研究するひと #19
三輪郁
自然の豊かさ、美しさに癒やされ
指導も演奏活動もイキイキと。
2019.05.15
研究するひと #19
三輪郁
2019.05.15
代々音楽家という恵まれた音楽環境の中で育った三輪郁教授は、言葉を話す前に歌を歌ったという逸話の持ち主。数々の国際ピアノコンクールで入賞し、国内外の交響楽団のコンサートマスター、首席奏者たちとの共演を通じて音楽的信頼も厚い。ピアニストとしての演奏活動を続けながら後進の指導にあたるべく2018年4月に本学着任。山形の自然に癒やしを感じ、学生たちにはその素直さ故の伸びしろに可能性を感じている。
音楽一家に生まれ育った三輪先生は、つねにすぐ傍に音楽があり、ピアノは遊び道具だったという。桐朋女子高等学校音楽科を経てウィーン国立音楽大学に留学、大学院は満場一致の最優秀で修了している。留学先にウィーンを選んだのは、大好きなモーツァルトやシューベルト、ベートーヴェンやブラームスも暮らしていた街であり、当時のままの建物や街並みの中でオペラや音楽などの伝統を肌で感じたかったから。遊ぶ場所が少なく、ごく自然に身近に音楽が根付いている街で本場西洋の音楽にどっぷりとマイペースで没頭できた日々。「そういった意味では、山形交響楽団があって音楽が身近にあり、誘惑が少なく存分に音楽と向き合える山形は、ウィーンに似ているかも」と三輪先生。
様々なピアノコンクールでの入賞を機に世界各地での演奏活動を本格化させていき、日本でのコンサート活動が増えたタイミングで帰国。日本を拠点とした演奏活動を中心に、母校である桐朋女子高等学校音楽科等でのピアノ指導にあたっていた。2017年夏頃から本学への就任話が持ち上がり、2018年4月にピアノ演奏指導担当の教授として着任した。
三輪先生は、本学着任後も引き続き、自身の演奏活動にも力を入れている。依頼がある限り演奏をするのはライフワークであり、自身が弾き続けていないと教えられないこともある、と考えているからだ。大学での指導と演奏活動の両立とを考えると、山形と東京の往復は決してラクな移動距離ではないが、四季の美しさ、自然に癒やされることでかえって心身のリフレッシュにつながっているという。
現在、三輪先生が指導している学生は、学部生から大学院生までの20人弱。幼少期からピアノを習っていて本格的に学ぼうとする学生や、教員になるためにピアノを修得しようという学生まで目標やレベルは様々。しかし、総じて学生はみんな素直で、ワクワクするようないい演奏をすると高く評価。ピアノの台数や練習室といった数的環境は充実しているものの、寒暖差の激しい気候条件による楽器メンテナンスの難しさや都会のようには気軽に楽譜が入手できない不自由さなどが、反骨精神となって豊かな音楽性が育まれているのではないかと推測している。基本、レッスンは1対3で、一人ひとり演奏をした上で先生の指導を受ける。他の学生の演奏を聴くことも、アンサンブルや共感を学ぶ上では大切なレッスンと言える。
もう一つ、三輪先生が感心しているピアノ専攻の学生たちの取り組みが、コントラバスやホルン、トランペットなどの奏者として学内オーケストラの定期演奏会に参加していること。オーケストラの中でピアノではない楽器を体感することで、想像するだけでは得られない音の響かせ方の違いなどを体得している。10本の指で多彩な音を奏でるピアノはいわば一人オーケストラ、「この音をフルートのように響かせて」「ここはファゴットのようにとぼけた感じで」など、その違いがパッと想像できて、その要求に対応できるということは大きな強みになる。
ソリストとして、室内楽奏者として、幅広いレパートリーを持つ三輪先生は、ピアニストとしての活躍も一層期待されている。山形交響楽団とも既に共演しており、山形周辺にも音楽仲間は多く、東北での演奏会にも意欲を見せている。それらの活動を通して経験値を高め、より豊かな音楽性を学生たちに伝えたいと考えている。また、学生たちにもメディアからただ受け取るだけでなく、もっと能動的に本を読んだり、絵を観に行ったり、恋愛したりすることで音の豊かさにつなげてほしいと話している。ピアノに関して控え目な目標を掲げていた学生たちの意識にも、小さな変革が生まれはじめている。
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みわいく●教授/専門は音楽、ピアノ。東京都出身。幼少期からピアノに親しみ、ウィーン国立音楽大学及び大学院に学び、最優秀で修了。コンクール入賞歴も多数。ピアニストとしても活躍中。本学着任は2018年4月。
※内容や所属等は2019年3月当時のものです。