はばたくひと #26-①

鈴木梨菜&木村優香

全国学校給食甲子園で卒業生が受賞
地域に根づく教員の輪 vol.1

2023.04.30

全国学校給食甲子園で卒業生が受賞地域に根づく教員の輪  vol.1

全国学校給食甲子園。我が校自慢の給食をアピールすべく、全国から1000件以上のエントリーが集まるこの大会で、山形県高畠町の糠野目(ぬかのめ)小学校が予選を勝ち抜き決勝へと進出。栄えある特別賞を受賞した。
献立を考案したのは、山形大学の卒業生で、同校栄養教諭の鈴木梨菜さんだ。児童が栽培した野菜や地域の食材をたっぷり使ったメニューと、学校独自の食の取り組みが評価された。そして、その献立の食材のひとつとして使われた大根は、同じく山形大学を卒業した木村優香さんが担任する5年生の児童たちが栽培した。山形大学卒業生の2人が教鞭をとる小学校の教室で、受賞にまつわるエピソードと日々の取り組みとについてうかがった。
今回の記事では、県内の小学校で児童の教育にまい進する2人の卒業生の取り組みを紹介。続くvol.2では、それぞれの恩師に当時のエピソードを尋ねる。

児童・職員・地域
一体で作り上げる給食が評価

 町の給食はどの学校も手が込んでいて美味しいと評判の山形県高畠町。福島県出身の鈴木さんは、山形大学を卒業しこの学校に赴任してきた頃に、長年取り組まれてきた食農教育、そして地域との深いつながりに感銘を受け、「子どもたちを含めた様々な方の思いが一つになった献立をアピールしたい」と、全国給食甲子園への挑戦を決めた。
 「1,249 校ものエントリーから4回の書類選考を通過し、北海道・東北代表として最終の7校に選ばれたときは驚きました。普段どおり、いつも当たり前に子どもたちに提供している献立が評価されたことが嬉しいです」と鈴木さん。

受賞した献立

21世紀構想研究会特別賞を受賞した献立。ごはん・大根のピリ辛そぼろ煮・高畠産米粉麺のツナびたし・手作りひじきふりかけ・ふじりんご・牛乳の6品、児童たちが栽培した秘伝豆(3年生)と大根(5年生)のほか、地元の食材がふんだんに使われている。

 学校給食甲子園の様子

第17回学校給食甲子園で、北海道・東北代表として選ばれた糠野目小チーム。決勝大会では栄養教諭と栄養士のチームワークで、1時間で6品のメニューを作る。本番までに練習を重ね「結束力も高まり普段の仕事にも活かされています」と鈴木さん。

 挑戦に選んだ献立は、「心を育む学校給食週間」の一環である「5年生のだいこん週間」で提供した献立のうちのひとつ。「5年生のだいこん週間」とは、5年生が畑で栽培した大根を、1週間の給食でさまざまにアレンジしていただく恒例行事で、食材や食に関わる人々に感謝する心を育てることを目的としている。

大根の種を植える5年生の児童たち

大根の種を植える5年生の児童たち。地域の生産者の指導のもと、種植えから収穫、給食室への納品までを自らの手で行う経験を通し、生産者の思いや苦労を体験する。5年生以外にも、4年生はじゃがいも、3年生は大豆を育てている。

 5年生を担任する木村優香さんは、2017年に山形大学を卒業後、教員として県内の学校に着任。1年目の当校で、児童たちにとってこの体験が食への興味を深めるきっかけになっていると実感している。
 「種植えのときに子どもたちは、赤く小さなその種を見て『大根って白いよね?』『これが本当に大根になるの?』という反応でした。あっという間に成長するスピードにもとても驚いていましたね。はじめは大根が苦手と言っていた子も、給食のときには自分が育てた大根が入ったメニューをおかわりしていましたよ。自分で作った食材で美味しく調理されたものは、子どもたちの興味や好みにつながるんだなと、私自身も大きな発見がありました。」

児童の意欲を
引き出し深める食育

 さらに鈴木さんは、優れた食育授業を評価する「食育授業優秀賞」も同時に受賞している。コロナ禍で黙食を強いられる給食の時間に、少しでも児童たちが楽しみながら学べたらと、食を学ぶ教材(動画)を作った取り組みが評価されたのだ。その内容は、大根が種から給食として完成するまでのストーリーを1分半ほどにまとめたもので、「人のつながりが薄れている今、自分自身が作る作物を通じて、食物・人の命がつながり合い給食ができている」というメッセージを込めた。

給食を作る様子

映像では、普段は見られない給食室の様子や、調理師たちが給食を作る様子も紹介した。

鈴木さんが作成した掲示物

鈴木さんが作成した掲示物。自分の手で栽培した大根を通じて、食の楽しみ方を知ることができる。「大根が1週間を通しさまざまな姿や味になるそのレパートリーの多さに驚きました」と木村さん。

 食育のもうひとつの取り組みとして、年に2回、5・6年生が自分でお弁当をつくり持参する「弁当の日」も好評だ。鈴木さんがお弁当の彩りや食材の切り方などを事前指導し、最後には気付きをワークシートで言葉に落とし込む。この取り組み後、運動会に自分でお弁当を作ってくる児童や、レシピを教えてほしいという児童が増え、「子どもたちが自分の興味や世界を広げるきっかけになっている」という木村さん。
 「今は特にSDGsの流れで食物を大事にしようという意識が強まっています。しかし、自分事として考えてみると、学校に行けば給食があり、家にはお菓子がある。そういった恵まれた環境の中で、自分の実体験として野菜を作ったり、生産の大変さを味わえるという学校の存在は、とても大きいと感じます。食物を作ることの大変さやありがたみを感じることで、食物を大切に思う気持ちが育まれています」。これに対し、鈴木さんは「食を取り巻く環境が大きく変化する今、課題は沢山あります。子どもたちの意欲を高め、学校だけでなく家庭を巻き込むことも大切」と考えている。

山形大学での学びが
現場で活きている

 「栄養教諭という役割は、実は子どもよりも大人とのコミュニケーションの機会が多いんです」という鈴木さん。そんな現場で山形大学での学びが大いに活きているという。文化創生コースの三原研究室を卒業した鈴木さんは、当時の先生方の指導がなければ今の自分はないと話す。
 「三原先生は、授業での学びはもちろんのこと、人としての仕事のあり方や向き合い方など、社会に出たら当然といわれることを、厳しく愛を持って教えてくださいました。この仕事では、ベテランの調理師さんや生産者さんなど、自分の親や祖父母と同世代の方と接する機会が多く、そういった意味で三原先生から教えていただいたことがとても役立っています。栄養教諭だけでなく病院の栄養士など、どの職場にもつながっていることなんだと社会に出てから実感しました。」

 一方、児童教育コースの坂本明美研究室を卒業した木村さんは、当時の学びを今、こう振り返る。
「坂本先生はとても温かいお人柄で、自分の研究テーマではないことでも親身にアドバイスをくれ支えてくださいました。また、坂本先生はフランス発祥のフレネ教育を研究されており、日本に限らない多様なやり方を間近で見ることで、多面的な考えがあることを学びました。
 児童教育コースの先生方は皆温かく、困ったら必ず力になってくださいました。そしてなによりも先生方がそれぞれの強い信念を持っていて、授業やお話を聞いているだけで心から納得することができました。自分がブレそうになったとき、先生方の多様な視点が自分の中にあると感じると強くなれる気がします。」

 ”食べるは楽しい”をモットーに、伝統を引き継ぎながら、子どもたちに伝えられることを一生懸命伝えたいという鈴木さん。そして、子どもたちの生きる力を育み、日々の気付きをきっかけに「やってみたい!」と思えるクラスを目指す木村さん。2人の奮闘はこれからも続く。

(vol.2では、2人の恩師に当時のエピソードや思い出をうかがいます)

木村さんと鈴木さん

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すずきりな

すずきりな●2017年3月山形大学地域教育文化学部食環境デザインコースを卒業。福島県出身。在学中は山形大学吹奏楽団のサークルに所属し、多くの団員と演奏活動を楽しんだ。現在は、高畠町立糠野目小学校に栄養教諭として勤務して6年目。

きむらゆか

きむらゆか●2017年3月山形大学地域教育文化学部児童教育コースを卒業。山形県出身。在学中は、生協学生委員会「Oh,ONE!?」や、ボランティア活動サークル「つくしんぼ」の一員として活動。米沢市立西部小学校で5年間勤務し、現在は糠野目小学校1年目。

※内容や所属等は2023年3月当時のものです。

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