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折に触れて

(23:2023年6月20日)

                      今年の全国新酒鑑評会


 山形市の一世帯(2人以上)当たりのラーメン消費額の「奪還」に続き、もう一つの奪還が新聞紙上に踊った。とは言っても、奪還の言葉を使ったのは一紙(読売新聞)だけで、他紙は「日本一」の表現だった。先月(2023年5月)25日(木)、全国新酒鑑評会で、都道府県別の金賞獲得数で13年ぶりに山形県が単独1位となったとの報道である。ここ9年間は福島県がトップで、その10連覇を阻んだとのことであった。

 今年のトップ5は、山形県(20)、兵庫県(19)、長野県(16)、新潟県(15)、福島県(14)であった。()内の数字は、金賞獲得蔵元数。今年の鑑評会は、2022年酒造年度(昨年7月から今年6月まで)に作られた酒に対するもので、一つの蔵元で一つの作品しか出品出来ないとのこと。今年は818の蔵元から出品があり、入賞は394、その中で特に優秀な218が金賞に輝いた。

 出品できる酒は、精米歩合が60%以下の吟醸酒で、酸度が0.8%以上のもの、水などを入れてアルコール分を調整しない原酒、という縛りがあるのだそうだ。このうち、精米率やアルコール分の無調整はそうだろうと思うのだが、酸度が条件に入っているのはどうしてだろう。酒にとって本質的な意味があるとは思うのだが。

 さて、結果の発表の日は前日の24日(水)であった。この日NHKテレビでは、5時台のニュースからこの話題を報じていた。福島県の名門蔵元から中継もしており、恐らく10連覇が分かった時点で、喜びの声などを流すように手配していたのだろう。新聞記事によると、福島県は10連覇を予想して、その祝賀セレモニーを計画していたのだそうだ。10連覇はならなかったが、このセレモ二―は「金賞を祝う会」と名称を変更して行われたという(河北新報)。

 東日本大震災から2年後の2013年5月、福島県は2010年5月以来3年ぶりの日本一に輝いた。その後日本一を続け、2019年酒造年度の金賞審査は中止になったものの、昨年まで9連覇を達成していた。原発事故後、福島県の農産物や水産物は、放射線被ばく被害や、その風評被害にあって、消費者からは敬遠されがちな対象であったことは否めない。そんな中で、新酒鑑評会での金賞数日本一は、福島県民を大いに元気づけたであろう。また、蔵元の人たちもそれを励みに、品質の良い酒の生産に精進したことは間違いない。今回は残念な結果であったが、また、日本一の座を目指して頂きたい。

 新聞とインターネットの記事から、酒造年度ごとの金賞数ランキングベスト3の推移を表1に示す。2000年代は新潟県が圧倒的に強く、2010年代になると今度は福島県が圧倒的となる。その他の県では、山形県が単独1回で同率で2回の3回、兵庫県と長野県が同率で1回ずつにしか過ぎない。

 新聞紙上では、今年福島県が苦戦した理由の分析もなされていた。出品する8割の蔵元は兵庫県産の「山田錦」を使っているという。数ある酒造好適米の中でも群を抜いているらしい。そういえば、あの山口県に蔵元がある「獺祭」も、兵庫県産山田錦で作られている。昨年の9月は高温が続き、山田錦は想定以上に「硬かった」のだという。そのため、「米を溶かすために多くの水が必要で、糖分が低くなり香りも出にくくなった」のだという(河北新報)。

 一方で、山形県の酒が健闘した結果も分析されている。金賞を受賞した半数のお酒は、山形県が開発した酒米「雪女神(ゆきめがみ)」が使われていたからだそうだ。山形県はこれまでも酒造好適米の開発に取り組み、「出羽傪々(さんさん)」(1995年)や「出羽の里」(2005年)を発表してきた。そして2015年に発表したのが、本県最高峰の酒造好適米である「雪女神」だったのだという。

 県酒造組合の会長や県の酒造りのアドバイザーを務めてきた方からは、「行政、農業関係者、蔵元が、三位一体となって取り組んできた成果だ」や、「情報を共有しながら互いに競い合ってきたおかげ」などのコメントが出された。山形県の蔵元は、その時々の流行を追っての酒造りでなく、真に美味しいお酒を目指しての酒造りに力を入れているとの報道もあった。

 ところで、私が50年過ごした宮城県の蔵元のことである。他県よりもいち早く純米酒の復活を目指した県として知られている(と思う)。私もお気に入りの銘柄がたくさんある。表1の受賞ランキングベスト3からは、ここ20年で、2位に1回、3位に2回登場しているだけで、ちょっとさびしい。表1を掲載しているインターネットの記事には、都道府県別金賞受賞率(出品数に対する金賞獲得数)のベスト10も載っていた。これを表2に示す。なんと宮城県が2位を大きく引き離してダントツの1位である。もっとも絞って出品したのだろうと言われればその通りなのだが、これで少し安心しました(!?)。

 さて、調子に乗って都道府県別の蔵元の数を調べてみた。これを表3に示す。お酒造りは、お米と水、そして気候が勝負なので、「東で多く、西で少ない」だろうと思ったのだが、そうでない例外の県があったりと、なかなか面白い。九州や沖縄は、それぞれ泡盛や焼酎の文化なので、数が少ないのは納得する。ただ、福岡県(6位)・大分県(18位)・佐賀県(24位)の九州北部3県と、鹿児島県(46)・宮崎県(45位)・熊本県(42位)、長崎(39位)の南部4県の違いは明瞭である。何の要素が効いてこういう差が生じたのだろうか。

 ともあれ、全国新酒鑑評会、こういう競い合いは大歓迎ですね。日本酒の品質がますます上がることが期待できる。さあて、今日も美味しい日本酒が待っていそうだ。

 表1 酒造年度ごとの金賞数ベスト3都道府県。()内の数字は金賞の数。

酒造年度

1位

2位

3位

酒造年度

1位

2位

3位

2002

新潟(23)

山形(20)

広島(16)

2013

福島・山形(17)

宮城(16)

2003

山形(24)

新潟(22)

福島・秋田(13)

2014

福島(24)

山形・新潟(15)

2004

新潟(23)

山形(16)

宮城(14)

2015

福島(18)

山形・兵庫(17)

2005

福島(24)

山形(18)

秋田・新潟(16)

2016

福島(33)

宮城(20)

秋田(16)

2006

新潟(24)

福島(21)

山形(19)

2017

福島・兵庫(19)

新潟(14)

2007

新潟(25)

福島(17)

秋田・山形(16)

2018

福島(22)

秋田(18)

兵庫(16)

2008

新潟(22)

福島・山形(18)

2019

金賞の審査(決審)なし

2009

福島(20)

新潟(18)

秋田・山形・長野(17)

2020

福島・長野(17)

秋田・新潟(13)

2010

新潟(23)

福島・兵庫(19)

2021

福島(17)

秋田・兵庫(13)

2011

新潟(24)

福島(22)

兵庫(20)

2022

山形(20)

兵庫(19)

長野(16)

2012

福島(26)

兵庫(17)

秋田・新潟(15)

 

(出典:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230519/k10014067801000.html

 
表2 都道府県別金賞受賞率(2011年酒造年度から2017年酒造年度までの7年間の平均)

順位

都道府県名

受賞率(%)

1

宮城

61.0

2

福島

54.4

3

高知

47.1

4

秋田

44.9

5

岩手

44.2

6

宮崎

41.7

7

山形

40.4

8

青森

40.3

9

兵庫

39.1

10

栃木

36.9

(出典:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230519/k10014067801000.html

 
 表3 都道府県別蔵元数(全1164蔵元:2021年当時)

順位

蔵数

都道府県名

順位

蔵数

都道府県名

順位

蔵数

都道府県名

順位

蔵数

都道府県名

順位

蔵数

都道府県名

1

88

新潟

9

34

広島

21

25

栃木

愛媛

31

16

青森

富山

高知

41

10

山梨

2

72

長野

12

30

宮城

愛知

42

9

神奈川

3

58

福島

23

22

島根

42

8

熊本

4

56

兵庫

14

28

秋田

千葉

山口

24

21

石川

佐賀

34

14

徳島

44

5

香川

5

49

山形

35

13

和歌山

大阪

鳥取

45

2

宮崎

6

40

福岡

26

20

群馬

46

47

1

鹿児島

沖縄

7

 

37

岐阜

岡山

17

27

埼玉

27

19

福井

18

26

奈良

滋賀

大分

28

18

三重

38

12

北海道

 

9

 

34

茨城

京都

29

17

岩手

静岡

39

11

東京

長崎

(出典:https://nlab.itmedia.co.jp/research/articles/783689/