研究するひと #11
松井淳
電子ペーパーのフルカラー化など
高分子化学で新たな材料を開発。
2018.07.14
研究するひと #11
松井淳
2018.07.14
松井淳教授の研究室では、「形は機能」のコンセプトのもと、高分子化学を基盤とした機能性高分子とハイブリッド材料に関する研究を行っている。具体的には、燃料電池に必須の材料や電子ペーパーのフルカラー化につながるハイブリッド薄膜の開発など。特に、松井先生の指導のもと博士前期課程2年の萱場裕貴さんが開発に成功したハイブリッド薄膜は、第26回ポリマー材料フォーラムで入賞し、話題となっている。
高分子と聞いて明確にイメージできる人は少ないのではないだろうか。しかし、実は高分子は私たちの身の回りに溢れている身近な存在なのだ。高分子とは、非常に分子量の大きな巨大分子で、繊維、ポリ容器、ゴムタイヤ、家電製品などに使われている軟らかくて丈夫な材料であり、植物や動物の基本骨格を構成している重要な物質でもある。自然界に存在する高分子は、植物界ではセルロース、デンプン、ポリフェノール、天然ゴムなど、動物界ではタンパク、キチン、グリコーゲン、遺伝の世界では核酸(DNA)がある。また、人工の高分子としては、繊維、ゴム、プラスチック製品、ポリ容器、高強度材料、機械部品、自動車部品などが挙げられる。高分子は、分子構造がほとんど同じで、少し変化させるだけでさまざまな材料に姿を変える。
松井先生の研究室では、「形は機能」というコンセプトのもと、分子サイズからマイクロメートルサイズまでの大きさで整列・混合・融合させることで、新たな機能材料の開発を行っている。現在、着手している主な研究としては、水を吹きかけることで高度に整列する高分子や、燃料電池の電解質として働く高分子、電気によりさまざまに着色する有機・無機ハイブリッド材料の開発などである。特に、有機・無機ハイブリッド材料は、電子ペーパーのフルカラー化などへの応用が期待されている。
松井先生の指導方針は、学生主体で研究を進めること。そして、学生からの質問に対しても全部は教えず、自分で考えさせること。今最も注目を集めている「ハイブリッド薄膜」の開発は、理工学研究科博士前期課程2年の萱場裕貴さんが主体的に取り組んでいる。電子ペーパーのフルカラー化への応用が期待されるこの新材料について、2017年11月のポリマー材料フォーラムで発表も行い、広報委員会パブリシティ賞を受賞した。
紙の代替物として電子書籍などに利用されるディスプレイ「電子ペーパー」は、反射光を利用するため、スマートフォンなどに比べて省エネルギーで、長時間使用しても目が疲れにくいメリットがある。現時点では、モノクロが主流だが、電気を加えることで色が変わるエレクトロクロミズムを利用すれば、フルカラー化も可能だ。このエレクトロクロミズムの応用例としては、すでに航空機の電子カーテンとして実用化され話題となった。しかし、フルカラー化となると、従来型では色数の分だけ電極が必要で素子構造が非常に複雑なこと、コストがかかりすぎることが課題となって実用化には至っていない。その点、本研究では、高分子膜と無機ナノ粒子を層状にした「ハイブリッド薄膜」を用いることで、1つの電極でフルカラー化を可能にしている。この薄膜は初期状態では青色で、電気を加えると黄色を示し、電圧を変えると青と黄が足し合わされて緑色になる。つまり、電圧をコントロールすることで絵の具のように色の足し引きが自由にできるというわけだ。次のステップとして赤系の色を出す研究を進めており、これに成功すればフルカラー化が実現する。
基礎研究のイメージが強い理学部で、ものづくりに直結する高分子化学分野が学べる大学は少ない。実は、松井先生自身も工学部出身。それでも、ハイブリッド薄膜による電子ペーパーのカラー化の研究がそうであったように、製品開発を目的に始めた研究ではなく、研究を進めた先に製品化の輪郭が見えてきたという点では非常に理学部的だ。
今後、松井先生は高分子の性質について新説を証明することを目指して研究を続け、それらがいつの日か環境問題の改善等の社会貢献につながることを願ってやまないという。例えば、二酸化炭素を有効利用し、ポリマー材料を作り出すなど、“形で新しい機能を作り出すこと”で、学生が楽しく、社会が楽しくなるように、地道で夢のある研究・実験は続く。
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まついじゅん●学術研究院教授(理学部主担当)。大阪府出身。東北大学工学研究科材料化学専攻、博士(工学)。研究室では、高分子化学を基盤とした機能性高分子とハイブリッド材料を研究。本学着任は2013年4月。
※内容や所属等は2018年当時のものです。