研究するひと #34

横山道央

コロナ禍で増すストレスを可視化
メンタルケアの新ツールを開発。

2021.03.15

コロナ禍で増すストレスを可視化メンタルケアの新ツールを開発。

アメリカや日本では、人口の1/4~1/5が高ストレスの状態にあるとされている現代社会。横山道央准教授等の研究グループは、深刻化するメンタル問題の改善に繋げたいとメンタル自己管理サービス「マインドスケール」をIT企業「Yume Cloud Japan」と共同開発。コロナ禍でテレワークが急増し、従業員のメンタル状態が把握しづらくなっている昨今、本格的なサービス開始前から高い関心が寄せられ、問い合わせが相次いでいる。

海外ベンチャー企業との連携で
新たな事業展開と地域活性化を。

 電子デバイス・電子機器が専門の横山先生は、同じ有機材料システムフロンティアセンター(FROM)内のIoT/ICT部門で集積化センサ・システムの研究をしている原田知親助教と共同で、IoTセンサネットワーク基盤システムについて研究を進めており、日常生活における様々なセンサーデータを計測・処理・解析し、より良い生活への支援に役立てるためのシステム開発に取り組んでいる。一方、株式会社Yume Cloud(ユメクラウド) Japanは、アメリカ・シリコンバレーに本社のある海外ベンチャー企業Yume Cloud Inc.の日本法人。Yume Cloud Inc.は、センサー技術を応用したエンターテインメント用IoTソリューションの提供を事業の柱とし、センサー技術と大規模なワイヤレス技術を一体化したオリジナル開発品「GLOW IoTモジュール」を使って主に娯楽系向けのビジネスを展開してきた。
 同社は、GLOWの技術をエンターテインメント分野だけでなく、他の分野にも応用し広げていくためのパートナーとして本学を選び、2019年1月、山形大学有機材料システム事業創出センター(略称:YBSC/米沢市)内に日本法人を設立。YBSCには、山形大学発ベンチャー5社が入居しているが、海外企業の誘致は初めて。海外ベンチャーと大学が連携することのメリットを生かし、事業の発展とともに雇用創出による地域活性化を目指していく。

山形大学有機材料システム事業創出センター(YBSC)

有機関係4センターに加え事業化を推進する役割として米沢オフィス・アルカディア内に設立された、山形大学有機材料システム事業創出センター(YBSC)。地域と連携してイノベーション創出のための人材育成、ベンチャー企業創出、及び地域企業の事業拡大の支援を行い、地域社会の活性化、雇用促進を狙う。

ストレス時代のメンタルケアに
マインドスケールを共同開発。

 そして今回、Yume Cloud Japanは経済産業省のサポイン事業(2019年〜2022年)に採択され開発資金を確保し、横山・原田両先生が中心となって東北大学加齢医学研究所長の川島隆太教授、東北大学医療機器創生開発センター、東北芸術工科大学等と連携することによりIoT・AI・クラウド技術による人の感情の分析ツール「感情表現エンジン」を共同開発した。感情表現エンジンとは、音声・脈波・行動等の複合データによりストレス状態の分析及びストレスチェック、改善プログラムの作成、モニタリングの自動化が可能なシステム。その技術を活用したオンラインメンタルケアサービス事業「マインドスケール」の企業向けテストサービスを2020年7月にスタートさせた。
 マインドスケールとは、ストレス計測機を用いた科学的分析と改善プログラム、モニタリングを組み合わせた新しいストレスケアプログラム。ユーザーは、横山・原田両先生等が開発したストレス計測器に指を乗せて脈波を計測し、カウンセラーがオンライン上でそのデータとユーザーの表情と音声を複合的に分析。自己申告式のチェックシートだけでは顕在化しにくいストレス状態を浮き彫りにし、改善プログラムの提案、モニタリングを行い、場合によっては専門医の受診を促す。

マインドスケールの役割

現状のストレスチェックの方法は記述式の自己申告制。それでは顕在化しにくい未病やうつ気味の症状も、マインドスケールの導入によって、脈派や表情、声で複合的に判断し、改善アドバイスや専門医の受診につなげることができる。

ストレス計測機のセンサーで計測された脈派データ

ストレス計測機のセンサーで計測された脈派データは、PCやタブレット、スマホの画面にこのような親しみやすいデザインで表示され、ストレス度合を可視化。

マインドスケール専用のストレス計測機

マインドスケール専用のストレス計測機。センサーに指を乗せて、血液が全身に送られる時に起きる脈波を計測し、ゆらぎの有無によりストレスの度合をチェックする。

ストレス計測機の結果を表した画面の一例

ストレス計測機の結果を表した画面の一例。この結果がクラウドに送られ、PCやスマホのマイクやカメラで捉えた声や表情と合わせて複数の指標で複合的に判断される。

コロナ禍の影響で注目度アップ
人々の幸せに資する技術を研究。

 将来的には人工知能(AI)による解析を目指すマインドスケールでは、そのためのデータ蓄積を進めており、企業との実証実験を通してサービス内容の微調整を行なってきた。2021年にはサービスを本格化させ、2023年にはオンラインサービスユーザー18万人、スマホアプリユーザー450万人の獲得を目指す。近年、メンタル問題を抱える人が増加していることを受けて、日本でも2014年から従業員50人以上の会社ではストレスチェックが義務化されている。さらに、2020年には新型コロナウイルス感染症の影響によるテレワーク(在宅勤務)の急増に伴うコミュニケーション不足や行動制限、先行き不安などから「コロナ鬱」という言葉が生まれるほど事態はより深刻化し、メンタルケアの重要性はさらに高まっている。マインドスケールは、ストレス時代、withコロナ時代の心の健康管理に適したサービスと言えるのではないだろうか。
 「私の研究テーマの2本柱はストレスチェックと快眠。センサーをより進化させてパソコンやスマホ、ベッドなどに仕込み、日常的に触れるだけ・寝るだけで、計測を意識させずに素の生体データを測って解析し、健康管理とアドバイスもしてくれる、そんな技術も開発中です」と横山先生。人々を幸せにするものづくりへの挑戦はまだまだ続く。

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よこやまみちお

よこやまみちお●准教授/専門は電子デバイス・電子機器。東北大学大学院工学研究科修了、博士(工学)。研究テーマは、人々を幸せにするものづくり。センサーによるストレス計測機を開発。コロナ禍でニーズが高まっている。

※内容や所属等は2020年12月当時のものです。

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