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最近読んだ本から

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著者

古瀬 祐気(ふるせ ゆうき:医師・感染症研究者、病院での診療、大学での研究、行政などのコンサルタント、WHO職員などを経験)

著書

ウイルス学者さん、うちの国ヤバいので来てください。

出版社等

中央公論新社、中公新書ラクレ808、2024年1月10日、214ページ

一言紹介

1983年生まれの著者は、香港で12歳まで過ごして帰国。東北大学医学部を卒業後、WHOで尾身茂氏とともに感染症対策を行ってきた押谷仁氏が、東北大学に異動されたので押谷研究室に入る。その後、世界各国で様々な経験を積んで、2020年以降の新型コロナウイルスのパンデミック後は、厚生労働省内の新型コロナウイルス感染症対策本部クラスター対策班のメンバーとなり活動する。著者は実に自由奔放でアクティブな方。感染症の流行地では、現実・現状を直視して現地に溶け込み、感染症と対峙する。エボラ出血熱では、日本の支援は現地のロジスティックを考慮しない物資の支援(空港近くの倉庫に眠ったまま)や、お金の支援のみで人的支援をしなかった(先進諸国では日本だけ)ことに憤り、支援の在り方に疑問を呈する。本書は、2022年4月から1年間、「m3.com」に連載した「古瀬祐気の<“コロナ”専門家回り道>」に加筆修正したもの。
(2024年3月)

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著者

筒井 康隆(つつい やすたか:作家)

著書

カーテンコール

出版社等

新潮社、2023年10月30日、247ページ、初出は「波」「群像」「文学界」「新潮」などの雑誌に2020年から2023年の間に掲載された

一言紹介

ここ数年の間に発表された25の掌編小説が収められた。1934年9月生まれの著者は現在89歳。今後、エッセイは書くものの小説は一切書かないとし、本書は最後の小説集であるとする。収められた作品は、様々な‘工夫’が凝らされて‘落ち’のある、いわば‘落語’のような小品集。印象に残った作品には「手を振る娘」や「横恋慕」がある。「手を振る娘」は次のような話。若手の作家である私の向かいに婦人洋品店が開店した。毎朝二階から眺める私に、ショー・ウィンドウの中で手を振って挨拶してくれる若い女性店員がいた。私はその挨拶を毎朝楽しみにしていた。しかしある朝、店員は怪物のような顔つきで返事もしてくれなかった。そして次の日から、彼女はいなくなった。店主に聞いたところ、店にはそんな店員いないという。最近、ショー・ウィンドウにあったマネキンを掃除婦が倒してしまい、壊れたので処分したとのこと。イヤー、ありそうな、なさそうな、なんか怖い話です。
(2024年3月)

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著者

池澤 夏樹(いけざわ なつき:作家)

著書

また会う日まで

出版社等

朝日新聞出版、2023年3月30日、723ページ、朝日新聞朝刊に2022年8月1日より2022年1月31日まで連載したものに加筆修正

一言紹介

著者の大伯父(父福永武彦の母トヨの兄)である秋月利雄(1892-1947)の生涯を綴った作品。長崎の井上家に生まれた利雄は、秋吉家の養子となった父の弟の養子となる。利雄は江田島海軍兵学校に進み、117名中16位の席次で卒業する。海軍艦船に乗務後、水路部に籍を移す。水路部の仕事の傍ら東京帝国大学理学部で天文学を修める。終戦まで、水路部にて海図、航海・航空文書の作成に従事する。利雄は軍人(最終的に少将まで昇進)にして天文学者、そして熱心な聖光会のキリスト教信者であった。著者は利雄の生涯を追いかけながら、彼が生きた明治、大正、昭和の時代を描く。その意味で歴史小説でもあり、読み応え十分。ところで、利雄の第一の親友である海軍兵学校の同級生Mは、戦争に至った真の歴史を書こうとするも、戦後‘暗殺’されたらしいことが示唆される。ほぼノンフィクションに近い作品ながら彼だけMとイニシアルで記載される。歴史の暗部の一つなのだろうか。
(2024年3月)

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著者

吉見 俊哉(よしみ しゅんや:國學院大学観光まちづくり学部・教授、東京大学名誉教授、専門は社会学、都市論、メディア論、文化研究)

著書

さらば東大 越境する知識人の半世紀

出版社等

集英社、集英社新書(1195B)、2023年12月20日、298ページ

一言紹介

著者は東京大学教養学部、大学院社会学研究科で学び、同大新聞研究所に就職。助手、助教授を経て社会情報研究所の教授に。その後、大学院情報学環に移り学環長、同大副学長を務め、2023年3月に定年退職。本書は、卒業生との7回にわたる「特別ゼミ」の記録と、昨年3月19日に安田講堂で行われた最終講義の記録に加筆・修正したもの。特別ゼミは、著者の本を予め読み、それへの批判を直接投げかけ、「クリティカルに議論することで問いの核心を把握するという、東京大学大学院の授業で実践された『吉見俊哉を叩きのめせ(通称アタック吉見)』の方法を採った」もの(12ページ)。著者は学部生の頃、演劇の世界にのめり込み、如月小春さんと行動を共にした。そのような背景により、社会学の観察手法である‘ドラマツルギー’を採用して論ずる。著者により多様なテーマが論じられているが、この手法の妥当性や卓越性について、正直私は理解できていない。
(2024年2月)

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著者

小川 哲(おがわ さとし:作家)

著書

君が手にするはずだった黄金について

出版社等

新潮社、2023年10月20日、243ページ、7編の作品のうち6編は「小説新潮」に掲載され、1編は書下ろし

一言紹介

飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍中の著者の、若い頃の経験を記した短編作品6編と、2017年に「ゲームの王国」で山本周五郎賞を受賞した時のエッセイを所収。「プロローグ」は、‘知人以上、友人未満’の美梨との付き合いを軸に、就活のためエントリーシートを書けないので小説家になった話。「三月十日」は、2011年3月11日に起こった大震災の前日の、自身の行動を思い出せない話。3月11日のことはあんなに明瞭に覚えているのに・・・。「小説家の話」は、友人の奥さんが占い師にそそのかされ小説家になろうとするのを、占い師のいい加減さを暴くことによって引き止める話。表題の「君が手にするはずだった黄金について」は、高校の友人片桐が投資家として成功したらしいが、SNSで発信する彼の情報はすべて盗用であったことがばれ、姿を消してしまう話。もう字数がないので紹介はここまで。著者を作った環境や、友人模様の一端が垣間見える作品群である。
(2024年2月)

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著者

元村 有希子(もとむら ゆきこ:毎日新聞・論説委員、元科学環境部長)

著書

科学目線 上から、下から、ナナメから

出版社等

毎日新聞出版、2024年1月5日、253ページ、初出は「窓をあけて」(毎日新聞、2019年4月~2023年3月)、「スベカラクカガク」(SIGNATURE、2019年5月~2022年7月)、「科学のトリセツ(サンデー毎日、2022年3月~2023年4月)」、それらから抜粋し、加筆再構成したもの

一言紹介

112編のエッセイを「1.博士が愛した寄生虫」「2.森と薪と人」「3.科学の光と闇を生きた学者」「4.星空を届ける人」に分類して収録。以下「おわりに」から引用。「世の中のできごとを自分なりに咀嚼して、浮かんできたものをコラムやエッセイに綴ってきました。『科学記者』の看板を背負って20年以上がたちますが、ここまでバラバラでは看板倒れでしょう。これからは『雑食系科学記者』と改めます。」「どうやら、大きくて華やかなものよりも、小さくてささやかなものが好きみたいです。」「(20世紀の)こうした『負の遺産』を社会課題ととらえ、解決を目指して小さい範囲で動き始める人たちが現れたのが、私たちが生きている21世紀です。」「(略)足元をしっかりと見つめて、やるべきことをやる。(略)小さな個々の営みが集まれば流れとなり、状況をよい方向へ変えていくはずです。そういう人たちに勇気をもらいながら、私は文章を書いています。」
(2024年2月)