はばたくひと #11

モワー・ダイノー

6年間の日本留学で博士号を取得、
ミャンマーから異文化交流を支援。

2019.08.30

6年間の日本留学で博士号を取得、ミャンマーから異文化交流を支援。

ミャンマーで2番目に長い歴史と伝統を誇るマンダレー大学で、植物学部教授として活躍中のモワー・ダイノーさん。もともとは、1994年にミャンマーで選抜された研究者として来日した。本学で博士(理学)を取得し、現在は母国で研究と教育に励みながら、人文社会科学部がカチン大学と共同で年1回実施している「ミャンマー実習」を現地でサポートしている。

家族の応援を受け、博士号を取得
母国で研究・教育熱心な教授に。

 ミャンマーのカチン族出身のダイノーさんは、1962年12月生まれの56歳。マンダレー大学で生物分類学・植物学を専攻し、1994年にミャンマーで選抜された研究者として日本で学ぶために来日した。本学教育学部(当時)で1年半の間、日本の教育システムと理科教育について学んだ後、ダイノーさんと同じ、生物分類学が専門の原慶明教授(現在は名誉教授)から、「修士・博士を取得するために大学院理学研究科(当時)に進学してはどうか」と打診を受ける。2人の息子の母でもあったダイノーさんは、当初、日本に残って学ぶことをためらったものの、最終的には家族全員に背中を押してもらい、本学大学院への進学を決断。生物学を専攻して修士号を、地球共生圏科学を専攻して博士号を取得した。
 2002年に博士号を取得した後はミャンマーに帰国。当時のミャンマーはまだ情勢が不安定だったこともあり、欧米に渡る研究者が多かったが、約8年間離れて暮らしていた家族のもとに戻り、母国で研究者・教育者として活動する道を選んだ。マンダレー大学での実験助手やミッチーナー大学での准教授等を経て、2018年からマンダレー大学植物学部で教授を務めている。若い頃には、医者になりたいとの思いもあったが、現在は自身の研究を推進しながら学生たちの教育にも熱心に取り組んでいる。

マンダレ-大学の画像

ダイノーさんが勤めるミャンマー・マンダレ-大学。国内で2番目に長い歴史と伝統を持つ。奥にあるのがキャンパスの最も象徴的な建物で、主に事務局として活用されている。

大学院時代を共に過ごしたメンバーとの画像

大学院時代を共に過ごしたメンバーと。生物分類学や多様性の研究に取り組む研究室で、勉強にプライベートに濃い時間を過ごした。

学業もプライベートも充実、
山形で過ごした6年間の思い出。

 1994年に来日してから約8年間の日本滞在のうち、仙台には6ヵ月間、筑波に1年間、あとの6年以上を山形で過ごしたダイノーさん。日本の思い出イコール山形の思い出と言っても過言ではないようだ。特に、大学院生時代に所属した原研究室で過ごした日々が、懐かしく思い出されるという。「HARAKEN NI AKUNIN NASHI(原研に悪人無し!)」と言うほど、原研究室に関わるメンバーはとても優しく、親切にダイノーさんに接してくれた。ミャンマーから異国・日本に飛び込み、熱心に研究に励むダイノーさんの姿は研究室の学生たちにも影響が大きく、海外留学を志す学生が出るなど、日本人の学生にも強い刺激を与えた。「当時のクラスメイトや先輩・後輩、先生たちのことを思うと、今でも会いたくて寂しい気持ちになります」とダイノーさん。
 また、山形での学生生活では、心温かいホストファミリーに恵まれ、日本人の友人もたくさんできた。友人の結婚式に参列したり、祭りに参加したり、山形では色々な活動を体験した。なかでも、山形花笠まつりと河原での芋煮会は、鮮明な思い出として心に残っている。学業面では藻類の研究に取り組み、特に「シアノバクテリア」という水辺などに発生する生物に着目した。河川や湖などの水環境に影響を与えるバクテリアに関する知見は、ミャンマーでも活用できるメリットがあった。様々な思い出が詰まった山形はダイノーさんにとって、日本の中でも特別な場所であり、帰国から17年が過ぎた今も山形への思いは熱い。

山形花笠まつりの思い出

山形の夏の風物詩「山形花笠まつり」は毎年会場に足を運んだ。華やかなパレードはもちろん、ゴミの片付けや来場者のマナーに日本文化の素晴らしさを強く感じた。

JAPAN TENTに参加した際の様子

日本各地で学ぶ世界の留学生が集まるイベント「JAPAN TENT」に参加。多様な文化や考え方に触れ、学外でも多くのことを吸収できた。

学生に指導中のダイノーさん

マンダレ-大学の研究室で修士論文に取り組む学生を指導するダイノーさん。植物や微生物を研究テーマに、多くの学生と研究に励んでいる。

世界で活躍するリーダーを育成
母校のミャンマー実習を支える。

 人文社会科学部では、年1回、現地のカチン大学と共同で、異文化コミュニケーションのプログラムとして「ミャンマー実習」を実施している。多民族、多言語、多宗教が混在するミャンマーで、多文化共生について経験を通して学ぶことが狙いだ。ミャンマー国カチン州を渡航先とする海外実習を実施しているのは、全国でも本学だけ。極めて希少な機会が得られているのも、ダイノーさんの尽力によるものだ。日本語が堪能なダイノーさんは、現地提携校の理事としても全面的に支援してくれている。毎年、10名前後の学生が山形からカチン州を訪れ、現地の学生との交流から楽しさと難しさを学ぶ。このプログラムで学ぶ本学の学生たちについて、ダイノーさんは「山形大学の学生たちはとてもアクティブで、現地の人々の歴史や社会に興味を持ってくれています。2週間ほどの短い滞在の間にカチンの曲も歌えるようになるなど、とても賢い学生たちですね」と語っている。学生一人ひとりとじっくり言葉を交わし、写真に収めるダイノーさんの目は優しさと期待にあふれている。
 今も本学への情熱を持ち続け、学生たちを見守り、その成長の支援も担ってくれているダイノーさんは、本当に心強い存在だ。本学で学ぶ後輩たちには、日本だけでなく世界で活躍するような人物・リーダーになってほしい、と期待している。

ミャンマー実習での様子1

2019年2月〜3月に行われたミャンマー実習。約2週間の実習の最終日は、カチン大学で文化を紹介し合うイベントが開催された。山形大学の学生たちは日本から持参したはっぴと浴衣で国際交流。

ミャンマー実習での様子2

ミャンマー実習中は、現地の文化について自らの目で調査・聞き取りに挑戦。現地では生活や心の中心となっている教会にも足を運んだ。お揃いのTシャツは現地でプレゼントしていただいた思い出の一つ。

もわー・だいのー

もわー・だいのー●ミャンマー出身。理学・植物学専攻。ミャンマーのマンダレー大学で学士を取得。ミャンマー選抜の研究者として来日。2002年本学で博士(理学)を取得。現在、マンダレー大学で植物学部教授を務める。

※内容や所属等は2019年当時のものです。

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