はばたくひと #21

佐久間麻都香

「庄内柿」活用法探り、商品開発。
世間の柿の認識を変えていきたい。

2021.06.30

「庄内柿」活用法探り、商品開発。世間の柿の認識を変えていきたい。

仙台市出身の佐久間麻都香さんは山形大学農学部を卒業し、同大学院農学研究科の修士課程修了後、庄内地域の特産「庄内柿」のさまざまな活用法を模索してきた。これまで「森の柿の葉茶」、干し柿入りエナジーバー「SHONAI SPECIAL」の開発に尽力。2度のアフリカ渡航を経て、生きていくために作物を育てる現地のスタイルを目の当たりにし、「農業とは、生きること」と実感した。「生きるための農業を日本で」との思いを心に留めながら鶴岡で農業に携わり、地域の魅力発信に一役買っている。

2度のアフリカ渡航。
鶴岡は特別な場所。

 「小さい頃、親戚のコメ農家に田んぼに連れて行ってもらったり、トラックに乗せてもらったりしたことがとても楽しかった」と佐久間さん。田植えや稲刈りの作業を間近で見て農業に漠然と興味を持ち、農学部へ進学した。現在は「庄内柿」を活用した商品開発など、地域に密着し多岐にわたり活躍する。しかし、意外にも入学当初は「海外で働きたい」との思いがあった。子どもの頃、自宅で英語教室を開いていた母親がホームステイを受け入れた影響で、海外の食事や文化に興味を持つ。2008年に大学を卒業し、09年1月から11年3月まで青年海外協力隊(JICA)の一員としてアフリカのブルキナファソに行き、日本とアフリカが共同開発したコメの普及活動を行ったり、現地の子どもたちと交流したりした。
 帰国後は山形大学大学院農学研究科に進学。より専門的な知識を学ぶ中、修士課程2年の夏休みにJICAの短期ボランティアで再びアフリカへ。これまで農業を勉強し、海外へコメづくりを広めることをミッションにしてきたが、2度の渡航で身近にあったはずの日本のことを知らない自分に気付かされた。同時に、大学2年の時から暮らす鶴岡に愛着を持つように。鶴岡市は2014年、「ユネスコ創造都市ネットワーク」の食文化部門に加盟した。佐久間さんは、鶴岡を「食を大切にしている町」であり、自身にとって「特別な場所」だと表現する。「大学生の時、手伝いで訪れた農家から、お礼として振る舞われた料理が本当においしかったんです。鶴岡って、何を食べてもおいしいんですよ」と笑顔を見せる。鶴岡で自分の手の届く範囲でできる農業に携わりたいと、修士課程修了後は就農を目指し農家で1年間研修した。

ブルキナファソにて

ブルキナファソにて

庄内柿との出合い。
地元で小さなビジネスづくり。

 研修先で出合ったのが、柿。柿の名産地の庄内では、農家の高齢化で放置された柿の木が地域の課題に挙げられている。放置された柿の木を剪定したり、摘果したりしていく中で、「このまま同じように世話を続けていても、いつか自分も手に負えなくなってしまう」と感じた。地域特産の柿を残していこうと、地元で小さなビジネスをつくる取り組み「ナリワイづくり工房@鶴岡」に参加し、柿の新しい使い道を考える「柿守人(かきもりびと)」を結成。第1弾として「森の柿の葉茶」を商品化した。放置された柿の木だけに無農薬であり、果実は収穫期が限られるが、茶葉は日持ちすることに着目した商品だ。
 その後、「庄内柿を使ったエナジーバーが食べたい」というオランダ人のデイビッドさん、サウジアラビア人のファハドさんと共通の知人を通して知り合い、意気投合して友人に。秋の収穫期だけでなく、新しい柿の〝出口〟を探していた佐久間さんとの思いが重なり、彼らとともに会社を立ち上げ、ナチュラルエナジーバー「SHONAI SPECIAL」を開発した。試行錯誤を繰り返し、2021年にはデーツやアーモンド、庄内産干し柿などを使った、しっとり、もっちりした食感のエナジーバーが誕生し大きな注目を集めた。佐久間さんは「柿はおいしいのに、どこか地味なイメージはありませんか。秋だけでなく、もっと柿は使える、柿ってこんな風に活用できると発信して、世の中の柿の認識を変えていきたい」とアピールする。

「SHONAI SPECIAL」のレシピ作りの時には、どうやってうまく干し柿を乾燥させるかなど、学生時代の実験を思い出しながら取り組んだ

母校・山形大学とのつながり。
自身の「楽しい」直感信じる。

 アフリカ渡航での経験は、今もなお佐久間さんの心に息づいている。生きていくために作物を育てる現地のスタイルから「農業とは、生きること」と実感。「農業の本来の目的である、人間が生きていくために作物を育てること、生きるための農業を日本で実践したい」と話す。鶴岡市郊外の空き家をリフォームし、自宅前の畑でジャガイモや豆などを育てながら、ヤギ4匹をはじめ、猫、ウサギなど動物に囲まれて暮らしている。今でも母校の山形大学との関わりは深い。国際交流に力を入れる山形大学農学部には学術交流協定大学があり、外国人留学生を多く受け入れている。佐久間さんはそうした留学生とも交流を図り、自宅に招いてアフリカ料理を一緒に作って食べたこともある。
 山形大学で培った人脈や知識を生かし、地域おこし協力隊のサポートや移住・定住者向けのイベントを開催している「Sukedachi Creative 庄内」の代表を務めている他、鶴岡市観光案内所でアルバイトもしている。自身を「直感型」と分析する佐久間さん。その行動が「正しいかどうか」ではなく、「自分にとって楽しいかどうか」を想像し、楽しめることをやってきた。「地域おこしをしよう」という意識はなかったが、振り返ると、今までに取り組んできた活動が地域おこしにつながった。「私は初め、国際交流や国際協力をするには海外に行かないとできないと思っていたのですが、デイビッドたちと商品開発を進める中で『鶴岡にいても国際協力ができる』と確信しました」と笑顔を見せる。さまざまなことをアクティブにこなしてきた行動の前には、「楽しく暮らしたいから」との言葉が付いてくる。「行動しているうちに鶴岡にいろんな人が来て、友達が増えたらもっと楽しくなると思います」と佐久間さん。「楽しいから行動する」というのが原動力になっている。

自宅前の畑で作業する佐久間さん

自宅前の畑で作業する佐久間さん

「ヤギと一緒に暮らしたい」との思いから空き家を探し、鶴岡市郊外に居を構えた。内装は鶴岡市内の工務店にリフォームをお願いした。床板と天井は山形大学演習林の杉を使用し、屋根からはまきストーブの煙突が見える

憧れだったヤギとの暮らしをかなえ、動物に囲まれながら日々を過ごす

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さくままどか

さくままどか●仙台市出身。2008年に山形大学農学部卒業。アフリカへ渡航した後、2013年に同大学院農学研究科修士課程を修了した。柿の新たな使い道を模索する「柿守人(かきもりびと)」の代表。「SHONAI SPECIAL」を製造・販売する「1Blue株式会社」を友人らと立ち上げた他、地域おこしに貢献する「Sukedachi Creative 庄内」の代表も務めている。

※内容や所属等は2021年6月当時のものです。

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