研究するひと #27

森下正典

リチウムイオン電池の
性能や安全性向上を目指して。

2020.04.30

リチウムイオン電池の性能や安全性向上を目指して。

スマートフォンやタブレット、電気自動車等にも採用され、今や私たちの生活には欠かせない存在となっているリチウムイオン電池。しかし、安全性や性能の面ではまだまだ改良の余地がある。森下正典産学連携准教授は、ここ数ヶ月でリチウムイオン電池の安全性と性能の向上に繋がる数々の研究成果を発表し、話題となっている。多数の企業との共同研究が着々と実を結び、今後のさらなる成果にも期待が膨らむ。

吉野氏のノーベル賞で話題の
リチウムイオン電池を改良。

 2019年、吉野彰氏が「リチウムイオン電池の開発」でノーベル化学賞を受賞したことは記憶に新しい。スマートフォンやノートPC、デジカメなどの様々なモバイル機器や電気自動車などにも使用されているリチウムイオン電池だが、その恩恵にあずからない日はないのではないだろうか。しかし、その一方でスマートフォンの発火事故が相次ぎ、安全性の向上が求められてきた。従来のリチウムイオン電池は、電解質に可燃性の液体を使用しているため、発火や液漏れの原因になっているのだ。森下先生は従来の液体に代わる固体化したゲル状の電解質を開発。フィルム状にすることで、1mm以下の超薄型でやわらかく曲がる次世代リチウムイオン電池を世界で初めて実現した。今後は、薄くて軽い特長を生かして、スマートウォッチやヘルスケア用機器など、ウェアラブル端末向けの製品化を目指したいとしている。
 その発表の1カ月半後には、企業との共同研究により、リチウムイオン電池で負極容量を2倍にする実用化技術開発に成功したと発表。スマートフォンなどの電子機器の使用時間が約1.3〜2倍になる可能性もあると期待されている。既に長時間使用が求められるドローンなどで実証実験を重ねており、2年以内の製品化を目指す。さらに、将来的には自動車の電動化への活用も視野に入れている。

世界初の超薄型リチウムイオン電池

進化する電池

企業と進める研究・開発
プレス発表後は大きな反響。

 本学着任から5年、その間に取り組んできた研究の成果が順次実を結び、2019年の秋から2020年2月にかけては怒濤のプレスリリースラッシュとなった。容量2倍のリチウムイオン電池の開発に次いで発表されたのが、リチウムイオン電池の安全性を高める次世代セパレータの開発。電池には、プラス極とマイナス極との間に置き、両極を隔離するセパレータという部材が使用されている。従来のセパレータは電池周辺の温度が上昇すると収縮してしまい、電池がショートして発火の恐れがあることから、耐熱性のセパレータが求められていた。そこで、森下先生と企業2社が共同開発に着手し、耐熱性不織布と特殊ゴムを組み合わせることで、電池の安全性を高める次世代セパレータの開発に成功した。このセパレータを使用した電池の加熱試験を行ったところ、150℃でも耐えられるという結果が得られた。今後は、電池内部の温度が上昇しやすいドローンなどの電池用として、製品化を目指すことになっている。
 さらに、2020年2月には企業2社との共同開発により、全固体電池で正極のコーティング技術の開発に成功したことを報告。従来のリチウムイオン電池用正極を全固体電池に使用すると、固体電解質が正極を分解するため、電池自体の寿命が従来の電池よりも短くなることが課題となっていた。森下先生らは、正極側をセラミックスでコーティングすることで正極と負極を仕切る部分に液体電解質を使う必要をなくした。ポイントとなるのがそのコーティング技術。今回企業と共同開発したコーティング溶液と、連携企業が開発したコーティング装置を組み合わせることで、セラミックスを正極に均一にコーティングすることができ、これによって全固体電池の寿命が短いという課題をクリアした。

新旧リチウムイオン電池の材料の比較

左が従来のリチウムイオン電池の正極の材料。右はコーティングによって粒状にした材料。コーティングの発想の源は、ガムやお菓子など身近なものが素となっている。

ドローンの次はバギーか
遊び心が研究開発の推進力。

 森下先生の関心は、リチウムイオン電池を開発することに留まらず、それがどんな利用価値を発揮するかにも注がれる。既に実証実験中のドローンの次は、「バギーに搭載して米沢キャンパス内を走らせてみたいですね」と楽しそうに語る。研究に行き詰まった時、次世代リチウムイオン電池でどう楽しもうかと考える。そんな遊び心がブレークスルーに繋がることもあるのだという。次回のプレス発表では、どんな研究成果が発表されるだろうか。次世代リチウムイオン電池のさらなる進化から目が離せない。

ドローン搭載電池の新旧比較

ドローンに搭載されている従来の電池と、従来の約2倍の容量を持ち、軽量化も図られたリチウムイオン電池。長時間使用が求められるドローンへの搭載を視野に実証実験を重ねている。

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もりしたまさのり

もりしたまさのり●産学連携准教授/神奈川大学大学院工学研究科修了、博士(工学)。産業技術総合研究所、一般企業でリチウムイオン電池等の研究開発に携わり、2015年4月本学着任。開発の成功が相次ぎ、注目を集める。

※内容や所属等は2020年3月当時のものです。

みどり樹

この内容は
山形大学広報誌「みどり樹」
Vol.77(2020年3月発行)にも
掲載されています。

[PDF/4.7MB]

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