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折に触れて

(26:2023年9月20日)

                     国際研究集会も温暖化に配慮して開催

 地震学や火山学、気象学や海洋物理学などの地球物理学系の学協会をまとめた国際学術組織を、IUGG(International Union of Geodesy and Geophysics:国際測地学及び地球物理学連合)と呼んでいる。その傘下に、上記の学術分野ごとの学協会が8つ設置されている。海洋物理学が専門である私の場合は、IAPSO(International Association of Physical Sciences of the Oceans:国際海洋物理科学協会)が関連する組織となる。


 日本学術会議には、これらIUGGと8つの学協会の対応組織がある。IUGGは地球惑星科学委員会「IUGG分科会」が、IAPSOはさらにその下部組織の「IAPSO小委員会」が国内対応体である。

 IUGGは4年に一度、IAPSOは2年に一度、世界各地で総会と国際研究集会を開催している。この集会には、世界中から研究者やその家族が数千人規模で参加する。一大イベントであるので、各国が名乗りを上げて研究集会を誘致することが一般的である。中でも4年おきに開催されるIUGGは、地球物理学系の研究者にとって‘オリンピック’であり、多くの研究者がアピールする成果を持って参加しようと手ぐすねを引いて待っている。

 IUGG総会が日本で開催されたのはこれまで1回のみで、2003年7月に札幌を会場として行われた。私は当時、日本学術会議地球物理学研究連絡委員会幹事と、海洋物理学研究連絡委員会委員長を務めていた関係で主催者側であった。天皇・皇后両陛下のご臨席を仰いで開会式を行った札幌IUGG総会には、世界中から4000名を超す研究者の参加があった。

 前置きが長くなったが、この(2023年)8月24日行われた日本学術会議のIAPSO小委員会の時、IUGGは研究集会などの開催にあたり、出来るだけ二酸化炭素などの温室効果気体の排出を抑制する活動をするようにとの決議を行っていたことを知った。そしてIAPSOも、この決議に従い、研究集会開催についての行動計画を採択していたことも知った。

 IUGGの決議とは、2019年にカナダ・モントリオ―ルで開催された総会で決議されたもので、「気候変化(注:地球温暖化のこと)の原因とその帰結をよく知っている研究者コミュニティは、二酸化炭素排出量の削減を行うため、これまでの慣行を廃止し、模範的な態度を示すべきである」と謳っている。

 IAPSOは今年(2023年)7月にドイツ・ベルリンで開催されたIAPSO総会で、このIUGGの決議に従った行動計画を採択した。その全訳を末尾に参考資料として挙げる。その中では、IAPSO総会は、開催場所はできるだけ旅行に便利の良い場所を選ぶこと、対面とオンラインのハイブリッド開催とすること、旅行では可能な限り陸上交通機関を利用すること、などが謳われている。

 従来、総会や研究集会の開催地は、比較的大きな都市であるが、風光明媚なところ、あるいは歴史的なところ、という観光的要素を持ったところで開催されることが多かった。研究集会ではあるが、観光の側面も無視できなかったのである。今回の決議や行動計画は、温暖化対策は待ったなしとのことで、二酸化炭素排出削減を第1に考慮して開催地を選ぶことを求めたのである。

 大勢の研究者が集まる研究集会には、これまでも確かに批判があった。実際、地球温暖化を議論するIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)の会合にも批判が出て行た。会合を開くたびに、多くの研究者が飛行機を使って全世界から集まるので、多くの二酸化炭素を排出しているのではないか、という批判である。

 数年前、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんができるだけ飛行機を使わずに移動をしているということで話題になった。ヨーロッパでは移動は飛行機を使わず、列車などの陸上交通機関を使うことが奨励されている。多くの人がこの考えに賛同しており、飛行機を利用することは、「Flight shame(飛び恥)」とも呼ばれているらしい。

 エネルギーの消費量は移動の速さの2乗に比例するので、時間はかかっても、ゆっくりした移動をすることで二酸化炭素排出量を削減できる。なかなか旅行もできないのであるが、次の旅行では飛行機による移動を考えずに、地上での移動で、その移動自身を楽しむことにしようと、今年の暑い暑い夏を経験した今、そんな風に考えている。

【参考: IAPSO行動計画の全訳(訳は筆者)】

IUGG決議1「研究者コミュニティによる二酸化炭素排出削減」を実現するためのIAPSO行動計画

IAPSOは2023年7月のIUGGベルリン総会において、二酸化炭素排出削減のために、以下の行動計画を採択した。IUGG傘下の協会として、IAPSOは、2年ごとに対面での研究集会を開催している。そのうちの1回は、4年ごとに行っているIUGG総会と共同開催である。対面での会合は、科学や運営についての諸課題に対して深い議論ができることや、ネットワークを作る機会を与えるなど、多くの利点を有している。これら2年に1回の会合に出席するための飛行機利用の旅行を引き続き支援するつもりであるが、IAPSOは、以下に記すいくつかの特別な活動を通して、全体の二酸化炭素排出量を削減するために行動する。

・ 会合場所は、(例えば、旅行におけるハブや人口の中心地付近で会合を開催するなど)旅行の縮小に向けて最適化されるべきである。

・ IAPSO集会は、対面プログラムを補完するために、オンライン参加を奨励し、促進する。

・ IAPSOは飛行機による旅行に代わり、地上交通の利用を奨励するとともに、大部分の参加者が地上交通により8時間以内で到着できる場所での開催を推奨する。

・ 2023年7月より、IAPSOはIUGG総会期間中に開催されない単独のIUGG運営会議には、オンラインでの参加のみとする。対面での参加は、運営会議が列車や地上交通で移動できるなど、特別の場合にのみ容認される。

・IAPSOは年次会合をオンラインやハイブリッド会合により行うこととする。