研究するひと #42

脇克志

地域企業や自治体との協働で
課題解決に挑む実学志向の教育。

2021.12.30

地域企業や自治体との協働で課題解決に挑む実学志向の教育。

理学部では、低学年次からのデータサイエンス教育に力を入れており、データサイエンス推進センターを立ち上げた脇克志教授は、「山形大学データサイエンス教育研究推進機構」においても重要な役割を担っている。学内はもとより、他大学の教材やコンテンツの開発にも協力し、東北地域のデータサイエンス教育の推進を支援。さらに、地域企業や自治体の社会人と学生が協働で行う実学的な活動を主導している。

データサイエンス教育を
実学志向で全学へ、地域社会へ

 理学部では、2017年にデータサイエンスコースカリキュラムを新設し、低学年次からのデータサイエンス教育をスタートさせた。さらに、翌2018年にはデータサイエンス推進室を立ち上げ、多角的にデータサイエンス教育に取り組んでいる。そして、本学が申請したプロジェクトが平成31年度文部科学省共通政策課題「数理・データサイエンス教育強化経費」に採択されたことを受け、データサイエンス推進室はデータサイエンス教育研究推進センター(以下、DS教育研究推進センター)へと拡充。理学部2号館5階には、同センターが企画する各種セミナーやミーティングの会場として関係者が自由に集えるデータサイエンス多目的ホールも整備された。本プロジェクトの使命は、地域ニーズに対応した実学志向の教育コンテンツを開発し、全学的な数理・データサイエンス教育を行うというもの。DS教育研究推進センターは、教育部門、地域連携部門、カリキュラム・教材開発部門の3つの部門から成り、それぞれの役割を担い、互いに協力しながら本プロジェクトの狙いである「地域企業と連携し、現実のデータを基に実学志向の数理・データサイエンス教育を行う」の実践に取り組んでいる。

DS教育研究推進センターの3つの柱

実学志向のデータサイエンス教育を実施する「教育部門」、地域企業・自治体の協力のもと取り組む「地域連携部門」、他大学と連携して目指す「カリキュラム・教材開発部門」。

 教育部門では、低学年次の全学的な数理・データサイエンス教育を実学志向で行う。小白川キャンパス内の他学部や地域の企業、自治体と連携することで実際のデータを入手し、実学志向の教育を実践。特に、人文社会科学部にはデータサイエンスと関わりの深い経営学や心理学分野があり、更なる連携が期待されている。地域連携部門では、地域企業・自治体の協力のもと解析元となるデータの入手やデータ分析のニーズ調査等を担う。そして、カリキュラム・教材開発部門の役割は、数学やプログラミングが得意ではない文系の学生にわかりやすく、理系の学生にも役立つ教材の開発及び山形県内の中・小規模大学向けカリキュラムの開発等。全国の大学で教材は既に存在するが、それらを活用し、さらに地域企業との連携から生まれた題材も盛り込んだ本学オリジナルの教育コンテンツを開発した。それを基に東北エリアの中小規模の公私立大学及び短期大学向けにそれぞれの大学のニーズに応じたコンテンツを開発し、東北地域のデータサイエンス教育の推進を支援する役割も担っている。脇先生は、文系学生向けにキーボード操作なしに、マウスだけで作業できるソフトウェア「Rコマンダー」をUSBメモリーに入れて教材として配布。各自パソコンに差し込むだけでプログラミングを体験できるようにした。インストールを必要としない究極の簡単教材として他大学にも提供されている。また、データサイエンスマイスター制度を設け、データサイエンス関連の授業の中から履修プログラムを構成し、一定以上の成績を収めた学生を認定する。認定された学生はオンライン学習におけるTA(ティーチング・アシスタント)として採用され、オンライン学習の質の向上をサポートする。

データサイエンスCafé

データサイエンスや人工知能に興味のある学生・教員・社会人が集まり、その時々の関心事をテーマに据えて行う勉強会。カフェ感覚で気軽にいろんな人と出会い、学び合う場所。

データサイエンス・スタディセッション

地域企業や自治体と連携して社会人と学生が協働して実学的なデータサイエンスを学ぶ勉強会。学生は、企業が持つデータを題材に分析、課題解決に向けたプレゼンを行う。

総合大学の強みを活かし
データサイエンスの未来を拓く

 データサイエンス多目的ホールでは、データサイエンスや人工知能に興味を持つ学生・教員・社会人が集まり、その時々の興味に合わせたトピック型の勉強会「データサイエンスCafé」を毎月2回開催している。さらに、地域企業・自治体と連携した実学志向のデータサイエンス教育の一環として、社会人と学生が協働して行う勉強会「データサイエンス・スタディセッション(DSSS)」も実施している。参加学生はチームになって、企業が設定した課題を解決するために必要なデータ分析・解析の技能や手法を学習手順に沿って修得し、最終的に参加企業に対して課題解決に向けたプレゼンテーションを行う。学生にとって有意義な経験になることはもちろん、企業の社会人にはこれからのビジネスに欠かせないデータサイエンスに関する知識の「学び直し」の場として、企業の課題解決のヒントへとつなげてもらう考えだ。コロナ禍で一堂に集まる機会が制限される中、オンラインなどを活用しながら着実に活動を続けている。また、より多くの学生がこのホールを訪れるきっかけになればと、工学部から3Dスキャナーと3Dプリンターを借り受け、自由に体験できるコーナーも設けている。
 DS教育研究推進センターは、2019年に設置され、様々な活動を行なってきたが、今回「山形大学データサイエンス教育研究推進本部」が整備されたことで何が変わったのだろうか。「まず、機構が設置されて全学組織となったことで、各学部に協力教員が配置され、連携が非常にしやすくなりました」と脇先生。特に、機構のもうひとつの組織である工学部の「AIデザイン教育研究推進センター」とは定期的に情報交換を行うなど、連携強化が図られている。「データはどんな分野にも関係するものなので、総合大学としての強みを活かしてデータサイエンスをキーワードに、全学部がつながれば、教材開発にも地域連携にも様々な展開が考えられます」と、脇先生は今後データサイエンスの教育研究が加速していくことに期待を寄せている。

USBで教材を配布

文系学生向けの教材として配布されているUSBメモリー。マウス操作で処理が可能なソフトウェア・Rコマンダーがインストール不要で使用できる。

多目的ホール

データサイエンスに興味を持つ全学生が自由に利用できる多目的ホール。各種セミナーやプレゼンテーションが開催されるなど、学生と社会人の交流の場にもなっている。

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わきかつし

わきかつし●教授/博士(理学)。専門は数理科学。データサイエンス教育研究推進センター長。実学志向のデータサイエンス教育の推進を主目的とし、地域連携や教材開発にも注力している。

※内容や所属等は2021年9月当時のものです。

みどり樹

この内容は
山形大学広報誌「みどり樹」
Vol.80(2021年10月発行)にも
掲載されています。

[PDF/3.7MB]

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