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最近読んだ本から

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著者

櫻井 芳雄(さくらい よしお:京都大学名誉教授、専門は行動神経学・実験心理学)

著書

まちがえる脳

出版社等

岩波書店、岩波新書(新赤版)1972、2023年4月20日、本文229ページ+参考文献7ページ

一言紹介

学術雑誌を出版しているエルセビア社によると、10年前の2014年に出版された脳科学関係の論文は約30万本(1日当たり800本!)とのこと(193ページ)。それにもかかわらず脳の活動は疑問だらけで、著者は「(略)脳のもっとも重要で本質的な特性が未解明であり、脳が相変わらず謎に満ちた研究対象であることを意味している」と述べる(228ページ)。シナプスとニューロンからなる神経細胞の信号伝達は、とても不安定で不確実なもの。これを著者は、信号を「サイコロを振って伝える」(第1章の表題)と表現する。しかし、だからこそ「まちがえるから役に立つ」(第2章の表題)と断言。人工知能の深層学習などは人間の脳の活動を模したと表現されているが、その考えは成り立たないとする。脳科学はまだまだ未熟で可能性に満ちた魅力的な分野であり、多様で可塑性に富んだ若く元気な研究者を待っていると主張。本書を読み、確かにそうだと思ってしまった。
(2024年1月)

<089>

 
著者

小野寺 拓也/田野 大輔(おのでら たくや:東京外国語大学大学院総合国際研究院・准教授、専門はドイツ現代史/たの だいすけ:甲南大学文学部・教授、専門はドイツ現代史)

著書

ナチスは「良いこと」もしたのか?

出版社等

岩波書店、岩波ブックレットNo.1080、2023年7月5日、119ページ

一言紹介

SNS上では「ナチスは良いこともした」との議論が再三起こる。ある時、著者の一人が「(略)ナチスの政策で肯定できるとこないっすよ」とツイートしたところ、たちまち‘炎上’状態になったのだそうだ。本書は、ナチスの政策は肯定できないとする著者たちの評価を詳しく論じたもの。取り上げられた施策は、「経済回復政策」「労働者政策」「家族政策」「環境保護政策」など。著者たちは各施策に対し、(1)オリジナルな施策かどうか(歴史的経緯)、(2)その目的は何か(歴史的文脈)、(3)どういう結果をもたらしたのか(歴史的結果)、という三つの視点から検討する(42ページ)。その結論として、「(略)ナチスの個々の政策を詳細に検討していくと、一見先進的に見える政策も様々なまやかしや不正、搾取や略奪と結びついていたことは明白であり、(略)近年の研究ではそこにナチズムの犯罪的な本質を認める見方が定説化している」とする(109ぺージ)。
(2024年1月)

<088>

 
著者

多井 学(おおい まなぶ:ペンネーム、私大KG大学国際学部・教授、専門は国際関係論)

著書

大学教授こそこそ日記

出版社等

発行は(株)三五館シンシャ、発売はフォレスト出版(株)、2023年12月20日、204ページ

一言紹介

本音が聞けると大好評の日記シリーズの最新作。このシリーズ、中身の詳しい紹介は無用であろう。著者の略歴を紹介したい。著者は1961年の生まれ、日本の大学を卒業後、カナダの大学で修士号を取得。帰国後、大手銀行を経て、S短大の専任講師となり大学教員の道へ。4年後、T国立大に移り助教授として5年間勤務。その後、アメリカンフットボールで有名な関西の有力私大KG大学に移り教授職に就く。現在、KG大24年目であり、68歳の定年まで残り5年半となる。3つの大学での経験をありのままに感想を交えて伝える。数年前、著者は妻を亡くし、軽いうつ病も患った。現在は、「好きな本が読め、ビールが飲め、マイペースで研究と教育活動ができれば、それで十分だ。(段落)妻の記憶とともに、残りの教員生活を精一杯、まっとうしたい」(204ページ)とする。ところで、‘そうそう’それも‘あるある’の話ばかりなのだが、なぜ表題に「こそこそ」が付いたのだろう。
(2024年1月)

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著者

小川 糸(おがわ いと:作家、エッセイスト)

著書

椿ノ恋文

出版社等

幻冬舎、2023年10月30日、339ページ、神奈川新聞や山形新聞など18紙に連載したものに加筆修正したもの

一言紹介

「ツバキ文具店」(2016年)、「キラキラ共和国」(2017年)に続く、6年ぶりのシリーズ第3弾。夫ミツローさんと鳩子(ポッポちゃん)の次女小梅と長男連太朗の年子たちは小学校1年生に。ミツローさんの連れ子陽菜(QPちゃん)も中学3年生。そこでポッポちゃんは代書屋を再開することに。このところQPちゃんは大の反抗期で口も利いてくれない。そんなある日、大島に住む美村冬馬氏から突然手紙が。なんと先代(ポッポちゃんのお祖母ちゃんの雨宮かし子)と、冬馬氏のおじさん美村龍三氏が許されぬ恋仲の関係であったようだと。ポッポちゃんも調べてみると、先代の残した本の中から美村氏のハガキや出されなかった手紙が見つかる。二人は相談し、手紙やハガキを弔う(燃やしてしまう)ことに。高校受験の終わったQPちゃんを誘って大島に行こうとするも・・・。全編ほのぼのとした雰囲気で、今回も小川ワールドは健在です。(2023年12月)

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著者

ヤマザキマリ(やまざきまり:イタリア在住の漫画家、エッセイスト)

著書

貧乏ピッツァ

出版社等

新潮社、新潮新書1018、2023年11月20日、237ページ、フジ日本精糖株式会社のHPで連載している「ヤマザキマリの『世界を食べる』」をもとに加筆・修正し、再構成したもの

一言紹介

著者は現住のイタリアを初め、シリア、キューバ、ポルトガル、アメリカなどに住んだ経験を持つ。その時々の食べ物についての物語や感想を述べたエッセイ全25編を収録。著者の食に対する考えを表しているのは232ページの最後の節。「人間の歴史において、食欲と味覚に想像力の自由が許されてきたことを思うと、社会で何が起こっていようと、どんな不条理が発生しようと、まだなんとかやっていけそうな気がするというものである。味覚の喜びというのは、この世を生き抜く私たちの魂にとって、自由を謳歌する頼もしい味方なのである。」 そして、「安寧の中でいただくミシュランの星付きレストランでのゴージャスな食事もいいけれど、私にとっておいしさとは、空腹と食欲という本能の容赦ないアグレッシブさがあってこそ、極みをもたらしてくれるものなのである」(236ページ)と述べる。本書の帯には、「貧乏こそが、最高の『かくし味』だった-」とあった。
(2023年12月)

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著者

毎日新聞校閲センター(まいにちしんぶんこうえつせんたー:東京と大阪のセンターに約80名の記者が勤務。本書の執筆者はそのうちの8名。)

著書

校閲記者も迷う日本語表現

出版社等

毎日新聞、2023年9月20日、302ページ

一言紹介

最近、毎日新聞校閲センターが大活躍である。立て続けに本が出版されている。本書は「校閲記者の目」シリーズの第2弾で、ウェブサイト「毎日ことば」(現「毎日ことばplus」)の中の「質問ことば」欄に掲載された記事をまとめたもの。この欄は読者に対する質問から始まる。例えば、「やっと会えた! 会うのは『いつぶり』だろうー『 』の中、どうですか?」というもの。回答は、「おかしくないし、自分でも使う・・・28.8%/おかしくないが、自分では使わない・・・8.5%/おかしいと感じるが、自分では使わない・・・26.7%/おかしいと感じるし、自分では使わない・・・36.0%」と紹介される。次に、これらの使用法への解説が述べられる。各項目、この繰り返しで、57のことば使いが取り上げられた。正解はこれです、という判断はほとんどできず、そのことば使いの現状が解説される。ちなみに「いつぶり」は、新聞では当面使われないことば使いだろうとする。ことば使いは本当に難しい。
(2023年12月)

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著者

内田 洋子(うちだ ようこ:イタリア在住のジャーナリスト、エッセイスト)

著書

見知らぬイタリアを探して

出版社等

小学館、2023年10月31日、269ページ、収録されたエッセイは『本の窓』2021年3・4月合併号から2022年8月号まで連載

一言紹介

15編のエッセイの表題には「マフラー貸します [紫]」のように色が付されている。付された色は、順に紫、ピンク、緑、灰、黄、青、オレンジ、茶、金、白、赤、黒、銀、透明、虹。2020年春からCOVID-19パンデミックのため、1年のほとんどを過ごしていたイタリアではなく、日本に滞在せざるを得なかった著者が、イタリアに思いを馳せて認めたエッセイ。「赤い理由 [赤]」のエッセイ。食品加工機械メーカーを訪れた時のこと、資料室の多数の製品は燃えるような赤い色だった。イタリアの国旗にも赤が使われている。「この赤を製品に使えるのは、限られたメーカーだけなのです」と経営者は胸を張る。「<フェラーリの赤>。最高品質の機械製品にだけ着色が認められる、<イタリアの誇り>の赤である」と著者はこのエッセイを結ぶ。著者の名刺のロゴも赤色だという。著者の性格がそうさせるのだろう、読んでいつも感じるのは、他人とのお付き合いの濃密さである。
(2023年11月)

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著者

逢坂 冬馬(あいさか とうま:作家)

著書

歌われなかった海賊へ

出版社等

早川書房、2023年9月30日、375ページ

一言紹介

第2次世界大戦時、ドイツ各地に自然発生的にナチス政権へ抵抗する若者の集団がそちらこちらに現れた。これらの集団は皆、「エーデルヴァイス海賊団」と名乗った。本作品は、この史実を基に海賊団に参加した若者の物語り(フィクション)である。多くの労働者や若者たちの動員により、鉄道が村を横切って敷かれていく。この鉄道の役割は何か、この鉄道の行く先はどこなのか、これを確かめようと、エーデルヴァイス海賊団の若者4人が線路を辿り始める。そして見つけたのは・・・。海賊団はナチスの蛮行を止めるため、トンネルと鉄橋、そして線路の破壊を試みる。しかし、仲間は捕らえられ、2名は絞首刑に。戦後、この出来事を後世に伝えようと記録した人がいた。物語はこの人の記録を紹介する形式(劇中劇ならぬ小説中小説)。本書は、2022年に本屋大賞を受賞した著者の処女作『同志少女よ、敵を撃て』に続く第二弾作品。(2023年11月)

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著者

後藤 秀機(ごとう ひでき:元帝京平成大学地域医療学部・教授、専門は神経生理学)

著書

天才と異才の日本科学史

出版社等

KADOKAWA、角川文庫2083、2023年9月25日、407ページ、2013年9月にミネルヴァ書房から刊行された『天才と異才の日本科学史 開国からノーベル賞まで、150年の軌跡』に加筆修正したもの

一言紹介

明治になり近代科学が日本に導入されて以来、日本人科学者も世界的に活躍し始める。そんな日本人科学者を紹介する。一人ひとりに焦点あててその生涯を追う、という従来の形式ではなく、テーマを決めて日本と海外の科学者の動きを、時代を背景に記述する。「第Ⅰ部 日本の科学の夜明け」「第Ⅱ部 戦争と科学者」「第Ⅲ部 負けて輝く」「第Ⅳ部 医者対科学者」「第Ⅴ部 日本人とノーベル賞」の5部17章構成。物理学から神経生理学までの幅広い領域の科学者を取り上げる。この学問の幅の広さはどこから来るのだろうと、著者の背景を調べてみたら、早稲田大学で応用物理学の学士号を、東京工業大学で原子核工学の修士号を、そして横浜市立大学で医学の博士号を取得していることが分かった。本書は独特の雰囲気を持った科学史の本で、読み物としてとても面白い。著者は、2013年出版の本書の元となった単行本で日本エッセイストクラブ賞を受賞。
(2023年11月)

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著者

星 亮一(ほし りょういち:故人1935-2021、新聞記者、テレビ局記者を経て作家)

著書

ノモンハン事件の128日

出版社等

潮書房光人新社、光人社NF文庫、2023年7月23日、372ページ、2004年12月に光人社から出版した『遥かなるノモンハン』を改題

一言紹介

1970年代、山本薩夫監督の日活映画「戦争と人間」、3部作を見て以来、ノモンハン事件(ロシアではハルハ河戦争と呼ぶ)が気になり、関連する本が出版されるたびに手に取っている。本書の題名にある‘128日’とは、日本軍が初めて本格出動した1939年5月12日から、ロシアとの間に停戦協定が結ばれた同年9月16日までの128日を指す。著者は2004年、13名の日本人とともに、戦場となった現中国北部のノモンハンを視察する。本書は、このノモンハン視察の紀行文という形をとって、この戦争に参加した兵士たちの手記を紹介する。物量に劣る日本軍が、如何に情報を軽視し、精神論に傾いて戦ったかが指摘される。著者は記す、「ノモンハンの戦場にたって思うことは、ばかげた戦争だということだ。上級指揮官の無能さをさらけ出した戦争だった」と(363ページ)。ノモンハン事件からの教訓はなに一つ活かされず、2年後、日本は太平洋戦争へと突入する。
(2023年10月)

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著者

毎日新聞校閲センター(まいにちしんぶんこうえつせんたー:著者は東京本社と大阪本社の校閲センターに所属する21名の記者たち)

著書

校閲至極(こうえつしごく)

出版社等

毎日新聞出版、2023年8月30日、253ページ、初出は「サンデー毎日」

一言紹介

自分で書いた原稿の校正は、何でと思うくらいできない。誤字、脱字などの多くを見逃してしまう。もう一人の自分となって読んでいるつもりなのだが、これが全然ダメ。さて、本書は2018年6月10日号から『サンデー毎日』に連載されたコラム、「校閲至極」の中から73編を選んだもの。校閲にまつわる多くのうんちく(?)や悩み(?)、そして失敗が紹介される。先輩世代は、二人が組になって原稿の‘読み合わせ作業’をしていたのだそうだ。読み手は朗々と、聞き手は緊張を強いられ、30分が限度だったという。そう、ある方に聞いたのだが、ワードには読み上げ機能があるので、原稿を書き上げたとき、これを使って誤字、脱字の発見に役立てているとのこと。なるほどこれは良いやり方。音声で聞いて違和感があるところは、言葉使いにおいて何かが不適切なのである。私もやってみよう。
(2023年10月)

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著者

永井 紗耶子(ながい さやこ:新聞記者を経てフリーランサーとなり、2010年小説デビュー、作家)

著書

木挽町のあだ討ち(こびきちょうのあだうち)

出版社等

新潮社、2023年1月20日、267ページ、初出は『小説新潮』2019年10月号、2020年4・7・10月号、2021年4・7月号

一言紹介

睦月晦日、江戸は木挽町の芝居小屋の裏手で、一人の若衆伊納菊之助が、父を殺め、今はやくざ者となった作兵衛の首級(しるし:仇の首のこと)を上げるという仇討があった。衆目が見ている前で行われたこの仇討は、「木挽町の仇討」と呼ばれ、巷間で話題となった。仇討を遂げた菊之助は帰藩し、藩のために奉公する。この物語は、仇を討った菊之助の友人が、江戸で仇討をするまでの間に菊之助がお世話になった芝居小屋「森田座」の人たちを訪ね、仇討についての話を聞いて回り、それを認めたもの。そして最後に、この仇討の真相が分かる。藩には大きな問題があったのだ。イヤー、この小説を大いに楽しんだ。いろんな場面が「絵」になるし、実写化も望みたい。ところで、題名がなぜ「仇討ち」ではなく「あだ討ち」なのか・・・。どうぞ本書を手に取ってください。本書は、第169回(2023年7月)直木賞と第36回(2023年)山本周五郎賞の受賞作。
(2023年10月)

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著者

加藤 典洋(かとう のりひろ:故人1948-2019,文芸評論家,早稲田大学・名誉教授)

著書

大きな字で書くこと/僕の一〇〇〇と一つの夜

出版社等

岩波書店、岩波現代文庫(文芸350)、2023年3月15日、340ページ、2019年11月に同社より刊行された『大きな字で書くこと』と、同年同月に私家版で刊行された『僕の一〇〇〇と一つの夜』を併せ収めた

一言紹介

『大きな字で書くこと』は、岩波書店『図書』の2017年1月号から2019年7月号まで連載した、自分の過去を振り返ったエッセイ集。『僕の一〇〇〇と一つの夜』は、2018年11月から2019年2月までの間に書かれた45の詩と1つの歌が収められた作品。双方とも病魔に侵された著者が亡くなる直前まで書いていたもの。同じような作品に『オレの東大物語 1966-1972』(集英社、2020)がある。著者の最晩年の作品は、自分の歴史を振り返ったものであった。『大きな字で書くこと』には、警察官で戦時中は特高として行動した父との葛藤の様子が赤裸々に描かれている。なぜ、これらの作品が書かれなくてはならなかったのだろうか。最後の最後で、著者の文芸評論家としての出発点を確認したかったのではないかと私は思うのだが。さて、私は彼の文芸評論を手に取ったことはないのだが、彼の著作は難解であるという。このような作品を読んだ今、少しは理解できるのかなとも思うのだが、どうだろう。
(2023年9月)

<077>

 
著者

金田一 秀穂(きんだいち ひでほ:山梨県立図書館・館長、杏林大学名誉教授、専門は言語学(日本語))

著書

あなたの日本語だいじょうぶ? SNS時代の言葉力

出版社等

暮らしの手帳、2023年7月10日、275ページ、第1章から第3章までは書下ろし、第4章は小学館『サライ』連載の「巷のにほん語」より収録

一言紹介

私は時々、「自分の日本語で、よく他人に通じているものだ」と思うことがある。皆さんはそんなこと、思わないですか? 著者の祖父京介氏はアイヌ語の研究で、父春彦氏は方言の研究で著名な言語学者。著者も日本語研究者。そんな著者から『あなたの日本語だいじょうぶ?』などと言われたら、この本、手に取らないわけにはいきませんでした。さて、いろんな蘊蓄を読むことができたのだが、「経験値」の意味を初めて知った。テレビゲームのジャンルにロールプレイイングゲーム(RPG)があるが、それに出てくるキャラクターに、経験によって成長した度合いを数値化して与えているのだそうだ。その値が大きいことを「経験値が高い」と表現する。著者は、人間の経験値が高いとは、ゲームのキャラクターと違い、「気にしなくなれるという能力のこと」とする。それにしても、いつもニコニコ顔の著者なのだが、意外と怒りん坊なのには驚いた。
(2023年9月)

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著者

海原 純子(うみはら じゅんこ:昭和女子大学・客員教授、医師、専門は心療内科、ジャズボーカリスト、コラムニスト)

著書

大人の生き方 大人の死に方

出版社等

毎日新聞出版、2023年5月1日、236ページ、2011年2月、同社より刊行された単行本に加筆修正したもの

一言紹介

著者は2005年秋から毎日新聞日曜版に、「心のサプリ」と題する毎回1200字ほどの連載コラムを執筆しはじめ、現在も「新・心のサプリ」と題して続いている。本書はそれらを土台に大幅に加筆した作品39編が収録された。恐らくすべての作品が、コラムの分量の倍程度の長さに加筆されているのではないか。「『そんな時間』を大事にしたい」(198ページ~)ではそんな時間の大切さを述べる。「脳や心も同じではないだろうか。(略)そこだけ使っていると肩こりと同じで脳のこりを生むと思う。思考が硬直化するのだ」。私も確かにそう思う。意識的に適度に幅広い思考(活動)をすることで、全体のバランスが取れるようになる。「静と動、硬直さとしなやかさ、そのバランスは人間が生きてくうえで必要なのではないか。お金にもならず、一見無駄に見える時間が活性化してくれるものについて見直してほしいと思う」。著者にとってはジャズボーカル活動がそんな時間だという。
(2023年9月)