研究するひと #31

根本建二

東北初の重粒子センター誕生へ
「山形モデル」の開発・確立に尽力。

2020.09.30

東北初の重粒子センター誕生へ「山形モデル」の開発・確立に尽力。

2021年、北海道・東北エリア初の重粒子線治療施設「山形大学医学部東日本重粒子センター」(以下、東日本重粒子センター)が治療を開始する。しかも、先行する国内6カ所の重粒子線治療施設にはない附属病院との直結型。放射線医学講座の根本建二教授(同センター長)等は、メーカーと共同で省エネ・省スペース・ハイスペックな新装置を開発・導入した。「山形モデル」として国内外で高い評価と期待を集めている。

重粒子線治療施設の空白エリアに
待望の重粒子センターを実現。

 今や日本人の2人に1人ががんにかかる時代。その治療法の3本柱とされているのが、①放射線治療 ②外科療法(手術) ③化学療法(抗がん剤)。放射線治療の一種である重粒子線がん治療とは、加速器によって高磁場を発生させ、光の速さの70%近くにまで加速させた炭素イオン(重粒子)を患部に照射する治療法。重粒子線のエネルギーのピークをがん細胞に合わせることにより正常細胞への影響が少なく、ピンポイントで腫瘍に集中照射できるため、高い治療効果が期待できる。重粒子線治療に関して、日本は世界トップレベルの技術と実績を誇っており、公的保険適用が部分的に認められるなど、徐々に「普通の治療」になりつつある。
 しかし、既存の重粒子線治療施設6カ所はすべて関東以西にあり、北海道・東北地方は空白地帯となっていた。国民に等しく治療を提供するためには医療インフラに偏りがあってはならないと、本学では10年以上前から重粒子線治療施設の設置を標榜。2012年には「山形大学重粒子線がん治療施設設置準備室」を組織し、本格始動。長年の取り組みが国に認められ、山形県、山形市をはじめとする県内市町村からも多大な支援と期待を受けて建設がスタート。いよいよ2021年春、東北6県+新潟県、そして北海道までを広域にカバーする「東日本重粒子センター」が誕生する。

東日本重粒子センター棟

小型化した装置を重ねてレイアウトしたキューブ型の東日本重粒子センター棟。省スペース化により、市街地にある医学部附属病院の敷地内設置を可能にした。

総合病院との直結を可能にした
省スペースな山形モデル。

 根本先生等が掲げた東日本重粒子センターの4大コンセプトは、省エネ・省スペース・廃棄物ゼロ・イージーオペレーション。従来の装置をそのまま導入するのではなく、これらのコンセプトにかなう新たな装置の開発・導入にこだわった。結果、装置メーカー(東芝エネルギーシステムズ)との共同研究により、画期的な「山形モデル」に到達。従来の加速器は大型で施設の建設にはサッカー場ほどの敷地を必要としたが、山形モデルは自由な方向からがんを狙い撃ちできる回転ガントリーを超伝導技術により超小型化し、さらに、それら装置を重ねてレイアウトしてキューブ型の建物にすることで、究極の省スペース化を実現した。これにより、市街地に所在するため敷地面積が限られていた大学病院の一画に建設することが可能になり、渡り廊下で連結されている。
 国内唯一の総合病院と直結するセンターであるため、余病と重粒子線によるがん治療をあわせて受けられる、内科医との連携で抗がん剤治療と組み合わせた治療がよりスムーズに行えるなど、メリットは大きい。この超小型化回転ガントリーを含む先駆的な山形モデルは、既に韓国で設置計画が進むなど、海外からも高い関心を集めており、重粒子線治療の有効性が欧米でも立証されれば一気に普及していくものと思われる。

センター内の機器レイアウト図

センターは、地下1階・地上4階建て。治療室となる2階の固定照射室と回転ガントリー照射室に地下1階の加速器室から重粒子線が供給され、患者さんの腫瘍に照射される。

加速装置

地下1階の加速器(シンクロトロン)室。省エネ運転を実現した山形モデルで、炭素イオンを加速器で光速の約70%にまで加速して、陽子の12倍重い重粒子線を供給する装置。

回転ガントリーの大きさ比較

超伝導を用いたことで回転ガントリーの小型化に成功。従来モデルと比較すると、いかに省スペース化が図られているかが一目瞭然。山形モデルの大きな特長の一つとなっている。

回転ガントリーの前に立つ根本先生

回転ガントリーの前に立つ根本先生。画期的に小型化されたといってもこの大きさ。従来型がいかに巨大なものかがうかがえる。この円筒形の装置全体が両方向へ180°ずつ軸回転する。

医療インバウンドで地域振興、
学生に最前線で学ぶ誇りと夢を。

 今後、世界各地で山形モデルの導入が進めば、国際医療に山形大学が大きく貢献するとともに、山形県や「健康医療先進都市」を掲げる山形市との連携により、インバウンド患者の受け入れなども期待できる。2016年には山形市と本学医学部は、包括的連携協定を締結しており、医療ツーリズムの受け入れなど医療の国際化に双方の保有する資源を有効に活用することを申し合わせている。
 一方、世界をリードする重粒子線センターを有する本学で学ぶ学生たちにとってもその意義は大きい。「まさに、がん治療の最前線を目の当たりにし、見学や実習などの機会にも恵まれますから、その希少な経験は医師となった後も大きなアドバンテージとなるはずです。これを機に、がん医療の拠点として世界的にも注目度が高まり、国際交流も活発化することでしょう」と根本先生。さらに、重粒子線治療だけでなく、病院全体で外国からの患者を受け入れる体制を整備しており、「ジャパンインターナショナルホスピタルズ(JIH)」の認証を受けるなど、国際化に取り組んでいる。国際化に関しては新型コロナウイルスの終息を待つほかないが、国内、特に東北エリアでは、がん治療の強力な武器となる東日本重粒子センターの一日も早い治療開始が待ち望まれている。

2階の回転ガントリー照射室

2階の回転ガントリー照射室。X線画像とロボティック治療台による高速位置決めと高速3Dビームスキャニングによるイージーオペレーション。寝たまま楽な姿勢で治療が受けられる。

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ねもとけんじ

ねもとけんじ●教授/専門は放射線腫瘍学。東日本重粒子センター長。東北大学医学部卒業、同大学院医学系研究科博士課程修了。同大学院量子治療分野、山形大学医学部附属病院長を経て、2020年4月より理事・副学長。

※内容や所属等は2020年当時のものです。

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