研究するひと #46

高澤由美

都市計画は、拡大から共創へ。
地域資源を活かして目指す
持続可能な地域づくり。

2022.04.30

都市計画は、拡大から共創へ。地域資源を活かして目指す持続可能な地域づくり。

人口減少やサスティナブル社会を目指す世界的な取組など、社会情勢の変化を受けて都市計画のあり方も大きく変容している。都市計画や観光まちづくりを専門分野とする高澤由美准教授の研究テーマは「ウェルビーング(幸福感)の向上に寄与するローカルツーリズムの再構築」。今ある地域資源に新しい価値を見いだし、来訪者や地域の人々の幸福感を高めようと山形県内の観光地で様々な活動に取り組んでいる。

地域資源を活用した都市計画
小野川温泉での調査と学び

 建物や景観に興味があり、大学では建築学科出身の先生のゼミに所属していたという高澤先生。しかし、その指導教員の「建物だけ良くなっても周りの地域が必ずしも発展するわけではない。地域全体が良くなっていくことが大事」という言葉に刺激を受け、都市計画に興味を持つようになった。都市計画というと市街地開発をしたり、道路を整備したり、何かを新しく造ることをイメージしがちだが、2000年頃から縮小していく社会情勢に対応しながら変化していくことが求められるようになった。多様化する社会課題を解決するために都市計画が関わる分野も歴史や観光、環境、景観など徐々に拡がりつつある。そんな変化を受けて、高澤先生の関心は、都市計画を基盤としながらも、その周辺のまちづくり、地域づくりへと広がっていった。
 高澤先生は、10年ほど前に米沢市からの依頼で市が取り組む景観形成計画にファシリテーターとして参加。それをきっかけに景観重点地区であり、景観をなんとかしたいと考えていた小野川温泉との繋がりが生まれ、いろいろ関わっていく中で温泉の泉質や集客についても相談を受けるようになっていった。高澤先生自身が様々な調査で何度も小野川温泉を訪れ、泉質等については学内他分野の先生方の協力も得ながら調査。地域の人々との連携も深まり、学生たちのフィールドワークの場にもなっている。

旅館のご主人との打ち合わせ風景

小野川温泉の景観づくりについて相談を受ける中で地域の人々との関わりがどんどん深まり、温泉の泉質や集客の話にまで広がっていった。それぞれの専門分野の先生方にも協力いただき、アドバイスを行なっている。

観光に幸福感の向上という
新たな価値を創出する取組

 現在、高澤先生は「ウェルビーイングの向上に寄与するローカルツーリズムの再構築」という研究テーマで観光の新たな価値の創出に取り組んでいる。コロナ禍で働き方や学習環境、家庭環境もニューノーマルが定着しつつある今、従来型の余暇・息抜きとしての観光だけでなく、地域資源を活かして来訪者の心身の健康に貢献し、ウェルビーイング(幸福感)を感じてもらえる観光の構築を目指すというもの。まず、幸福感という主観的で個人差のあるものをより客観的に判断するためのデータ収集として、アンケートによる主観的幸福の計測と心拍数や脳波などの生理的計測を並行して行なう。昨年の夏に小野川温泉で実施し、今後は県内の他の観光地でも実践したいとしている。
 山形県には、たくさんの温泉があるほか、美しい自然景観や歴史的な建造物、街並みなど、多彩な地域資源に恵まれている。高澤先生は本研究の成果をウェルビーイング観光地マップに落とし込んでローカルツーリズムの再構築に寄与したいと考えている。来訪者の趣味嗜好、その時の気分によって、その人にお勧めの目的地を提案したり、どこへ行こうかと迷ったときに指標となる地図。その完成に向けては、調べるべきこと、実験データがもっともっと必要で、地域の人々や学生たちの協力が欠かせない。

「お湯がいい」をアピールするチラシ

小野川温泉の泉質を調査し、学術論文にまとめて発表。その結果を地域にフィードバックするために小野川温泉の「お湯がいい」という内容のチラシを作成。観光客にも親しみやすく読みやすいよう工夫されている。

ウェルビーイング実験の説明会

昨夏に実施した実験時にウェルビーイング(幸福感)や実験方法について説明している様子。社会人や学生が被験者として、幸福度に関してアンケートによる主観的データと心拍数などの生理的計測データの収集に協力。

実験、足湯のリラックス効果は?

足湯で被験者のみなさんがリラックスする実験中の一コマ。まち歩きや足湯などを体験する前後に幸福度に関するアンケートや心拍数の計測を行い、その変化から地域資源のウェルビーイング向上効果をチェック。

アフターコロナを見据えて
地域版MICEの誘致を提案

 地域資源を活かして来訪者のウェルビーイングに貢献する、その先に高澤先生が見据えているのは、地域版MICE(学会や国際会議、イベントなど、ビジネスに関連する集客・交流)。温泉や自然など、既にある地域資源を活用して国際会議やイベント等を誘致することで単なる観光以上の経済効果が得られるとして政府や観光業界も推奨している。国際会議を自然豊かな屋外で行なった海外の事例では、会議室での会議よりも盛り上がり、成果も上がったという。
 「眠れる資源の発掘も私の研究対象の一つ。山形にはすでに温泉MICEという取組があります。四季折々の風情ある景観、生活する上では厄介な雪さえも地域資源として強力なアピール材料になるに違いありません」と高澤先生。山形を訪れることで得られる幸福感を主観的要素と科学的分析の両面から検証し、集客につなげる。これが地域資源を活かした持続可能な地域づくり。県外、海外からの集客が叶うアフターコロナが待ち遠しい。

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たかさわゆみ

たかさわゆみ●准教授/専門は都市計画・地域居住政策・観光まちづくり。神戸大学自然科学研究科修了、博士(学術)。2016年に着任。山形県内各地で地域資源を活かした地域づくりの研究・支援を行なっている。

※内容や所属等は2022年4月当時のものです。

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