研究するひと #41

小坂哲夫

全学的に先端システムを開放し
AI技術で多分野との連携を展望。

2021.12.15

全学的に先端システムを開放しAI技術で多分野との連携を展望。

データサイエンスやAI技術の急速な進歩に対応し、さらには牽引しうる人材を輩出していくために整備された「山形大学データサイエンス教育研究推進本部」。その一翼を担う「AIデザイン教育研究推進センター」のセンター長を務める小坂哲夫教授は、本学に導入されている高性能計算機等の先端機器やシステムの利用促進を図るとともに、AI技術を生かして地域の諸問題解決に貢献できる人材の育成に尽力している。

MATLABの利用促進を図るなど
AI技術の導入から応用まで担当

 データサイエンス教育研究推進センターとともに山形大学データサイエンス教育研究推進本部の一翼を担う工学系の組織「AIデザイン教育研究推進センター」は2020年に新設された。ICT・ビッグデータ・ディープラーニングなどの先端的な情報科学を活用するAI研究拠点形成の構築と促進を図り、大学院生や学部3~4年生を対象としたAI・情報科学教育を担当する「AIデザインラボ」と、機械・微細加工~食品/化粧品/建築に至るまであらゆる分野のプロトタイプを試作できるファブラボを整備し、AIと融合した学部実践教育・大学院PBL(問題解決型学習)教育を担当する「ファブラボ」、この2つのラボで構成されている。
 センター長を務める小坂哲夫教授は、AIデザイン教育研究推進センターのミッションとして、AIデザイン教育及び研究の推進、地域の諸問題の解決に貢献しうる人材の育成、ディープラーニングシステム及び統合開発環境MATLABの利用促進を掲げている。MATLABとは、世界中の教育機関や産業界、研究所等で幅広く利用されている科学技術計算及びシミュレーション用ソフトウェアで、本学の全学生・全教職員が自由に利用できる全学ライセンスをとっている。アルゴリズムがソフトウェアに組み込まれているため少し学べば気軽にディープラーニングが体験できる。とは言え、まだまだ敷居は高いようで、AIは使いたいが使い方がわからないという人が多い。そこで、MATLABの利用を促進するために「MATLABトレーニング講習会」を開催しているほか、本学で導入している学習管理システム「WebClass」の掲示板にAI初心者でもプログラムが作成できるサンプルプログラムをアップしている。

数値解析ソフトウェア「MATLAB」

簡単な記述でディープラーニングが可能。本学の教職員・全学生が自由に利用できる。

教育での利用を最優先
驚異の高性能計算機

 さらに、同センターのミッションを推進するために導入されたのがディープラーニング(深層学習)用の高性能計算機(富士通社製)。全学的な認証システムと連動しており、MATLAB同様に全学生・教職員が利用できる。CPUよりも格段に計算処理能力の高い半導体チップGPUを8枚搭載し、ストレージも十分に備え、全学的な活用に耐えうるシステムとなっている。「4月に導入したばかりで現時点では主に先生方の研究に使用されているのがほとんど。しかし、後期からは教育での使用を優先させる方針です」と小坂先生。幅広く講義・演習等の授業を通してAI教育にフル活用してほしいと考えている。利用が促進されて使用頻度が増した場合に備えて高性能計算機を最適に効率よく稼働させるためのジョブ管理システムの整備も進めている。

MATLABの操作画面

株価データの蓄積から翌日の株価を予測するMATLABを使ったプログラミング学習のためのサンプル画面。アルゴリズムがソフトウェアに組み込まれているため学生でも簡単にディープラーニングを体験することができる。

高性能計算機

AIデザイン教育研究推進センターに導入されたディープラーニング(深層学習)用の高性能計算機。CPUの数倍~100倍以上の計算速度を誇るGPUを8枚搭載。

 MATLABの活用例として小坂先生が紹介してくれたのは、金融情報の学習。数日前から蓄積した株価のデータを基に翌日の変動を予測するというもの。40行ほどのプログラミングで処理が可能だ。予測値と観測値が近ければ近いほどディープラーニングがうまくいっていることを示している。精度を上げるためには大量のデータを計算させる必要が出てくるが、その際は高性能計算機にMATLABで作成したプログラムをコピーして計算を任せると瞬時に処理が完了する。このように各自のパソコンで少ないデータでプログラミングを行い、大規模な計算は高性能計算機で行うというのが一般的な使い方だという。小坂先生の授業では、AI初心者の学生に対して、最初、時間軸のない(時間によって変化しない)手書き文字認識のプログラミングから教え、徐々に難易度を上げて、一通り経験させた上で前述の金融データのような時間軸のあるデータを扱えるレベルにまで指導していく。このように「AIデザインラボ」では、AIを活用した実践的教育により地域の課題解決に貢献できる人材の育成という役割も担っている。

用語解説

MATLABトレーニング講習会

MATLABの利用促進を図るために5日間にわたって開催された講習会には、工学部の教職員約60名が参加し、MATLABの操作やディープラーニングの基礎を学んだ。

AI技術の応用に大きな可能性
地域や産業に変革をもたらす

 一方、工学部におけるAI技術を利用した研究例としては、超音波を利用した文化財の探査、脳波を用いた入力インターフェース、地震動予測と耐震設計への応用、人狼知能における役職推定などがあげられる。この中から建築分野におけるAI技術の応用に関する一例として、米沢盆地周辺の地震動予測と耐震設計への応用に向けた研究を少し詳しく紹介する。AI技術を使って膨大な地震観測記録を分析し、米沢盆地内の地震波動伝播特性を推定するというもので、得られた結果に地盤情報を組み合わせ振動台を使って地点ごとの揺れを再現。建築構造の模型実験を行い、被害を予測して耐震工学に活かしていく。つまり、AIに与えるデータ次第で応用範囲は多分野にわたる。「データサイエンス教育研究推進センター」と連携することにより、現在、研究者がそれぞれに取り組んでいる研究の情報を一本化し、情報交換の上、研究者同士を橋渡しすることで新しい可能性が生まれることも期待できる。山形大には総合大学としての強みもある。現に、音声処理を専門とする小坂先生と医学部の間では、AIを診断に役立てられるのではないかといった話も出ている。データサイエンスとAI技術がもたらす地域や産業の変革から目が離せない。

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こさかてつお

こさかてつお●教授/博士(情報科学)。専門は音声情報処理。AIデザイン教育研究推進センター長。AIデザイン教育・研究の推進、ディープラーニングシステム及び統合開発環境MATLABの利用促進等ミッションの遂行を牽引。

※内容や所属等は2021年9月当時のものです。

みどり樹

この内容は
山形大学広報誌「みどり樹」
Vol.80(2021年10月発行)にも
掲載されています。

[PDF/3.7MB]

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