研究するひと #17

常松佳恵

火山噴火の神秘に魅せられ、
メカニズムの解明から防災まで。

2019.02.15

火山噴火の神秘に魅せられ、メカニズムの解明から防災まで。

「なぜ火山噴火は起こるのか?」小学生時代にそんな自由研究に取り組むほど、早くから火山への関心が高かったという常松佳恵准教授。中学、高校、大学とその探求心はさらに深まり、最終的にはジュネーブ大学大学院で博士号を取得。富士山科学研究所勤務等を経て、2018年に本学に着任した。山形県には研究対象となる活火山も少なくない。学術的な研究と共に防災対策を通して、地域への貢献を目指している。

小学生時代から一途な探求心
活火山を求めて全国&海外へ。

 横浜市出身の常松先生は、小学生時代に伊豆大島噴火や伊豆半島東方沖の海底噴火が発生した影響を受け、「なぜ、火山噴火は起こるのだろう」という素朴な疑問から、自由研究にまとめて発表した経験があるほど、幼い頃から火山に並ならぬ興味を抱いていた。その後も昭和新山の観測を続けた人物の本を読んだりと、火山への興味は尽きることなく、大学は地球科学科へと進学。学生時代、昭和新山への一人旅から北海道大学理学部有珠山観測所での研修など、さまざまな出会いや経験を通して火山研究への思いはさらに加速し、大学院への進学を決めた。大学院修了後は一度民間企業に就職してシステムエンジニアとして働き始めたものの、やはり火山研究を続けたい、との思いからスイスのジュネーブ大学大学院に進学、博士号を取得した。エクアドルのコトパクシ火山やハワイのキラウエア火山、鹿児島県の諏訪之瀬島など、調査可能な活火山を求めて、常松先生の活動範囲は国内外を問わない。
 また本学着任前の2016年から、火山防災への貢献を目指して構想された「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」(文部科学省)にも携わっている。2014年の御嶽山災害後に、火山研究水準の飛躍と人材育成を目的に立ち上がったもので、全国の大学や研究所が参加する10年間のプロジェクトだ。

2017年阿蘇山にて

2017年阿蘇山にて。2016年の水蒸気噴火によって放出された、火山岩塊の分布などを調査。火口壁の上には人間より大きい岩石も見られた。

エクアドルのコトパクシ火山での集合写真

ジュネーブ大学大学院在学中、エクアドルのコトパクシ火山で行った調査での集合写真。火山灰の分布を調べ、粒度などを分析し、大気中を火山灰が輸送される様子を調べた。

アメリカのセント・へレンズ山にて

2017年の学会巡検で訪れたアメリカのセント・へレンズ山。1980年に起きた噴火によって、山体の一部が大きく崩壊した。常松先生が指を指している先に見えるのが山体崩壊の跡で、現在はえぐれた部分に溶岩ドームができている。隣に横たわっている木は、噴火時の爆風によってなぎ倒されたもの。

探求心を満たし、防災にも役立つ
神秘の自然現象に迫る火山研究。

 火山の研究は、噴火現象そのものの研究から噴石、泥流、溶岩流、火山灰に関する研究など多岐にわたる。常松先生は、火山噴火全般を研究対象としているが、特に一般的には噴石と呼ばれる、10cm以上の火砕物に関する研究に熱心だ。噴石には、噴火の際に火口から噴出したマグマが固形化したもの(火山弾)と、山体を構成する岩石の破片(火山岩塊)の2種類がある。それらがどのような運動をするのかを、画像解析技術と数値モデルを用いて、過去の噴火の痕跡などからそのメカニズムを解明する。その結果を応用してコンピュータシミュレーションを行い、ハザードマップの作成や改訂に反映させるなど、防災対策にも役立てている。
 近年は、御嶽山の噴火による被害や新燃岳の活動の活発化を受けて、防災対策の重要性が見直されてきている。火口の位置や形、気象状況によっても噴石の飛散距離や方向が変わってくるため、これまでのように飛散距離を予測してコンパスで一律に範囲を決めて立ち入り禁止にするという方法では万全とは言えない。より精度の高いシミュレーションが必要だ。常松先生は、御嶽山噴火の翌年2015年に現地調査を行い、噴石の噴出速度などを推定する研究を通じてシミュレータを改良し、地形効果を含めた計算が行えるようにした。そして、爆発的な噴火が起こる際には、いつでも噴石が飛ぶ可能性があるものと認識してほしいと警鐘を鳴らす。

御嶽山の調査

2015年に調査で訪れた御嶽山。左は八丁ダルミと呼ばれる場所。奥に見えるのが「まごころの塔」で、この辺りで多くの方が被災したと見られる。右は噴火の際に降下した噴出物の調査を行っている様子。

御嶽山噴火のシミュレーション図

御嶽山の2014年の噴火によって噴出した噴石を想定したシミュレーション結果。噴出する方向を(a)10度、(b)20度、(c)30度と変えて計算した結果を、航空写真から読み取った噴石が作った衝突クレータの分布と比較したもの。右下の図は、シミュレーションで計算された噴石の軌跡を表したもの。地獄谷に形成された火口から剣ヶ峰と呼ばれる頂上付近には多くの噴石が飛来した。
(引用:Tsunematsu K, Ishimine Y, and Kaneko T, Yoshimoto M, Fujii T, Yamaoka K (2016) Estimation of ballistic block landing energy during 2014 Mount Ontake eruption, Earth Planets Space, doi:10.1186/s40623-016-0463-8.)

火山研究の担い手の育成と
防災対策を通した地域社会貢献。

 「火山噴火には神秘的な美しさと恐ろしさがあり、火山研究には地学や物理学などさまざまな学問と関わるおもしろさがある」と語る常松先生。この魅力を学生たちに伝え、火山研究に興味をもってもらおうと大学の講義にも力が入る。日本はプレートの端に位置する火山列島であるため、火山噴火や地震が起きるのは当然のこととして受け止めなければならない。だからこそ、備えは不可欠。しかし、そのために必要な予測や知識を提供することのできる火山研究者は少ない。自らも年に一度は国際学会に出席して刺激を受け、研究・調査活動に活発に取り組む姿を示すことで学生たちの奮起を促したいとも考えている。
 また、山形県という活火山が多い地域の大学に着任したこともあって、地元の山々の状況にも目を向けていきたいとの考えから、吾妻山や蔵王山にも出向いて現地調査を行っている。学内には火山学や地質学、岩石学を専門とする先生方も多く、その指導も仰ぎながら現状を正しく分析し、気象庁とも連携しながらハザードマップの作成に協力するなど、防災の面からも地域に貢献したい考えだ。火山噴火という自然現象を止めることはできないが、被害を最小限に留めることはできる。火山研究に寄せられる課題、期待はますます大きくなりそうだ。

2013年のフィールドワーク

2013年にハワイのキラウエア火山で行ったフィールドワークの様子。穏やかな噴火で知られるキラウエアが、1959年に激しくマグマを噴き上げた際の噴出物を採取している。

阿蘇山で採取した噴石

2017年に阿蘇山で採取した噴石。2016年10月の水蒸気噴火時のものと推測される。岩石の大きさや密度を分析し、コンピュータに入力。シミュレーションの条件等に生かす。

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つねまつかえ

つねまつかえ●准教授/専門は火山・地球物理学。神奈川県出身。ジュネーブ大学大学院地球科学セクション博士課程修了、博士号取得。御嶽山をはじめ、国内外の活火山を研究。山形の活火山も調査中。2018年4月着任。

※内容や所属等は2018年当時のものです。

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