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折に触れて

(25:2023年8月20日)

                     最近読んだ本から(2023年8月)

 「最近読んだ本から」の欄の原稿がたまったので、この欄でも紹介したい。

1.『目的への抵抗 シリーズ哲学講話』
著   者:國分 功一郎(こくぶん こういちろう:東京大学大学院総合文化研究科・教授、専門は哲学)
出版社等:新潮社、新潮新書991、2023年4月20日、206ページ
<一言紹介>
「はじめに-目的に抗する<自由>」の冒頭の段落を引用する。「自由は目的に抵抗する。自由は目的を拒み、目的を逃れ、目的を超える。人間が自由であるための重要な要素の一つは、人間が目的に縛られないことであり、目的に抗するところにこそ人間の自由がある」(3ページ)。以上は著者の暫定的結論で、本書にこの結論にたどり着いた過程が書かれる。2020年と2022年に行った二つの講話が基になった。コロナ危機の訪れとともに考え始めたこと、突き詰めていった挙句に考えに至ったことが記される。現在進行形の現状報告であり、著者の『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社、2011年)の続編に位置づけられる。イタリアの哲学者、ジョルジュ・アガンベンがコロナ禍の中で問題提起した論考が本書の基となった。海外ではアガンベンの論考は炎上し、大きな批判が巻き起こったという。しかし、日本では反応は無かった。副題のように、この哲学講話は今後シリーズ化される。

2.『藩邸差配役日日控(はんていさはいやくにちにちひかえ)』
著   者:砂原 浩太朗(すなはら こうたろう:作家)
出版社等:文藝春秋、2023年4月30日、250ページ、初出は「オール讀物」、2021年12月号から2023年1月号までの間で掲載<一言紹介>
里村五郎兵衛(ごろべえ)は、神宮寺藩七万石の江戸藩邸の差配役。藩邸の管理を中心に、殿の身辺からふすまや障子の張り替え、厨の事まで目を配る要の役で、差配役はその頭。何でも屋との陰口も。神宮司藩の江戸藩邸は、江戸家老大久保重右衛門と留守居役岩本甚内の二派に分かれてしのぎを削っていた。ある日、藩主の世継ぎである亀千代は、お忍びで上野の山に花見に出かけるが行方不明に。差配方は探索を命じられ、上野の山を探索するものの・・・。「拐し(かどわかし)」「黒い札」「滝夜叉」「猫不知(ねこしれず)」「秋江賦(しゅうこうふ)」の5つの物語。五郎兵衛には二人の娘がいるが、妹の澪は実は五郎兵衛の亡き妻の妹咲乃と、藩主和泉守正親との子であった。そうは知らない亀千代は、いつか澪を娶りたいと五郎兵衛に懇願する。五郎兵衛は、藩主との約束を破り、それは叶わぬことと真実を亀千代に告げたのであった。

3.『コメンテーター』
著   者:奥田 英朗(おくだ ひでお:作家)
出版社等:文藝春秋、2023年5月10日、271ぺージ、初出は「オール讀物」、1編は2007年に、他の4編は2021年~2022年にかけて掲載
<一言紹介>
ついに伊良部総合病院神経科の伊良部一郎先生と看護師マユミちゃんが帰ってきました。『イン・ザ・プール』(文藝春秋、2002年、第131回直木賞受賞作)、『空中ブランコ』(2004年)、『町長選挙』(2006年)の3部作に続く、17年ぶりの伊良部シリーズ。今回も伊良部先生は絶好調。書名の「コメンテーター」を含み、「ラジオ体操第2」「うっかり億万長者」「ピアノ・レッスン」「パレード」の5編を収録。人間は社会生活を営む上でいろんなストレスがかかり委縮してしまう。そんな人たちを伊良部先生は、ロックミュージシャンでもある看護師マユミちゃんとともに、奇想天外な行動療法で治療する。ところで、伊良部先生シリーズがドラマ化されないのかなと思っていたのだが、今回、2005年に『イン・ザ・プール』が松尾スズキさん主演で映画化されていることを知った。その当時、私はひそかに、伊良部一郎先生は故伊良部秀揮投手(1969-2011)に決まり(!)と思っていたのだが。