研究するひと #07

鈴木拓史

小腸機能の基礎研究に加え、
「食べものカルテ」で地域と連携。

2018.02.15

小腸機能の基礎研究に加え、「食べものカルテ」で地域と連携。

栄養生理学を専門とする鈴木拓史先生は、小腸の機能に着目し、動物実験などをベースに基礎研究を行う一方で、管理栄養士の資格を生かして地域社会に貢献したいと山形県栄養士会に働きかけ、栄養士を対象としたスキルアップセミナーを立案、実施している。さらに、医療、介護、福祉、看護など、食べものを取り扱う専門家の協力を得て、簡易食情報提供書「食べものカルテ」を作成。現在、その普及・啓蒙に力を入れている。

“第2の脳”と呼ばれる器官、
謎の多い小腸機能の凄さに迫る。

 静岡県出身の鈴木拓史先生は、地元の県立大学を卒業後、一度は民間企業に就職するも基礎研究志向が強く、1年で大学に戻り、修士・博士課程まで修了。その後、約1年間のアメリカ留学等を経て、2010年12月本学に着任した。専門の「栄養生理学」とは、人間が持っている心臓、肝臓、腎臓といった組織に対する生理機能を追求する生理学を主軸に、栄養の概念を取り入れた学問分野。その中でも鈴木先生は、近年の研究で“第2の脳”と注目されている腸、特に栄養素を吸収して生命を支えている小腸に強い関心を寄せて研究に取り組んでいる。
 栄養の摂取には、口から摂るか、血管から投与(注入)するかの2つの方法があるが、口から摂取して腸管を介して摂ることが望ましいといわれている。なぜなら、血管からだけの栄養摂取では小腸内の絨毛が短くなり、栄養の消化・吸収率がグンと下がってしまうというのだ。その短くなってしまった絨毛を回復させるためには、腸管に刺激を与えることが有効で、鈴木先生は栄養学的に何の栄養素を与えることが最も効果的かを動物実験等によって実証している。より効果的な栄養素として浮かび上がったのがブドウ糖や果糖。しかし果糖の摂りすぎは脂肪肝の原因になるという別の問題を引き起こすことが知られている。そこで、その代替品として注目されているのが希少糖(レアシュガー)という、自然界にはごく少量しか存在しない単糖。近年それらを人工的に大量生成することが可能になった。希少糖の研究に力を入れている香川大学の先生らと共に絨毛回復に与える影響等について研究を進めており、希少糖ならではの小腸機能の回復効果も明らかになった。また、鈴木先生の研究室では、加齢によって腸が老化するメカニズムの解明にも取り組んでおり、動物実験をはじめ学生たちが活躍するシーンも多い。

栄養投与

腸管を通した栄養投与(左)と血管からだけの投与(右)をラットで実験。絨毛の形状と粘液分泌(水色)を可視化した顕微鏡画像。右の絨毛の顕著な萎縮、粘液分泌の低下が一目瞭然。

栄養素を経口投与した画像とグラフ

小腸の絨毛が萎縮してしまったラットに栄養素を経口投与したところ絨毛形態や粘液の分泌が回復。グラフは、投与した栄養素の種類により回復に与える影響に差があることを示す。

管理栄養士としての地域貢献
多職種連携で「食べものカルテ」作成。

 大学としての地域貢献を強く意識している鈴木先生は、2013年から管理栄養士の資格を生かして、栄養士や管理栄養士を対象としたスキルアップセミナーを企画・実施している。病院等の現場で働く栄養士の方々のスキルアップを図るとともに、現場で得られる貴重なデータを活用して学会発表を目指そうと働きかけている。こうした活動の中から現実性の高い取り組みとして「食べものカルテ」が生まれた。高齢者や障がい者が、病院から病院へ、病院から福祉施設へ、病院から在宅へ…、さまざまな施設間を行き来する例が数多くある中、その人がどのような食べものを食べていたのか?どのような食べものであれば食べることができるのか?などの食べものに関する情報がスムーズに共有されていないのが現状。以前から栄養情報提供書というフォーマットはあったものの、あまりにも専門的すぎて記入が面倒だったこと、また、施設ごとに食形態の名称が異なるなど、統一が難しかったこともあり、ほとんど活用されることはなかった。
 そこで、鈴木先生を中心に医療・介護・福祉・看護などの食べものを取り扱う専門家たちが連携し、山形県栄養士会の協力を得て食べものの情報に特化した簡易食情報提供書「食べものカルテ」を作成した。地域包括ケアが推し進められる中、食に関連する多職種間が連携し、地域が一丸となっての取り組みは全国的にも珍しいケースだ。

食べものカルテ

誰でも簡単にアクセスできて「食べものカルテ」をダウンロードすることができるホームページのトップ画面と、該当するものをチェックするだけで記入しやすい「食べものカルテ」シート。
HPはこちら→http://tabemonokarute-yamagata-u.aiyweb.com/

Webで簡単入手「食べものカルテ」
普及へ向けて利用説明会を開催。

 山形発の「食べものカルテ」は、専門的な知識を必要とせずに誰でも簡単に記入できるチェックシートになっている点が特長。2016年に作成され、2017年3月から病院や高齢者福祉施設等での利用が始まっている。鈴木先生らは、その利用拡大に向けて山形県内各地で利用説明会を開催するなど普及・啓蒙に努めている。説明会には栄養士をはじめ介護施設関係者等の参加を得て、徐々に認知度・関心が高まりつつある。Webで利用登録を済ませれば紙媒体も電子媒体も両方誰でも利用できる。この手軽さも普及を加速させる一因となりそうだ。
 小腸機能の基礎研究、そして「食べものカルテ」の作成、普及・啓蒙、鈴木先生の研究室からは食べることの大切さがさまざまなカタチで発信されている。

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せおかずや

すずきたくじ●助教/専門は栄養生理学、分子栄養学。“第2の脳”小腸の研究に注力。2010年着任。山形県栄養士会や多職種専門家の協力を得て「食べものカルテ」を作成、普及に努めている。

※内容や所属等は2018年当時のものです。

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