研究するひと #02

金井塚勝彦

分子積み木を自在にデザインし、
より効率的なエネルギー創出へ。

2017.10.06

分子積み木を自在にデザインし、より効率的なエネルギー創出へ。

分子や粒子を整列させる技術を確立することで次世代太陽電池や燃料電池、化学センサーなどに役立てたい。金井塚勝彦先生の研究室では、「エネルギーの高効率利用」「ナノ界面における分子の構造制御」の観点からクリーンエネルギー創出に関する研究に取り組んでいる。その成果のひとつである「機能性色素とナノメタルの複合界面形成による高効率発電素子の創成」で金井塚先生は2016年にインテリジェント・コスモス奨励賞を受賞。ナノ世界の大きな可能性に着目してみよう。

化学反応で分子を整列させる
ナノ界面アーキテクチャ

 錯体化学・電気化学を専門とする金井塚勝彦先生の研究テーマは「機能性分子のナノ界面接合技術の確立」。これを噛み砕いて表現するならば「化学反応を巧みに利用して、分子や粒子を基板の上に整列させる技術を確立させること」だという。分子や微粒子などの機能性化合物の配向や数を、ナノメートルスケールで設計して基板に固定する技術で、“ナノアーキテクチャ”と表現されることもある。さまざまな機能をもつ分子や粒子を積み木感覚で並べたり、積み上げたりと、楽しいイメージではあるが、分子積み木の場合は手にとってできる作業ではない上に、化学反応を利用して崩れないように結合させるひと手間も必要となる。まったく目に見えない“ナノレベルの加工”は、計算によるシミュレーション→仮説→実験→検証→さらに推察→再び仮説…の流れを繰り返し、ようやく証明に至るため多くの工程を要する。どんな機能性分子をどのように並べ、積み上げるかでさまざまな分野への応用が可能となる基礎研究なのだ。
 例えば、ナノレベルの加工によって電極上で分子の向きを変えることができれば、電気の流れやすさや量、時には流れる向きを逆転させるなどのコントロールが可能となる。また、基板上にナノレベルで分子をデザインすることで、これまでの分子個々の性質とは違った、集団としての新たな機能を発現させることもできる。また、複数の異なる分子を積み上げることで、小型かつ効率のいいシステムを構築することも可能になる。現在使用されている塗って乾かすだけのデバイスは、工程が簡単というメリット以外は、効率も良くなければ耐用期間も短いという問題を抱えている。そこで、このデバイスに分子を組み立ててデザインするナノレベル加工の技術を取り入れれば、高効率のシステムが構築でき、次世代太陽電池や燃料電池、有機EL素子、化学センサーなどに活用することでクリーンエネルギーの創出につなげることができる。

分子積み木による機能性ナノ界面の構築機能性分子を化学結合によって積み木のように基板の上に積層することで、効率の良いシステムの構築が可能になる。

新たな機能を引き出す
独創的な研究で奨励賞を受賞

 従来の大きな物質を切り崩しながら小さくしていくトップダウンという手法では、電極上の機能性材料の精密加工に限界があった。しかし、“ナノレベルの加工”によってナノ構造体を構築することができるようになったことで、目的に合わせて分子や粒子を1つずつ連結していくボトムアップ手法がとれるようになった。精密な構造体形成が可能になったことで、様々な機能をもつ材料やデバイスを得ることができる。このようにナノメートルスケールで効率よく電子やイオン、プロトンが動ける界面を構築していくことで、これまでのエネルギー変換材料・デバイスの課題解決に大きく貢献できると考えられている。
 また、分子と金属の微粒子を積み上げることで色素を接着させ、発電効率を7倍ぐらいアップさせることにも成功。この研究成果をまとめた「機能性色素とナノメタルの複合界面形成による高効率発電素子の創成」で金井塚先生は、科学技術分野において独創的で優れた研究テーマを持つ将来有望な若手研究者に授与される「第15回インテリジェント・コスモス奨励賞」を受賞した。
 さらに、金、銀、銅などのナノメタルは集団で近くに存在すると相互作用で、単独の時とは大きく異なる物性を発現し、これにより可視から近赤外まで目的に合わせた色のデバイスが構築できる。赤外光を吸収する機能性分子と組み合わせれば、透明な太陽電池への応用も期待できる。現在普及している黒い太陽電池は、屋根や壁面など設置場所が限られてしまうが、透明な太陽電池であれば窓などにも展開でき、生活空間を妨げずに発電することができる。

基板上に銀ナノ微粒子を固定させる際の機能性分子のあり・なしのイメージ図と原子間力顕微鏡で測定した3次元画像

銀ナノ微粒子の界面接合基板上に銀ナノ微粒子を固定させる際の機能性分子のあり・なしのイメージ図と原子間力顕微鏡で測定した3次元画像。微粒子の密度や高さに違いがあるのがわかる。

企業との共同研究も多数
学生の経験値も高い研究室

 このように多様な応用例を示されると、つい性急に実用化を期待してしまいがちだが、金井塚先生はあくまでも研究者として、新しい機能の発見や今までわからなかった構造の解明こそが理学部の本分というスタンスをとる。実用化は企業の領域。だから、研究内容に興味をもった企業との共同研究も多く、そのディスカッションの場に学生たちも積極的に参加させている。学生たちは、大学ならではの自由な研究環境と企業の現場感覚を同時に体験できている。

インテリジェント・コスモス奨励賞

インテリジェント・コスモス奨励賞受賞インテリジェント・コスモス学術振興財団より将来有望な科学技術分野の若手研究者に対し授与された奨励賞の楯。

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かないづかかつひこ

かないづかかつひこ●准教授/専門は錯体化学・表面化学・電気化学。東京大学大学院理学系研究科修了、博士(理学)。2011年本学着任、2014年より現職。2016年、若手研究者に贈られるインテリジェント・コスモス奨励賞を受賞。

※内容や所属等は2016年当時のものです。

みどり樹

この内容は
山形大学広報誌「みどり樹」
Vol.69(2016年9月発行)にも
掲載されています。

[PDF/5.78MB]

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