研究するひと #36

森田智幸

現場主義を貫き、教育現場を改革
学校の日常を良い方向に導く。

2021.07.15

現場主義を貫き、教育現場を改革学校の日常を良い方向に導く。

人と人が向き合う教育現場にこそ、最先端の理論は埋め込まれている。森田先生は「学校改革の理論(学びの共同体)」をテーマに、学校の日常をより良い方向に導く研究に取り組んでいる。現場主義を第一に山形県内の小・中学校を訪問。実際に見聞きし、現場から離れた理論では語りきれない部分を明らかにしている。研究は広がりを見せ、本学の学生や山形県内の高校生と「学びのフォーラム」を開催。2020年度には「教職の魅力創造プロジェクト」を立ち上げ、教員志願者の増加につなげようと尽力している。

学校の内側から
教育システムを変える。

 「学校改革の理論」は教育システムを根本から変えていこうというもの。授業のみならず、行事なども含む学校全体の日常を変えていく理論だ。
 学校以外の例を挙げると、医療現場では複数の医師や看護師らが随時話し合い、その時々の病態に応じた最善の治療法を模索する。教師の仕事も同様であるはず。教師たちが話し合い、随時修正できる状況があれば学校の日常はより良くなるはずだ。問題解決のため話し合いの場を増やすといっても、長い会議を開いたり、資料を多く用意したりということではない。大切なことは、目の前の子どもの学びを共に把握し、次の一手を探り合う場を、短時間でもいいから日常的に設けることだ。
 森田先生は2012年に本学に着任以来、山形県内の小・中学校を中心に年間100日以上訪問。教育実践の場を直接見て声を聞き、現状を分析してシステムの構築と検証を行っている。
 学校改革の理論の研究者は海外にも多いが、研究材料が豊富なのは日本。森田先生が学会で発表した研究内容は海外での関心が高く、台湾やタイ、韓国などアジア各国の学校からも授業研究会に招聘されている。2016年には、北京師範大学からパイロットスクールへの指導を依頼され、研究員として北京市を中心とした中国国内の学校に関わっている。

学生、高校生、教員が意見交換
「学びとは何か」を考える。

 本学大学院教育実践研究科では2015年から定期的に、学部と大学院の学生、山形県内の高校生との合同ゼミナール「学びのフォーラム」を開催している。コーディネートは森田先生、運営は学生が担当。
 開催の狙いは大きく2つある。まずは教職に関心を抱く高校生や学生を増やすこと。次に、さまざまな人が教育について議論できる機会を設けることだ。いじめや自殺といったマスメディアが取り上げる分かりやすい問題は盛んに議論されているが、「学ぶとはどういうことか」という教育の根本はあまり議論される機会がない。「どうすればより良く学べるか」「授業でどのようなことをすれば有効か」といった問いについて、高校生の声から学ぶことも多い。
 2018年には現役の教員も加えて開催。高校生の言葉を教員に聞いてもらう意義は大きい。
 フォーラムで使うテキストに、「現代は、『学び』から『遊び』を取り除き、『勉強』を中心とした社会になってしまった」とある。本来、学びは遊びと渾然一体だった。遊びの要素を抜いてしまったから、今の高校生は勉強に追われている。
 「勉強に遊びを足して学びにしていくのが、私たちにできること」と参加した高校生は言う。さらに「先生は私たちのことがほとんど見えていない。挙手の回数やテストの点数で評価している」「分かりにくく難しい授業でも、先生が楽しそうに授業をしていれば興味が湧く」など、学校側とは違う視点を持っている。
 フォーラムに参加した高校生は将来、教職現場を変え得る人材。実際、参加者の約1割が本学に入学し、教職の勉強に励んでいる。高校生の教職への興味を引き出す機会になると同時に、現役の教員には研修の場になっている。

学びのフォーラム

定期的に開いている「学びのフォーラム」には本学の学生、山形県内の高校生、現役の教員が参加し本音で意見交換している。

優秀な教員志願者の増加目指す
教職の魅力創造プロジェクト

 近年、全国的に教員志願者の減少が深刻で、教職を目指す優秀な人材の裾野を広げることが喫緊の課題になっている。そこで本学大学院教育実践研究科と地域教育文化学部は、山形県教育委員会と共同で、教職を目指す県内の高校生や学生を主体とした「教職の魅力創造プロジェクト」を2020年度から企画・実施している。全国に先駆けた事例として、文部科学省の「令和2年度教員の養成・採用・研修の一体的改革推進事業」の「教職の魅力向上に関する取組の推進」で1位の評価で採択された。
 教職の魅力創造プロジェクトの活動は大きく、「教職の魅力創造プログラム」と「教職の魅力創造プラットフォーム会議」の2つに分けられる。
 「教職の魅力創造プログラム」は3つの企画で構成。1つ目は先に説明した「学びのフォーラム」だ。2つ目は「恩師聞き書き」で学生と高校生が一緒に現役教員にインタビュー。教員を目指した動機や、教育現場での苦労などを聞き取り、写真や動画を撮影し、その内容を文書や映像で報告する。学生や高校生は教員から直接話を聞ける貴重な機会で、自分を見つめるきっかけにもなる。一方、取材を受けた教員からは「自分の教員人生がどういうものか見えてきた」との声が寄せられ、相乗効果を生み出している。
 3つ目は山形県教育委員会からの提案で始めた「教員体験セミナー」。高校生と学生が小学校を訪問し、教員の仕事を見学する。

恩師聞き書き

高校生や学生が現役の教員にインタビューして撮影も行う「恩師聞き書き」は、教職への理解を深めるきっかけになっている。

教員体験セミナー

高校生と学生が小学校を訪問する「教員体験セミナー」。授業を見学したり、児童と話したりして、教員の仕事の内容を学ぶ。

 教職の魅力創造プラットフォーム会議は年3回開催。教職の魅力創造プログラムに参加している高校生や学生、大学、山形県教育委員会の関係者が集まり、意見を交換している。
 教職の魅力創造プロジェクトは教職に興味を持ってくれる人を増やすために始めた。参加者が教員採用試験を受ける際、人から伝えられた言葉ではなく、自分の経験を踏まえて具体的に志望理由を語れるようになるのが理想。プロジェクトに参加すれば、授業の作り方や目指す教員像を語れるようになるだろう。
新型コロナウイルスの影響で社会はオンライン化が進んだ。教職の魅力創造プロジェクトで作成した動画は、本学WEBサイトでも配信。コロナ禍でオープンキャンパスが開けない中、大学の取り組みを高校生に発信する手段になった。中学校や高校での進路指導の材料にも有効だ。

魅力創造プラットフォーム会議

マスクの装着など、新型コロナウイルスの感染対策を徹底して「魅力創造プラットフォーム会議」を開催。高校生や学生、大学、山形県教育委員会の関係者で意見交換を行った。

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もりたともゆき

もりたともゆき●准教授/専門は教育史、カリキュラム開発。東京大学教育学研究科、修士(教育学)。東京大学教育学研究科、博士課程単位取得満期退学。2012年講師、2015年から准教授。東京大学大学発教育支援コンソーシアム推進機構、北京師範大学、東アジア教育研究所の各研究員も務めている。

※内容や所属等は2021年6月当時のものです。

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