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折に触れて

(22:2023年5月20日)

                   美術館や博物館のキャンパスメンバーズ制度


 ゴールデンウィーク半ばの数日は東京で過ごした。その中の1日、5月4日(木)に、待ちに待っていた二つの美術展に出かけた。一つは六本木の国立新美術館の「ルーヴル美術館展 愛を描く」(以下、ルーヴル展)であり、もう一つは皇居に隣接した北の丸公園にある東京国立近代美術館の「70周年記念展 重要文化財の秘密」(重文展)である。

 どちらの美術展とも密の状態をできるだけ避けるとのことで、‘時間入場制’を導入していた。そのため予約は日時指定であり、ルーヴル展は午前10時からの、重文展は午後2時からの入場チケットとした。

 これら二つの美術展は前々から新聞に解説記事が出たりしていたもので、おおよその‘雰囲気’らしきものは分かっていたが、やはり、実際の作品を目の前にするとその素晴らしさ、美しさ、迫力には圧倒される。

 ルーヴル美術展の目玉の作品はフランソワ・ジェラール(1770-1837)による「アモルとプシュケ」(または「アモルの最初のキスを受けるプシュケ」、1798)であった。背中に羽の生えた愛の神様プシュケ(キューピッド:cupid)は、キリスト教画などの多くの作品に子供の格好で現れるが、この作品は若者として描かれているのが、私にとっては新鮮であった。一方で、18世紀後半になっても、このような聖書やギリシャやローマ時代の神話に基づく主題の絵が描かれ続けていることに驚いた。この主題は時代を超えたものであることを物語っている。

 重文展での‘私の最大の楽しみ’は、この展覧会を取り上げた新聞記事で必ず上げられていたが、高橋由一(1828-1894)の油絵「鮭」(1877、東京藝術大学所蔵)を鑑賞することであった。初めてこの作品を知ったのは中学校の美術の教科書ではなかったろうか。写真で撮影したような、本物そっくりという写実的な描写が印象的であった。そして一方では、なぜこのような鮭が絵の主題になるのかと不思議に思っていた。今回、本物を見ることができ、本当に良かった。鮭の皮と、一部切り取られた身の部分の質感の違いなど、それはそれは素晴らしいものであった。この絵は、日本人によって西洋の技法(油絵)を用いて本格的に描かれた最初の絵画、と位置づけられているらしい。

 さて、どちらの展覧会も十分楽しんだのであるが、入場料のことである。ルーヴル展は2100円、重文展は1800円であった。首都圏で開催されるほとんどの展覧会はこのような金額のようなのだが、少し高いのではないかとも思う。もちろん映画やコンサート、観劇などとは比較できないのであるが、少し割り高に思える。

 これについて古賀太氏は、『美術展の不都合な真実』(新潮新書、2020)でそのからくりを紹介している。現在の特別展や企画展の多くは、新聞社やテレビ局などのメディア系が主導しており、開催費用を全部メディアが持つ‘イベント’として開催されているという。その結果、多くの人たちを呼び込もうとするため、事前に大量の宣伝がなされる。結局、開催経費がかかり、また、利益も上げなければならないので、勢いチケットも高い料金設定となる。古賀さん自身も元は某新聞社で主宰する側にいたのだが、このような開催には批判的である。美術館の学芸員のアイデアと地道な交渉による本来の美術展の開催を期待している。

 確かに、「ルーヴル展」は読売新聞社グループが主催に加わり、「重文展」は毎日新聞社と日本経済新聞社が主催に加わっている、メディア主導の美術展であった。

 さて、仙台には宮城県美術館と仙台市博物館があるが、双方とも「キャンパスメンバーズ制度」を導入している。そして実際、多数の大学等の教育機関が加盟していた。構成員の人数によって会費は異なるが、学生と教職員合わせて2万5千人ほどの東北大学は、今から10年ほど前は、年間50万円であった(現在の会費は不明)。

 加入した機関と所属構成員には種々の特典が与えられる。観覧料で言えば、常設展は無料で、特別展も半額となる。この特典、私のように美術展や博物展を楽しみにしている構成員にとっては、とても有難い。この制度では名誉教授も構成員とみなされており、私は現在もこの恩恵を受けている。

 宮城県美術館や仙台市博物館の企画展の観覧料は首都圏より安く、1500円程度である。それが一人当たり750円に割引になるのであれば、600~700名が利用すれば、大学にとっても元が取れた状態となる。今から10年ほど前でも東北大関係者の利用者は2,000人を超えていたので、十分元が取れていたのではなかろうか。

 気になってインターネットで調べてみると、独立行政法人国立美術館に所属する国立西洋美術館などの7つの美術館もこの制度を持っていた。全国90数校の大学がこの制度に加盟しているようである。本県の東北芸術工科大学も、7館のうち5館のメンバーであった。芸術系の大学であるので、このような‘投資’にも力を入れているのだろう。