研究するひと #08
村松真
冬期間は廃校で農業、
魅力ある高齢化社会を築く。
2018.04.13
研究するひと #08
村松真
2018.04.13
「東北創生研究所」の村松真准教授と真室川町の「庄司製材所」の共同研究、廃校を利用した農作物の栽培実験が、豪雪・過疎に悩む農山村地域の課題解決策として注目を集めている。冬期間および高齢者の農作物栽培システムを構築し、地域の活性化を目指すプロジェクトを紹介する。
「豪雪・過疎の農山村の課題解決が必要とされながらも、全国的に見ても取り組みがなされていないのが現状です」と話すのは、地域計画学が専門の村松先生。その課題解決策のひとつとして、冬に高齢者が農作物の栽培に取り組むことができるシステムの構築を模索していた。そして、着目したのが秋田県との県境に位置する豪雪地帯の真室川町で、廃校になった中学校の体育館を活用している「株式会社庄司製材所」の取り組みだった。庄司和敏社長は、高齢化・過疎化の一途をたどる地元に少しでも活気と元気をもたらしたいと、旧町立及位(のぞき)中学校のグラウンドを買い受け、製材工場を建設。体育館は町から借り受け、スイス・シュミット社のバイオマスボイラーを導入し、製材時に出るバーク(樹皮)や端材を燃やして木材の乾燥室として利活用している。その余熱を、さらに農作物の栽培にも利用できないかと考えたのだ。
村松先生と庄司社長は旧知の仲。冬期間の農作物栽培システムの構築を目指すという村松先生の取り組みに庄司社長も賛同し、共同研究として展開することになった。その試験研究を推進するために、民間企業・組織、個人(農家)、地方自治体、本学教員等により「真室川町廃校利活用研究会」が組織された。体育館から教室にパイプラインを通して暖気と熱湯を送り、15度〜30度に暖房する。最初に挑戦する農作物として村松先生が選んだのは大葉。高齢者も簡単に栽培できる軽作業の作物で、冬場は需要に供給が追いついていないため高値で売れる。冬期間の収入源としては最適な農作物になるからだ。
廃校の具体的利活用方法として取り組んでいる教室での農作物栽培。光量や室温、肥料、植え付けの間隔など、最適な栽培環境を構築するための試験栽培が始まった。第1期試験研究(2016年10月1日〜2017年9月30日)では、自然光のみ、自然光+人工光、二重ハウス、反射シートの有無など、さまざまな条件下で栽培を行った。その結果、植え付け本数は24本(株間20cm)、光量4,000lm(可変型光源/単位:ルーメン)、反射シートありの場合の生産量が最も多く、最適環境であることがわかった。第2期試験研究(2017年10月1日〜2018年9月30日)では、第1期の成果を土台に大葉栽培試験棟(1教室)、柑橘類等栽培試験棟(1教室)、大葉栽培実用化棟(2教室)を設け、研究を深めることになった。大葉の最適栽培環境の目途が立ったことで、次の試験栽培に選んだ作物は、レモン、ライムといった柑橘系を中心とした南国フルーツ。あえて限界に挑戦しているが、これらの栽培に成功すれば、どんな作物にも対応できる可能性を探る目安になると考えたのだ。
4つの教室で、植物育成のための最適環境の構築、高齢者の理想的な労働環境の構築、効率的かつ合理的な栽培・収穫・出荷方法の構築、LEDライトと有機ELライトの植物育成有効性の比較などを行っていく。研究に必要な資材は、できるだけ地域で産出される地域材を利用し、地域産業への貢献と研究コストの削減を両立させている。
大葉栽培試験棟・柑橘類等栽培試験棟、大葉栽培実用化棟の日々の管理は庄司製材所のスタッフが担当し、村松先生は最低でも週に1日、多いときには5日、東北創生研究所のある上山市からここ真室川町に足を運んでいる。今後は、村松先生のもとで地域づくりを学ぶ学生たちもプロジェクトに参加し、実践を通して多くを学ぶとともに、地域には活気や賑わいをもたらすこととなる。
この「豪雪地帯・過疎地域の廃校を利用した冬期間および高齢者農作物栽培システム構築のための試験研究」は、あくまでも実用化を目指すという観点から、難しい方法は採用せず、特別な道具や材料も使用しないことを徹底している。栽培から収穫、出荷までを考えれば、農学はもちろんのこと、経済学や高齢者に負担をかけない軽作業にするための人間工学など、さまざまな分野の知識やアイデアが必要になる。前述の通り、「真室川町廃校利活用研究会」には、民間企業や農家、自治体など、多分野の人材がそろっており、それぞれの得意分野を生かして研究が進められている。特に、渡邉京市朗さん、石岡浩明さん、植松恒美さんをはじめとする山形大学連携研究員の協力も大きい。民間の実践力、臨場感が大学の知と相まって大きな推進力となっている。
村松先生が考える過疎地域、高齢化地域の解決策は、いかに若者を呼び込むかではなく、元気な高齢者が冬期間も負担の少ない環境でイキイキと農作業を行い、収入を得られる豊かな高齢化社会を築くこと。豊かな高齢化社会は雇用創出にもつながり、若者の呼び込み、呼び戻しにもつながる。まずは、今ある戦力(高齢者)で地域の魅力を醸成し、やがては自身も高齢者となる若者に「こんな地域で豊かに年を重ねたい」と思わせることが課題となる。
大葉栽培実用化棟の大葉が収穫の時期を迎えれば、いよいよ本格的に地元の高齢者が作業に参加することになる。実際に収穫作業を行った高齢者からの声をフィードバックし、改善を重ねていく予定だ。廃校を利用した冬期間および高齢者農作物栽培システムが構築されれば、豪雪・過疎の農山村が抱える課題解決の先駆け的取り組み、さらには理想的なモデルケースとして、今後より注目を集めることになりそうだ。
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むらまつまこと●准教授/専門は地域計画学。東北創生研究所コーディネーター。博士(農学)。東北大学農学研究科に社会人入学し、地域づくり計画を研究。地域活性化、過疎化対策等に実践的に取り組む。真室川町に隣接する金山町出身。
しょうじかずとし●株式会社庄司製材所代表取締役。真室川町廃校利活用研究会会長。廃校のグラウンドに製材工場を建設し、体育館を木材の乾燥室として利活用。村松先生の提案に賛同し、共同研究者としてプロジェクトを力強く牽引。
※内容や所属等は2018年当時のものです。