雨になった」と報じられていた。
この報道の後、7月に入ると、上旬は高気圧に覆われ、気温の高い日が続いたものの、中旬になると、西・東・北日本では低気圧や前線、湿った空気の影響で、降水量の多い状態が続くことになる。このため、「戻り梅雨」のような様相を呈していた。
このようなことで、9月に入ると、気象庁が梅雨入り日・梅雨明け日を確定することを知っている人は、今年の梅雨入り日・梅雨明け日は、速報値から変更されるのではないかと思っていたのではなかろうか。
そして冒頭に記した9月1日の気象庁の報道発表である。梅雨入り日は奄美・北陸・東北南部・東北北部を除き、概ね速報値に近い日であったが、梅雨明け日は大幅に変更された。九州南部以北の梅雨明けは、速報値より1か月ほど遅い、7月下旬とされた。さらに、北陸・東北南部・東北北部に至っては、「特定できない」との判定であった。この9月1日の報道発表を受け、翌日の新聞紙上では、「梅雨明け、最短ではなかった」「一転して、長期の梅雨に」との表現で、梅雨明け日の確定を大きく報じた。
速報値と確定値が異なることは珍しいことではなく、これまでもかなり頻繁に起こっているのだが、今年のように1か月も異なることは珍しい。確かに、7月の「日々の天気図」(末尾にURL)を見ると、14日ごろまでは低気圧の通過はあるものの日本周辺には停滞性の前線(梅雨前線)は形成されていない。それが15日以降になると、再び停滞性前線が日本付近に現れるようになる。気象庁は、この状態を「梅雨の戻り」ではなく、「梅雨の継続」とみなしたのであった。
大気は無限とも言える大きな自由度を持つ系(システム)である。ここで‘自由度’は、‘取りえる状態の数’とも言い換えられる。大気の現象では、全く同じ状態が出現することはなく、また、時間的にも時々刻々変化している。このような複雑系である気象システムを相手に、このような状態は梅雨で、このような状態は梅雨ではない、と2値化(yes or no)して断定することはどだい無理とも言える。それでも可能な限り類型化して理解することも重要なことであるので、無理を承知で行っているとも言える。
また、梅雨は春から夏への遷移するときに1回(のみ)経験する出来事、としているのも縛りが強すぎるのかもしれない。「戻り梅雨」は「2回目の梅雨」であるとし、梅雨は何度でも起こりえる、と扱うのも一つの考え方かもしれない。
なお、気象庁が速報的に出す梅雨入りや梅雨明けに関する表現は、「梅雨入りしたとみられる」や「梅雨明けしたとみられる」である。これが多くのメディアでは、気象庁が「梅雨入り宣言した」や「梅雨明け宣言した」として報道してしまうことが多い。きっと気象庁では、‘宣言’なんてしていないのになーと思っているに違いない。
自然現象はとても複雑で、一筋縄ではいかないものです。
【参考とした資料を掲載している気象庁のURL】
1.「夏(6~8月)の天候」
https://www.jma.go.jp/jma/press/2209/01b/tenko220608.html
2.令和4年の梅雨入りと梅雨明け(速報値)
https://www.data.jma.go.jp/cpd/baiu/sokuhou_baiu.html
3.「昭和26年(1951年)以降の梅雨入りと梅雨明け(確定値)」
https://www.data.jma.go.jp/cpd/baiu/index.html
4.2022年7月の「日々の天気図」
https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/wxchart/quickmonthly.html?show=202207
表1.2022年の梅雨入り日・梅雨明け日の速報値と確定値。
2022年9月1日の気象庁報道発表「夏(6~8月)の天候」より。速報値と確定値が5日以上ずれた日の確定値に下線を引いた。
|
梅雨入り日 |
梅雨明け日 |
||
地域名 |
速報値 |
確定値 |
速報値 |
確定値 |
沖縄 |
5月4日 |
5月4日 |
6月20日 |
6月20日 |
奄美 |
5月11日 |
5月5日 |
6月22日 |
6月22日 |
九州南部 |
6月11日 |
6月10日 |
6月27日 |
7月22日 |
九州北部 |
6月11日 |
6月11日 |
6月28日 |
7月22日 |
四国 |
6月13日 |
6月11日 |
6月28日 |
7月22日 |
中国 |
6月14日 |
6月11日 |
6月28日 |
7月26日 |
近畿 |
6月14日 |
6月14日 |
6月28日 |
7月23日 |
東海 |
6月14日 |
6月14日 |
6月27日 |
7月23日 |
関東甲信 |
6月6日 |
6月6日 |
6月27日 |
7月23日 |
北陸 |
6月14日 |
6月6日 |
6月28日 |
特定できない |
東北南部 |
6月15日 |
6月6日 |
6月29日 |
特定できない |
東北北部 |
6月15日 |
6月6日 |
7月26日 |
特定できない |