研究するひと #33
岩⽥⾼広
極小世界の謎に迫る壮大なロマン
核子スピン研究の中枢を担う。
2021.01.15
研究するひと #33
岩⽥⾼広
2021.01.15
物質の最小単位である陽子や中性子の内部構造の解明を目指す、岩田高広教授が推進する研究が、山形大学初となる大型の科学研究費補助金・基盤研究(S)に採択された。研究課題は「大型偏極ターゲットを用いた核子スピンのクォーク構造の解明」。岩田先生等がスイスの原子核研究機構(CERN)で行っている、13カ国による国際共同研究が加速し、新たな素粒子理論の構築などにつながるものと期待されている。
自然界に存在するさまざまなものや出来事を探究する理学の世界。その中でも岩田先生が探求し続けているのが、物質の最小単位である陽子や中性子の内部構造。世界13カ国、200名以上の研究者が参加するCOMPASS国際共同研究に日本グループの代表メンバーとして参画し、長年、スイス・ジュネーブにあるヨーロッパ原子核研究機構(CERN)において実験、研究を行っている。核子(陽子や中性子の総称)はクォークと呼ばれる素粒子が結合してできており、コマのように自分自身で回転する性質(スピン)を持っている。従来、その核子スピンはクォークのスピンに起因すると考えられていたが、これまでの研究でクォークスピンの影響は3割程度に過ぎないということが判明。“スピンクライシス”と呼ばれるほど世界中の物理学者が頭を抱え、「核子スピンの真の起源は何か」という謎の解明が待たれている。
CERNの世界最大級の偏極ターゲット装置を用いて、核子スピンの起源に迫る研究を行う中で、岩田先生率いる日本グループは、スピン偏極ターゲットや大型水素ターゲットの技術を使って中心的な役割を果たしている。現在、COMPASS国際共同研究では、核子中のクォークの自転ではなく軌道回転(公転)に注目している。
従来理論では、核子スピンに対するクォークの公転効果はゼロとされていたが、岩田先生等の実験結果から公転効果の存在が示唆されたのだ。クォークの公転効果の存在を確認するためには、さらに精密な測定を行ってデータを補強する必要がある。この核子スピンの研究が、研究課題「大型偏極ターゲットを用いた核子スピンのクォーク構造の解明」として、日本学術振興会科学研究費補助金(科研費)の基盤研究(S)に採択された。科研費は、人文学、社会科学から自然科学まで全ての分野にわたり、基礎から応用までのあらゆる独創的・先駆的な「学術研究」を目的とするもので、基盤研究(S)は、助成規模が2番目に大きな種類で、本学における採択は今回が初めて。核子スピンの起源が解明されること、そして、新たな素粒子理論が構築されることへの期待の大きさがうかがえる。
本研究は、2020年度から4年間にわたって研究経費が助成される見通しで、これによってスイス・ジュネーブのCERNで行われている国際共同研究が活性化し、本学の更なる国際化にも波及するものと期待される。2021年、2022年にそれぞれ約6カ月間、24時間体制で実験を行い、それと並行してデータ解析を進めて論文にまとめ、2023年には研究発表を行うとするロードマップが描かれている。
COMPASS日本グループは、山形大学、宮崎大学、中部大学、KEK(高エネルギー加速器研究機構)で構成されている。現在、岩田先生の教え子で本学助教の堂下典弘先生がジュネーブに常駐し、COMPASS大型偏極ターゲットの調整などにあたっている。本来であれば、岩田先生も大学とジュネーブを行き来したいところだが、新型コロナウイルス感染症の影響で渡欧は叶わない。しかし、リモートにより大学に居ながらにしてCERNの偏極ターゲット装置の状況をモニターでチェックし、バルブを捻るなどの調整もできるというから、実験計画に支障はなさそうだ。
1991年からCERNでの国際共同実験に参加している岩田先生のモチベーションは、自然界の謎を解き明かしたいという探究心。「人の役に立つ研究も必要だが、原理を突き詰めることも大事。新しいものは、案外、失敗から生まれるもの。学生たちの突飛なアイデアがヒントになることもあります」と岩田先生。国際機関が集中する都市ジュネーブ、世界的視野を広げる意味でも多くの学生たちをCERNに連れて行きたい考えだ。今回のCOMPASS国際共同研究が成果を収め、その過程において、次の新たな謎に挑む若き研究者が育成されることを、期待をもって見守りたい。
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いわたたかひろ●教授/専門は素粒子・原子核物理学。名古屋大学大学院理学研究科修了、博士(理学)。COMPASS国際共同研究に日本グループの代表メンバーとして参加。偏極ターゲット装置に関して重要な役割を担っている。
※内容や所属等は2020年12月当時のものです。