研究するひと #32

久保田繁

独自の光制御技術により
有機薄膜太陽電池を高性能化。

2020.11.15

独自の光制御技術により有機薄膜太陽電池を高性能化。

再生可能エネルギーの雄といえば太陽電池だが、主流のシリコン太陽電池のコスト高により普及が進んでいない。本格的な普及に向けては、材料・製造コストの安価な有機薄膜太陽電池の開発が待たれている。大学院理工学研究科の久保田繁准教授は、同研究科の廣瀬文彦教授らとの共同研究でモスアイ(蛾の眼)構造を採用・最適化し、光を閉じ込める新手法により有機薄膜太陽電池の発電効率の改善に成功。薄膜太陽電池全般の高性能化への扉を開いた。

太陽光発電の普及加速へ
改良進む有機薄膜太陽電池。

 究極のクリーンエネルギーとして期待されている太陽光発電だが、主流のシリコン太陽電池のコストが高いことが課題となってなかなか普及が進んでいない。そこで、大幅なコストダウンが望める有機薄膜太陽電池の研究開発が盛んに行われている。有機半導体は、様々な材料から安価に合成可能な化合物。しかも軽量で、可溶性によりRoll-to-rollの製造法で大量生産できるなど、材料・製造方法・輸送、あらゆる面でコストの低減が可能なのだ。しかし、その発電効率はシリコン太陽電池の26.1%に対して17.4%と実用化に向けてはまだまだ改善が求められている。そこでネックとなってくるのが、有機薄膜太陽電池が材料の電気的特性上、発電層の厚さを約100ナノメートル(1nm=1mの10億分の1)まで薄くしなければならず、光が当たるとすぐに反射してしまい、発電層に光が留まらないという大きなジレンマ。
 この問題に対して、久保田先生らの研究グループは、モスアイ(蛾の眼)構造を用いて有機薄膜太陽電池の発電層に効率よく光を閉じ込める光制御技術を開発したのだ。シリコン太陽電池の発電効率はここ15年間ほとんど横ばい状態というから、急速に効率アップしている有機薄膜太陽電池に対しては、当然、更なる改良・進化が期待されている。

太陽電池内部への光閉じ込め効果

モスアイ形状を最適化する
光学計算アルゴリズムを開発。

 暗い中を飛ぶ蛾の眼の表面には、弱い光を効率的に集められるように凹凸がある。その仕組みを模して反射を制御するモスアイ構造(微小な円錐を密に並べた形状)は、以前から各方面で注目されており、ガラスやレンズ、ディスプレイなどへの応用が進んでいる。久保田先生らは、有機太陽電池の表面にこのモスアイ構造を活用することで、入ってきた光が発電層に斜めに差込み、内部で屈折を繰り返して光が閉じ込められる効果を狙ったのだ。
 さらに、発電効率を最大化するために数理工学が専門の久保田先生は、ガラス両面での繰り返し反射が光吸収に及ぼす影響を算出するための独自の光学計算アルゴリズムを開発。モスアイ構造の光学設計に導入し、光学シミュレーションと実験の両輪でモスアイ形状(周期・高さ)の最適解が、L(周期)=592nm、H(高さ)=601nmであることを導き出した。周期の短い一般的なモスアイ形状(L=240nm)では光波が直進するのに対して、最適化することで入射光が曲げられ、光の封じ込め効果によって発電層で光が強められて発電が促進されることもわかった。この光学設計で得られた形状の型を樹脂に押し当てて紫外線で固める「ナノインプリント」という技術で、表面加工を行った有機薄膜太陽電池を試作。通常の有機薄膜太陽電池よりも発電効率8.3%アップという実験データも得られた。ここで使用したナノインプリントは、安価で大面積デバイスへの応用も可能な加工法ということで、他の様々な薄膜太陽電池の高性能化への活用も視野に入ってくる。

モスアイ構造の例

モスアイ(蛾の眼)を模して微小な円錐を多数並べた表面ナノ構造を電子顕微鏡で撮影。それぞれの円錐の高さは数100nm。円錐同士の間隔(周期)が光吸収効果を左右する。

最適なモスアイ形状

発電効率を最大化するために開発した独自の光学計算アルゴリズムによる光学設計で得られた最適なモスアイ形状は、周期592nm、高さ601nm。実際に試作し、行った実験でも大幅な発電効率の向上を確認。

有機薄膜太陽電池の構造

通常の場合、多層干渉膜により光の干渉効果で表面反射を抑えている。一方、モスアイ構造を活用した場合、表面反射防止プラス光の回析効果によって発電効率が向上する。

数学と実験によるものづくり
AI導入で、さらにその先へ。

 安価で軽量、大面積デバイスの大量生産も可能、しかも室内光での発電にも強いといった特徴を持つ有機薄膜太陽電池。将来的には、有機薄膜太陽電池を屋根に装着して車内に電力を供給する自動車やスマートフォンの充電ができるバッグ、半透明の有機太陽電池など、今までなかった製品やサービスに発展するのではないかと夢と期待が膨らむ。
 久保田先生は、数年以内の商品化・実用化を目指しつつも「この光を閉じ込める光制御技術をさらに進化させたい」と現状に満足することなく探究を続ける研究者の目になった。現在は、人間の見方、考え方、発想とは全く違ったアプローチが期待できるとしてAI(人工知能)を導入。数学と実験をベースにした次世代のものづくりに挑む研究者は、常にその先を見据えている。

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くぼたしげる

くぼたしげる●准教授/東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。博士(工学)。東京大学博士研究員等を経て2004年本学着任。モスアイ構造による有機薄膜太陽電池の発電効率の向上に成功。

※内容や所属等は2020年9月当時のものです。

みどり樹

この内容は
山形大学広報誌「みどり樹」
Vol.78(2020年9月発行)にも
掲載されています。

[PDF/4.3MB]

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