はばたくひと ♯34
清水誠太
「海外で働きたい」夢を実現
パナマで作物の病虫害対策に従事
2025.06.13
はばたくひと ♯34
清水誠太
2025.06.13
JICA海外協力隊として昨年1月にパナマへ派遣され、作物の病虫害対策に取り組む清水誠太さん。現地スタッフらと共に、葉や枝に付く害虫や木の病気について調べたり、農家への栽培指導を行ったりしている。大学での果樹栽培の経験と営農指導員時代に培った農業の知識を遺憾なく発揮し現地で奮闘中だ。現在は収穫や手入れをしやすくするため、低樹高化の栽培試験も行っている。「パナマにいられるのもあと1年弱。日々を大切に自分のできることを精いっぱいしていきたい」と意欲を見せる。
高校生のときに漫画「銀の匙(さじ)」を読んで、農業に興味を持ったという清水さん。「自宅から通える距離での進学を考えていたので、山形大の農学部キャンパスが地元の鶴岡市にあったことも一歩を踏み出すきっかけになりました」と笑顔で話す。大学では安全農産物生産学コースの果樹園芸学分野で、リンゴや柿などを栽培したり、管理技術について学んだりした。卒業論文のテーマに選んだのは、朝日町で栽培が盛んなアケビに関する研究だ。「朝日町の生産者に協力をお願いし、受粉のメカニズムについて調べました。大学の課題や飲食店でのアルバイトをこなしつつ、キャンパスから1時間半かけて朝日町へ通うのは大変でしたが、そのときの経験は今の仕事にも役立っています」と生き生きと話す。
大学院修了後は海外で働きたいと漠然と思っていた清水さんだったが、就活セミナーで国連職員の話を聞いたことでその思いはより強くなる。そんなとき、たまたま目にしたのが、JICA海外協力隊のポスターだった。すぐにでも応募したかったが、当時はコロナ禍で海外派遣を一時的に中止していたため断念。実際の農業の現場を知ろうとJA庄内たがわの営農指導員となり、農家から寄せられる栽培の相談にのったり、土壌の分析やコメの等級検査を行ったりなど地域農業に密着したさまざまな業務をこなした。
海外で働く夢を持ち続けていた清水さんは23年にJA庄内たがわを退職。「学生時代に取り組んだ果樹栽培の経験と営農指導員で培った農作物の知識は他の国でも生かせる」という思いのもとJICA海外協力隊に応募し、見事選考を通過した。任せられたのはパナマでの作物の病虫害対策。首都があるパナマシティから車で3時間ほどの郊外にある職場で、現地スタッフらと共に、植物に付く害虫や病気について調べたり、農家への栽培指導を行ったりしている。
栽培している作物はコーヒーやアボカド、パイナップルなどだが、日本とは違い明確な出荷基準や品質を管理する仕組みはない。現地の畑では、木が病気になっていてもそのまま放置されていることがあり、そこからさらに広がれば作物に大きな被害が出る。「日本でのやり方が100%そのまま通用するか分かりませんが、自分の経験や知識を伝えることで、作物の病気を防ぎ、収穫量の増加に少しでも貢献できたらうれしい」と目を輝かす。
海外へ行った経験は修学旅行だけという清水さんは、日本との文化の違いに驚くことも多いという。「電力供給が安定していないため、仕事中に停電が起きることもしばしば。私が焦っていても、パナマの人はのんびり構えています」と苦笑い。日本とは全く異なる国民性に触れることで自分自身の価値観が広がり、世界への興味もさらに高まった。
カカオの苗木の生育状況を確認する様子。昨年アフリカで起きたカカオショックを皮切りに、パナマではカカオを栽培する人が増加しているという。
昨年は、パナマの社会情勢や長引く乾期の影響などで思うように活動することができなかったが、現在は職場敷地内の畑に木を植え、樹高を低くする栽培試験を行っている。パナマも日本同様に農家の高齢化が問題となっており、木の高さを抑えられれば収穫や手入れも容易になるという思いからだ。「パナマにいられるのもあと1年弱。日々を大切に自分のできることを精一杯していく」と意欲を見せる。
今後はヨーロッパの大学院でさらに学びを深め、将来は国際協力の分野に携わる夢を持つ。開発途上国では農家が作物の適切な栽培方法を知らず、十分な収穫量を得られていない場合が多い。「異常気象や人口増加などで食糧危機が深刻さを増す中、作物が安定的に栽培できる方法を伝えられる役目を担えれば」と前を向く。
「さまざまな人種が暮らすパナマに来て、生き方は決して一つではないということに気付かされました。学生の皆さんには自分の可能性を限定することなく、時には肩の力を抜いて夢に向かって羽ばたいてほしい」と笑顔で話してくれた。
雨季に入り田植えの新たな技術試験を視察に訪れた清水さん。現地での会話はスペイン語。JICAの研修施設で2カ月間勉強した後、パナマに短期留学して習得した。
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しみずせいた●鶴岡市出身。2021年3月大学院農学研究科生物生産学専攻修了。専門は果樹園芸学。JA庄内たがわに勤務後、2年間の任期で24年1月からJICA海外協力隊としてパナマ共和国に派遣され現在活動中。作物の病害虫対策などに取り組む。
※内容や所属等は2024年2月当時のものです。