ホーム > 大学紹介 > がっさん通信 > 最近読んだ本から_03

最近読んだ本から

<036>

 
著者

井上 ひさし(いのうえ ひさし:作家、故人1934~2010)

著書

発掘エッセイ・セレクションⅡ この世の真実が見えてくる

出版社等

岩波書店、2022年5月17日、195ページ

一言紹介

単行本未収録のエッセイ集。シリーズⅡは、本書を含め『客席のわたしたちを圧倒する』『まるまる徹夜で読み通す』の全3冊。井上ひさし研究家の井上恒(ひさし)さんが監修。1980年代、『新潮45+』に10回連載された「やぶにらみ情報の研究」の1・3・4・6の4回分も収録。3回目は「ディジタルかアナログか」(72~78ページ)と題した論考。この中で人間はアナログ的と断ずる。4回目の「跳び跳び性と連続性」(78~85ページ)では、世界の本質はディジタルかアナログかの問いにはディジタルと結輪する。それは、物質の構成要素は有限個であるからが理由。「ことばの世界の根本もディジタルに構成されている」とも結論。「ところが厄介なことに、人間の心はアナログ的である」とし、世の中の情報はディジタルであるので、新しい情報は‘人間である自分’の連続性の中に組み入れなければならず、それができないとき情報は雑音となる、という。分かります?
(2022年7月)

<035>

 
著者

群 ようこ(むれ ようこ:小説家・エッセイスト)

著書

今日は、これをしました

出版社等

集英社、2022年5月30日、240ページ、初出は、同社ノンフィクション編集部公式サイト「読みタイ」(2020年3月~2021年12月)、単行本化にあたり加筆修正した

一言紹介

日常の中から綴られた22編のエッセイを収録。書かれたのは、新型コロナウイルス感染症が世界中に広まり行動制限がかけられた時期。また、この間、22年もの長い間連れ添ったネコ「しい」が旅立ち、そして長年住み慣れたマンションから、別のマンションに引っ越した時期にもあたる。収められたエッセイは、表題にあるように‘日常’エッセイ。著者は1954年の生まれと、私と同世代のこともあり、共感できる場面が多々あった。著者のプラスチックに対する態度は徹底しており、雑貨品としてのプラスチック製品はもちろん、衣類や洗濯に関しても気配りしている態度はとても印象的(「プラスチックにため息をつく」、7~16ページ)。ところで驚いたのは「三十数年ぶりに新聞をとる」(140~148ページ)。著者は、この間新聞をとっていなかったのだ。ともあれ、「新しい情報を得られる楽しみの方が多くなった」とし、今後はとり続けるという。
(2022年7月)

<034>

 
著者

ナンシー 関(なんしー せき:消しゴム版画家、コラムニスト、故人1962~2002)

著書

超傑作編 ナンシー関 リターンズ

出版社等

世界文化ブックス、2022年7月15日、366ページ

一言紹介

‘ナンシー関’さんは青森県出身で、本名は関直美。主に芸能人を批評対象とした版画付きのコラムで、1980~90年代に大活躍した。2002年、40歳になる直前に急死。今年は生後60周年、没後20周年にあたる。本書の出版もこれを記念してのこと。様々な雑誌に発表された多くのコラムが収められている。コラムには、人物の特徴をよくとらえた消しゴム版画が色を添えている。この版画も傑作。コラムも、他の誰にもまねのできない、思いもつかない切り口からの分析が述べられる。一例として「ジャイアンツ原」(140~141ページ)。書かれた1987年当時、原はジャイアンツの4番バッター。原は「なんだか情けない」とし、最大のライバルは「原クン」という呼び名であると喝破する。そして、これからの脱却は容易でないだろうとする。なるほどなるほど、監督となった今でも…。ところで、現在の若い人にとってナンシー関さんとはどんな存在なのだろうか。
(2022年7月)

<033>

 
著者

内田 樹編(うちだ たつる:神戸女学院大学・名誉教授、専門は現代思想、映画論、武道論。著者は編者を含め16名)

著書

撤退論 -歴史のパラダイム転換に向けて

出版社等

晶文社、2022年4月30日、270ページ

一言紹介

本書は、編者内田氏を含め、感染症学者の岩田健太郎氏や劇作家・演出家の平田オリザ氏ら16名が論じた撤退論を集めたもの。ここで、「撤退とは、国力衰微に適切に対応すること」とする。では、なぜ今撤退を論じるのか?「国力が衰微し、手持ちの国民資源が目減りしてきている現在において、『撤退』は喫緊の論件のはずであるにもかかわらず、多くの人はこれを論じることを忌避しているように見えるから」(6ページ)とする。すなわち、「子供が生まれず、老人ばかりの国において、(略)豊かで幸福に暮らせるためにどういう制度を設計すべきかについて日本は世界に対してモデルを示す義務がある」とする。確かに、我が国は如何に撤退すべきかを、タブー視しないで論じ、国民の間でコンセンサスを形成する時期にあるのだろう。そうそう、著者の一人、平田氏は「下り坂をそろそろと下る」(講談社新書、2016年)で既に撤退を論じていたことを思い出した。
(2022年6月)

<032>

 
著者

高橋 源一郎(たかはし げんいちろう:小説家)

著書

これは、アレだな

出版社等

毎日新聞出版、2022年2月25日、239ページ、『サンデー毎日』2020年9月20日号から2021年8月29日号に掲載された中から選び、加筆したもの

一言紹介

『サンデー毎日』に好評連載のエッセイの中から46編を選んだもの。著者はいう、「みんなが『こんなことは初めてだ!』とか、『こんなの初めて見た!』というなら、あえて、『いや、同じことは、前にもあったんだよ』と呟いてみたくなったのである。つまり、『これは、アレだな』と」。そして、楽しいときもワクワクするときも、がっかりするときも悲しいときも、「こんなことって、前にもあったんじゃないか」と思うことにしているのだそうだ。著者は、どんな事件も出来事も、まったく独立で新奇ということはあり得ず、以前のものと、何かしら似たような要素を持っているのでは、と主張する。そのような視点を持つことで、物事を相対化し、豊かな感性を得ることができるのではないか、そのようなことを実践しているエッセイ集である。
(2022年6月)

<031>

 
著者

逢坂 冬真(あいさか とうま:小説家)

著書

同志少女よ、敵を撃て

出版社等

早川書房、2021年11月、429ページ

一言紹介

1942年、少女セラフィマが育ったモスクワ近郊の山村をドイツ軍が蹂躙する。母親が殺害され、本人にも危害が及びそうになるが、間一髪のところ元一流の狙撃兵で、今は狙撃学校の教官となったイリーナに救出される。セラフィマは同じような境遇の少女たちとともに、厳しい訓練を経て狙撃兵として育てられる。イリーナを隊長とする狙撃小隊は、スターリングラード戦などに参戦する中、セラフィマは一流の狙撃兵へと育っていく。軍人・民間人を合わせ、ソ連側で2000万人、ドイツ側で600万人が死亡したとされる独ソ戦は、ソ連軍の勝利に終わり、ドイツは敗戦へと突き進む。‘プーチンの戦争’が進行中の今、まるでそれを予感したかのように出版された本書は、戦争中の人間の生き方について考えさせられる書である。本書は著者のデビュー作で、第11回(2021年)アガサ・クリスティー賞を受賞、第166回(2021年下半期)直木賞の候補作となった。
(2022年6月)