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キャンパスから

(No. 22:2023年5月10日)

 生成系AIの出現

 (2023年)4月に入ると生成系人工知能(Generative Artificial Intelligence:生成系AI)について夥しい報道がなされ、現在も続いている。その直接のきっかけとなったのは、9(日)に読売新聞が、1面トップに「チャットGPT 大学が対策/東大や上智大 論文で利用制限」なる見出しで報じた記事である。3面には、「AIで論作文 見抜けぬ恐れ/チャットGPT 教育現場波紋」なる見出しの解説記事を配した。この報道後、各紙は堰を切ったように連日多くの観点から報道を競った。

 生成系AIは、大規模言語モデルと呼ばれる文字を認識するソフトを用い、インターネット上に存在する膨大なデータを学習し、質問された事項に対し、もっともらしい‘滑らかな’文章を生成する。大手ソフト会社が開発を競っており、中でも話題となっているのが「チャットGPT」で、マイクロソフトが投資するOpenAI社の製品である。GPTとは、Generative Pre-trained Transformer(生成可能な事前学習済み変換器)の頭文字を連ねたもの。他社製品には、BingAI、Bardなどがある。

 OpenAI社は、昨年11月にGPT-3をリリースした。このソフトを、たった2か月で1億人が利用したとのこと。さらに能力アップを図り、今年2月にはGPT-3.5を、4月にはGPT‐4をリリースした。報道によれば、この半年間の能力向上は目を見張るものがあるという。最新モデルGPT-4は有料で、月20米ドルで利用できる。

 さて、事前学習はインターネット上に存在する膨大なデータ群である。真のデータも偽のデータも、差別的なデータ(表現)も、ありとあらゆるデータが学習に利用される。また、文章の生成には、単語(言葉)の出現確率や、単語の結びつき(相互関係)の強さを利用している。したがって、既に指摘されているように、生成された文書には、①偽の情報や差別的な情報も含まれること、②著作権を侵す危険性があること、③論理矛盾が出現する可能性があること、などの懸念がある。また、学習した(データを利用した)範囲内で文章を作成するため、データが少ない最近の出来事や事項に対しては、作成が苦手(不十分なもの)となる。

 小・中学校では読書感想文など、高校や大学ではレポートや論文などの作成時の利用が懸念されている。自らが思考する力や文章を作成する力が育たないのではとの心配である。このため、本学を含む多くの大学が、学生と教員双方に対して、教育におけるチャットGPTの使用を禁止したり、制限を設けたり、注意を喚起したりしている(本学のメッセージは末尾のURL参照)。

 東京大学の太田邦史理事・副学長は、生成系AIについてのメッセージの中で、「人類はこの数ヶ月でもうすでにルビコン川を渡ってしまったのかもしれない」と表現した(末尾URL参照)。

 歴史的には、ルビコン川を渡ったカエサルは、最終的にポンペイウスに勝利するのだが、さて、人類と生成系AIとの関係性はどうなっていくのだろうか。直感的には、ここ1~2年の間で、‘合成生物学’(Synthetic Biology)分野における倫理形成と同様の、生成系AIにおける「作成上の倫理」や「利用上の倫理」を構築できるかが鍵となろう。この構築のために、すなわち、生成系AIとの共生に向けて、人類の英知を集めた対応を行う必要がある。

 米国の未来学者レイ・カーツワイルはシンギュラリティ(技術的特異点:AIが人間の知能を凌駕すること)が2045年に到来すると予測している。さてさて、どうなりますやら。

【参考となるURL】
 山形大学出口毅理事・副学長(教育・入試担当)のメッセージ「教育における生成系AIの利用について」
 (2023年4月18日)
 URL:https://www.yamagata-u.ac.jp/jp/information/important/0418/

 東京大学太田邦史理事・副学長(教育・情報担当)のメッセージ
 「生成系AI(ChatGPT, BingAI, Bard, Midjourney, Stable Diffusion等)について」(2023年4月3日)
 URL:https://utelecon.adm.u-tokyo.ac.jp/docs/20230403-generative-ai