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折に触れて

(29:2023年12月20日)

                               

「地球沸騰化」の時代

 年末になるとその年の10大(重大)ニュースを初め、子供に付けた名前、ヒットした商品など、多くのランキングが発表される。その一つにその年の「流行語」がある。今月(2023年12月)1日、「現代用語の基礎知識選 2023ユーキャン新語・流行語大賞」が発表された。当然のことながら、その年の世相を反映したり、話題になったりした言葉が選ばれるので、世間の注目度も高い。今年の大賞は「アレ(A.R.E.)」であった。プロ野球チーム阪神の岡田彰布監督が、選手たちが過度に意識しないようにと、「優勝」という言葉を使わず‘アレ’と呼んだのだそうだ。選手や阪神ファンばかりでなく全国的に話題となった。これが効いたのであろうか、阪神は18年ぶり6度目のリーグ優勝を果たし、かつ、38年ぶり2度目の日本一となった。

 大賞ではなかったがベスト10に入った言葉に「地球沸騰化(global boiling)」がある。この言葉は、国際連合(国連)事務総長アントニオ・グテーレス(António Guterres)氏が、今年7月27日に国連本部で行われた記者会見で用いた表現に由来している。7月の月平均気温は観測史上最も高くなるとの気象機関(ヨーロッパのCopernicus Climate Change Service:コペルニクス気候変動サービス)の発表を受けて、国連として地球温暖化抑止の行動を喚起するための記者会見であった。

 7月27日に行われたこの記者会見の様子は、国連のウェブサイトで見ることができる(末尾にURLを記す)。約8分間のスピーチであるが、問題の表現は開始から1分45秒後ごろに現れる。この動画には、速記者ならぬ‘速’タイピストによる英語のサブタイトル(字幕)も出るのだが、グテーレス氏の英語の発音の問題なのか(彼はポルトガル人)、付けられた字幕には「the era」が「the Eater」になっていたりしているが、彼の表現は次のようなものだった。

 「The era of global warming has ended and the era of global boiling has arrived.」(地球温暖化の時代は終焉し、地球沸騰化の時代が到来した。)

 今年の7月の天候は世界の多くのところで熱波に見舞われ、雨が降らず干ばつとなった。カナダなどでは前例がないほどの山火事が発生した。一方で、場所によっては洪水を引き起こすような集中豪雨も起こった。そして7月の世界月平均気温は観測史上最高となった。

 さて、この11月30日から12月12日まで、アラブ首長国連邦(UAE:United Arab Emirates)のドバイで開催された「気候変動に関する国際連合枠組条約 第28回締約国会議」のニュースが日々新聞を賑わせた。気候変動に関する国際連合枠組条約は、英語でUnited Nations Framework Convention on Climate Change (UNFCCC) で、締約国会議はConference of Parties (COP)であるので、この会議はUNFCCC-COP28、あるいは単にCOP28と報じられた。

 国連で条約が採択されると、各国でその条約を承認し参加するかどうかの意思決定が求められる。日本では国会の承認をもって「批准」となる。批准した国が一定数以上になると、その条約は発効する。UNFCCCは1992年6月に採択され、その後各国が批准し、1994年3月に発効した。COP1は発効翌年の1995年3-4月に、ドイツ・ベルリンで開催された。その後、毎年行われている。ただし、2020年はCOVID-19パンデミックのため延期されたので、今年のCOPは28回目となる。

 今回の成果文書(The UAE Consensus)は、最終日の12日中にまとめることが出来なく、翌13日に採択がずれ込んだ。予定稿に入っていた「化石燃料の段階的廃止」が、中国やインド、そして産油国などの反対にあい、「化石燃料からの脱却を進め、この重要な10年間で行動を加速させる」との表現となった。「化石燃料からの脱却(transition away from fossil fuel)」と一歩後退したこの表現に対しては、島嶼国やアメリカ、ヨーロッパの国々には大きな不満が残ったと伝えられている。一方で、産油国であるUAEの議長スルタン・ジャベル氏の下で、ここまでの合意ができたことは大きな進展であるとの評価もある。

 さて、今年の世界年平均気温の事である。COP28 の開催日と同じ11月30日、世界気象機関(World Meteorological Agency: WMO)は、2023年は観測史上最も高い年平均気温になるだろうとの暫定評価を公表した(末尾にURL。図1)。WMOによると、1月から10月までの平均気温は、1850年から1900年までの51年間の平均気温に比べ、1.4℃(±0.12℃の誤差範囲)高かった。この値は、2016年に記録した1.29℃よりも、0.1℃以上も高い。確定するには11・12月の気温の推移を待たなければならないが、大きくは変わらないだろうとのことである。

 今年4月ごろから、太平洋熱帯域ではエルニーニョが発生しており、来年の夏ごろまで継続すると予想されている。一般に、エルニーニョは世界平均気温を高くする傾向にあるため、2024年も気温の高い状態が続くことが期待される。とすると、来年は地球沸騰化時代をさらに裏付ける年になるのであろうか。

【参考URL】
1.国連事務総長グテーレス氏の記者会見が見られる国連のウェブサイト
https://news.un.org/en/story/2023/07/1139162
2.11月30日の世界気象機関のプレスリリース記事
https://wmo.int/news/media-centre/2023-shatters-climate-records-major-impacts

図1.全球かつ年平均した気温の変動。縦軸は1850年から1900年までの51年間で平均した気温からの偏差。定評のある5つのデータセットを図示。JRA-55は日本の気象庁のデータセット。WMOが今年11月30日プレスリリースした資料から引用。の画像
図1.全球かつ年平均した気温の変動。縦軸は1850年から1900年までの51年間で平均した気温からの偏差。定評のある5つのデータセットを図示。JRA-55は日本の気象庁のデータセット。WMOが今年11月30日プレスリリースした資料から引用。