はばたくひと #14

齋藤美帆&岡田汐音

山形初のウイスキーづくりに挑む
初心者チームの要はOGコンビ。

2020.01.30

山形初のウイスキーづくりに挑む初心者チームの要はOGコンビ。

2018年秋、鳥海山の麓に山形県初となるウイスキー蒸留所「遊佐蒸溜所」が産声を上げた。焼酎専門メーカー金龍による新たな挑戦。その主戦力となっているのが、本学理学部出身の岡田汐音さんと農学部出身の齋藤美帆さん。佐々木社長の方針により、初心者チームで挑むウイスキーづくりの糖化発酵と蒸留という、重要な役割を担当している。ウイスキーの熟成とともに2人の成長にも期待したい。

遊佐らしいウイスキーを世界へ
初心者チームでゼロから始動。

 「世界が憧れる酒を、ここ山形から」。そんな大きな志をもってウイスキー業界に新規参入した株式会社金龍の「遊佐蒸溜所」は、山形県初、東北では3番目の蒸留所として話題を集めている。しかも、佐々木社長が任命したチーム4人全員がウイスキーづくりの初心者ということで、さらに周囲を驚かせた。「専門家やベテランに任せると、蒸留所がその人の色に染まってしまう。意欲ある若いスタッフの力でゼロからスタートすることで、遊佐蒸溜所らしさが生まれる」というのが社長の狙いだ。そんな“意欲ある若いスタッフ”として選抜されたのが、本学OGの2人だった。
 齋藤さんは、地元で食品関係の仕事に就きたいという思いから同社を志望し、入社半年後から蒸留所開設準備室に配属になり、工場の建設やウイスキーの製造免許の取得に向けた作業から関わった。一年遅れて入社の岡田さんは、ちょうど就職活動を始める頃に同社がウイスキー事業に参入することを知り、もともとお酒が好きだったことと新しいことに挑戦する環境で働く面白さに惹かれて入社を希望。そして、岡田さんは糖化発酵担当、齋藤さんは蒸留担当と、ウイスキーづくりにおける核心となる仕事を任されることになる。2018年11月、社長の大胆な采配による初心者チームは期待を胸に本格的に動き始めた。

遊佐蒸溜所の外観

名峰鳥海山の裾野に広がる田園地帯にぽつんと佇む遊佐蒸溜所。雪国の暗い風景を少しでも明るくしたいと、真っ白な壁に赤い扉や窓枠をアクセントにした可愛らしい外観。

遊佐蒸溜所入口の看板

遊佐蒸溜所の入り口に掲げられた看板。ロゴマークには、蒸留所から眺める鳥海山の双峰の稜線とポットスチル(単式蒸留器)の独特のフォルムが象徴的にデザインされている。

本場スコットランド製のポットスチル

ウイスキーの本場スコットランド製のポットスチルは、大きな初留釜とやや小ぶりの再留釜の2基。設備も工程もスコットランド流を踏襲し、原料の大麦もスコットランドから輸入。

大学でのさまざまな学び、経験を
ウイスキーづくりに昇華させる。

 ウイスキーづくりの核心となる仕事を行う2人が本学OGとなると「遊佐蒸溜所」で作られるジャパニーズ・ウイスキーへの期待は一層高まる。そんな2人はどんな大学生活を過ごしたのだろうか。齋藤さんは農学部がある鶴岡市の隣、酒田市出身で大学も就職も地元志向を貫いた。大学では植物遺伝学を専攻し、卒論のテーマは、野生ムギ類の遺伝的特徴の解明。より精度の高い結果を求めて根気よく繰り返した実験、先生や先輩、同級生たちと交わした議論、農業試験場でのアルバイト、友人とのドライブや滝めぐりなど、充実した学生生活のすべてが現在の齋藤さんの糧となっている。
 一方、北海道出身の岡田さんは、高校生の頃から生き物が好きで生物学を専攻。研究室配属前は、スピアフィッシング(素潜りで銛などを使って魚を突く水中スポーツ)サークルに夢中になり、春〜秋は毎週海に行き、冬はアルバイトに精を出していたという。動物生理学の研究室では、著名な学者の説だからといって鵜呑みにしない、自分たちのケースに当てはまるかを疑問視する等、批判的に物事をとらえる能力・科学的思考を身につけた。これは、毎日同じ工程を行いながらも、「ここを変えたらどういう結果が得られるだろう」と常に考えながら製造に取り組む現在の姿勢につながっている。

ミドルカット作業をする齋藤さん

ポットスチルから出る蒸留液のアルコール度数、香りなどをチェックし、原酒に適した部分だけを抽出するミドルカットという作業。カットポイントが原酒の特徴を大きく左右する。

温度調節を行う齋藤さん

初留釜の窓から泡の状態を見て温度調節を行う齋藤さん。泡が高く上がりすぎると蒸留液に不純物が交じってしまう可能性があり、温度が低すぎると蒸留効率が悪くなってしまう。

糖化プロセスをチェックする岡田さん

原料である麦芽を粉砕し、マッシュタン(糖化槽)の中で温水と混ぜ合わせて甘い麦汁を作る糖化というプロセス。温水を投入するタイミング、温度等をチェックする岡田さん。

糖化槽をチェックする岡田さん

糖化槽の窓から状態を目視でチェックする岡田さん。それぞれ最適な温度のお湯を3回にわたって投入して糖化を促す。どのタイミングで投入するかは岡田さんの判断。

手探りから技術も徐々に熟成
庄内・遊佐から世界をめざす。

 蒸留所設備の導入に当たっては、新規参入メーカーに必要なサポートを十分に提供してくれるスコットランドのフォーサイス社に依頼。設備の納入から製造ラインが軌道に乗るまでの数カ月間、フォーサイス社のスタッフが滞在し、あらゆるノウハウを伝授してくれたという。さらに、他の蒸留所での視察や研修を通して実務を学んでいった。1年目こそ不安でいっぱいだった2人も、蒸留所での1年間の大まかな流れを把握できたことで、2年目からは自信と余裕が生まれた。温度管理や次の工程に移すタイミング、テイスティングなど、原酒の出来を大きく左右する重要な作業も迷いなくテキパキと行っている姿にもう初心者の印象はない。
 鳥海山麓、湧水の里に誕生した小さな蒸留所は各方面から注目を集め、取材や視察が増えたことで岡田さんは、広報・接客等も兼務することになり、その分を齋藤さんが作業のフォローに入る体制ができている。互いの得意分野と持ち味を生かした絶妙のコンビネーションで蒸留所の主軸を担い、日々貯蔵棟の樽を満たしていく。早ければ2022年には琥珀色に熟成し、「遊佐蒸溜所」発のメイドインヤマガタ・ウイスキーが誕生する。そして、それが新たな出発点。本学ゆかりのウイスキーともなれば味わいも格別というもの。OG2人のさらなる飛躍にカンパイ!(お酒は20歳になってから)

バーボン樽が並ぶ貯蔵棟の様子

蒸留された原酒は樽詰めされ、貯蔵棟で長い眠りにつき熟成の時を待つ。貯蔵樽は主にバーボン樽。年間の寒暖差が大きい遊佐町では熟成が早く進むのでは、と期待されている。

熟成途上のウイスキー

蒸留されたばかりの原酒は無色透明だが、樽に貯蔵され少しずつ琥珀色に近づいていく熟成途上のウイスキー。熟成の状態次第だが、初出荷の時期は早くとも2022年の予定。

齋藤さん&岡田さんにとっての
山形大学とは?

さいとうみほ

さいとうみほ●山形県出身。2017年農学部卒業。株式会社金龍製造課遊佐蒸溜所勤務。主に蒸留を担当するも、糖化発酵もサポート。大学も就職先も地元・庄内地方を志向。趣味は手芸、切り絵など。

おかだしおね

おかだしおね●北海道出身。2018年理学部卒業。株式会社金龍製造課遊佐蒸溜所勤務。午前中は糖化発酵を担当し、午後は広報、デザイン、営業等を兼務。趣味は大学時代に夢中になったスピアフィッシング。

※内容や所属等は2019年当時のものです。

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