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折に触れて

(30:2024年1月19日)

                               

折に触れて(2024年1月)

1.高速バスの運転手さんの仕草

 仙台から山形に戻る高速バスに乗った時のことである。山形県庁前で降りるので、仙台から乗るときはなるべく前方の席を取るようにしている。そのバスでは、幸い進行方向左手の最前列通路側の席に座ることが出来た。この席からは運転手さんの一挙手一投足のすべてが目に入る。何速のギアに入れて走っているのかや、ギアチェンジのタイミングなども観察できて、それなりに面白い経験であった。

 そんな中で、アッと思った運転手さんの「仕草」があった。この運転手さん、擦れ違う同じ会社の高速バスはもちろん、相互乗り入れしている会社の高速バスにも、そして酒田・鶴岡から仙台に向かう高速バスにも、擦れ違う際に右手をほんの少し上げる仕草をしているのであった。

 何故この仕草に興味を持ったかというのも、昨年(2023年)9月2日(水)の毎日新聞「くらしナビ・ライフスタイル」欄に掲載された、「守られない『あいさつ禁止』」の見出しの記事を読んでいたからである。この記事は、挨拶により前方不注意や片手運転となり、死亡事故まで起こっていることを理由に、バス業界ではだいぶ前から禁止していることを伝えていた。実際、東京バス協会は2003年から、日本バス協会は2012年から禁止の周知をしているという。しかし、2022年8月から2023年2月の間に行った覆面調査によると、約半数の運転手がまだ挨拶を行っていることが分かったという。そして記事では、国や業者は指導を徹底すべきだと主張している。

 当時、私はこの記事を切り抜き、後日連れ合いに見せて、このことをどう思うかと話をしていた。私も連れ合いも、運転手の挨拶禁止は行き過ぎではないか、と意見が一致した。もちろん‘TPO’をわきまえて、事故を起こすようなことは決してあってはならないが、そう目くじらを立てなくともよいのではないかとの意見である。

 さて、私が乗車した高速バスの運転手さんは、安全運転を心掛けた運転手さんであることは間違いない。信号のある交差点を横切るときや曲がるときは、これも軽くではあるが、鉄道で働いている人たちが行うように、指差し確認をしているのである。また、スピードメータを見ていると、高速道路でも常時法定速度内であった。車内放送もしっかりと話されており、基本にとても忠実な方との印象を持った。

 擦れ違う相手の高速バスの運転手さんが、この運転手さんに対して返答しているのかどうかは、高速道路なので中央分離帯越しのためはっきりとは分からなかった。恐らくしていなかったのではなかろうか。運転手さんの方でも、相手が挨拶を返してくれるのかどうかはまったく関係がなく、運転手仲間として、軽く手を挙げる仕草で相手に‘敬意’を表していたのではなかろうか。私はすぐ斜め脇に座っていて、この運転手さんの行為が危険なものであるとはちっとも思わなかったし、むしろ、好感が持てるような行為であった。

 さてさて、皆さん、このバスの運転手さんの仕草は、やはり禁止すべき対象なのでしょうかね。


2.お悔みをいう相手は誰?

 マグニチュード7.6の「令和6年能登半島地震」が元日に発生した。震源が能登半島に極めて近く、かつ浅いために震度が大きく(最大7)、また、発生した津波も極めて短時間で到来した。日本海に突出した能登半島の周縁の崖崩れで道路が寸断された結果、多くの孤立した地域を生んだ。そのため、速やかに救援隊がアクセスできず、犠牲者の把握も時間がかかることとなった。大変残念なことである。

 さて、 6日(土)行われた岸田首相の年頭記者会見の様子がメディアで報道された。その中で、今回の地震の犠牲者に触れた個所の発言がテレビニュースで流れた。「犠牲になられた方々に、改めてお悔みを申し上げるとともに、・・・」との表現があり、この言葉使いに大きな違和感を持った。なお、翌日の毎日新聞の1面に、(岸田)「首相がお悔み 『被害の甚大さ実感』」との見出しを持つ記事でも、この発言が引用されていた。

 「お悔み」とは、亡くなられた方を思い、残された方(ご遺族)へ残念な気持ちを述べることであり、「亡くなられた方々に申し上げる」表現ではないと私は理解している。実際、インターネットでのWeblio辞書でも、「人が亡くなったことへ対する残念な気持ち。または、弔問の際に遺族に対してかける慰めの言葉」としている。

 犠牲になられた方への表現としては、通常「哀悼の意を表する」か「ご冥福を祈る」の表現が多いのではなかろうか。「犠牲者の方々に哀悼の意を表するとともに」や「犠牲となられた方々のご冥福をお祈りするとともに」などと。

 ところで、冥福とは「冥土(冥界)の幸福」の事であるから、「冥土=死後の世界」を認めていない宗教の人たち、例えば神道やキリスト教の方々には不適切な言葉かもしれない。インターネットで調べてみると、仏教でも浄土真宗の方々へは不適切とするウェブサイトがあった(末尾にURL)。浄土真宗は「往生即成仏」との教えで、「亡くなられた方はすぐに仏さまになる」のであり、故人は冥土(冥界)でさまようことはないからであるとする。

 また、この二つの表現は、亡くなられた方に対しての言葉なので、口語では用いず(すなわち、ご遺族の方へ直接使う表現ではなく)、文章での表現であるとするウェブサイトもあった。言葉使いは、いろいろと難しいものである。

 【参考にしたURL】
1.https://www.e-sogi.com/guide/18104/
2.https://www.sougi.info/column/column_348

 
3.世界経済フォーラムが挙げる短期・長期のグローバルリスク

 スイス・ジュネーブに本部を持つ非営利財団「世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)」は、2023年9月に行った1400人に及ぶグローバルリスクの専門家、政策立案者、業界リーダーらに対する調査に基づき、「グローバルリスク報告書2024年版」を1月10日に公表した(末尾に英語版と日本語版のURLを記す)。

 この報告書には、短期(今後2年間)と長期(10年間)の10大リスクが掲載された。英語版に掲載されたものを表1に、この表を基にWEF日本事務所が作成した日本語版の表を表2に示す。

 表に挙げられているリスクはなるほどと思うものばかりであるが、それらが独立ではなく互いに密接に関連しあっていることが特徴ではなかろうか。つまり、お互い密接に結びついており、単独で閉じるリスクではないことである。

 短期(今後2年間)リスクでは、2024年はロシアや米国の大統領選挙など、世界に影響を与える選挙が多い状況を踏まえた上で、生成AIを使ったSNS上での「誤報や偽情報」(1位)が挙げられている。それらが結果を左右しかねないとのリスクである。

 「サイバーセキュリティとセキュリティ対策の低下」(4位)も同列のネット社会の脆弱さについてのリスクである。このようなリスクは、結果として民主主義と専制ポピュリズム(大衆迎合主義)の立場に分かれる「社会の二極化」(3位)や、貧富の差を益々助長させるとする「不平等または経済機会の欠如」(6位)に繋がってくる。これにより社会が疲弊すると、容易に「非自発的移住」(8位)が起こる。その結果として、時には「国家間武力紛争」(5位)をもたらしかねない。

 8位の「非自発的移住」の元の英語表現は、表1にあるように、「involuntary migration」である。involuntaryとは「自分の意志でない、自分が望んでいない」ことであり、「状況・情勢に強いられた自らは望まない移住」とでも表現できよう。

 また、「インフレーション」(7位)が進むと「景気後退(不況、停滞)」(9位)をもたらし、その結果として「社会の二極化」(3位)に向かい・・・、というリスクの経路も大いにあり得る。

 さらに、環境危機の分野のリスクも取り上げられた。地球温暖化による「異常気象」(2位)が世界各地で起こるようになり、また、ますます激甚化し、大きな災害をもたらしている。また、マイクロプラスチックや大気汚染など、生産活動による「環境汚染」(10位)も深刻化し、生態系に大きな影響を与える危険がある。

 目を長期(今後10年間)のリスクに向けると、環境関連に大きなリスクを見ていることが分かる。「異常気象」(1位)、「地球システムの危機的変化(気候の転換点)」(2位)、「生物多様性の喪失と生態系崩壊」(3位)、は「天然資源不足」(4位)、「汚染(大気、土壌、水)」(10位)である。10項目のうちの実に5項目が環境関連事項である。

 2位の「地球システムの危機的変化」には「気候の転換点」の括弧書きがある。転換点は英語では「tipping point」であり、その点を越えたら不可逆的で後戻りできない点を指す。それが「危機的変化」なのだという指摘である。

 残りの5項目のうち4項目は短期のリスクと同じである。追加された項目は、「AI技術がもたらす悪影響」(6位)である。生成AI技術の進展は、AI規制の議論の進展よりも圧倒的速いと言われており、その影響は我々の予想を超えるのではとも言われている。

 WEFが指摘するこれら短期・長期のリスクであるが、どれもこれも厄介なリスクである。長期のリスクは、確実に若い世代が経験するであろうリスクである。どれだけ良い環境や状況を後代に残せるか(世代間倫理)は、まさに今の大人の世代にかかっている。リスク回避に向けた具体的施策の立案と実施が、政策立案者やグローバルリーダーに課せられている。

 大学に身を置いている者としては、大学が率先してリスク回避に向けた活動や情報発信をすべきであるし、課題の克服に果敢にチャレンジする人たちを育成しなければならない、と決意する次第である。

 
【参考にしたウェブサイトのURL】
1.世界経済フォーラム「Global Risks Report 2024」のPDFファイル
https://www.weforum.org/publications/global-risks-report-2024/in-full/?gad_source=1&gclid=EAIaIQobChMI4Y72o9LegwMVB9QWBR1MgwBNEAAYASAAEgIztvD_BwE
2.世界経済フォーラム日本事務所によるグローバルリスク2024の概要説明文書
https://jp.weforum.org/press/2024/01/guro-barurisuku-2024-no-ga-suru-gaguro-barurisuku2024notoppuni/

表1.世界経済フォーラム(WEF)による短期(今後2年間:左)と長期(10年間:右)のグローバルリスクの画像
表1.世界経済フォーラム(WEF)による短期(今後2年間:左)と長期(10年間:右)のグローバルリスク

表2.表1と同じ。ただし、日本語表現。訳はWEF日本事務所による。

順位

今後2年間

今後10年間

1

誤報と偽情報

異常気象

2

異常気象

地球システムの危機的変化(気候の転換点)

3

社会の二極化

生物多様性の喪失と生態系の崩壊

4

サイバー犯罪やサイバーセキュリティ対策の低下

天然資源不足

5

国家間武力紛争

誤報と偽情報

6

不平等または経済的機械の欠如

AI技術がもたらす悪影響

7

インフレーション

非自発的移住

8

非自発的移住

サイバー犯罪やサイバーセキュリティ対策の低下

9

景気後退(不況、停滞)

社会の二極化

10

汚染(大気、土壌、水)

汚染(大気、土壌、水)