研究するひと #16

大音隆男

課題は赤色LEDの高効率化、
プラズモニック結晶で実現めざす。

2018.12.15

課題は赤色LEDの高効率化、プラズモニック結晶で実現めざす。

2017年10月に着任したばかりの大音隆男助教の研究室では、半導体光物性・ナノ構造物性・プラズモニクスといった分野の研究に取り組んでおり、発光デバイスへの応用を目指している。2014年にノーベル賞を受賞した青色LEDの発明同様に窒化物半導体を用い、さらにナノ構造と表面プラズモンの同時導入により赤色の発光増強に成功。しかし、まだわかっていないことも多く、実験と理論の両側面から探究を続けている。

次世代発光デバイスに不可欠
赤色LEDの発光効率向上。

 照明、イルミネーション、ディスプレイなど、私たちの暮らしの中でも普及が進んでいる高効率で低消費電力、小型・軽量、長寿命とメリットの多い光電子デバイス、それが発光ダイオードLED。2014年にノーベル物理学賞を受賞した赤﨑勇氏、天野浩氏、中村修二氏の3博士の「高輝度・低消費電力白色光源を可能とした高効率青色LEDの発明」により光の三原色が達成されたことでLEDの応用分野は大きく広がっている。さらに、LEDを三原色集積型にすることで、マイクロディスプレイや高機能性の白色光源など、フルカラー応用上でインパクト性の高い次世代デバイスを開拓できると考えられる。
 原理上は、すでに実用化・商品化されている青色LED同様、窒化物半導体によってすべての可視光(紫〜赤:380〜780 nm)の発光を実現することが可能なのだが、窒化物半導体InGaN(窒化インジウムガリウム)で作製すると長波長になるにつれて、発光効率が著しく低下する。特に赤色の発光効率が非常に低く、改善が求められている。

ナノ構造効果により高効率化
プラズモニクスで発光増強。

 こうした問題の解決を図るために大音研究室では、構造を変えると色や特性が変わる窒化物半導体ナノコラム(ナイワイヤ)アレイ構造に着目。さまざまなナノコラムアレイ構造を作製し、発光特性の変化を調べている。構造のパターン設定は自由自在のため、まず、シミュレーションソフトでモデリングし、どんな特性が得られるかを理論的に評価した上で期待できるナノコラムアレイ構造を実際に作製する。その作製方法は、GaN(窒化ガリウム)のテンプレートにTi(チタン)を蒸着した後、電子線描画およびエッチングによって、直径数十〜数百 nmのナノホールパターンを形成。Tiマスクを用いた選択成長技術により、同一基板上に同一成長条件でコラム径・周期の異なるナノコラムアレイ構造を同時に作製するというもの。完成した構造にレーザを照射して特性や特質を評価し、次にフィードバックしていく。この構造の導入によって赤色の発光効率の向上は見られたがまだ十分とは言えない。

ナノコラム(ナイワイヤ)アレイ構造

ナノコラム(ナイワイヤ)アレイ構造直径数十〜数百nm、高さ1㎛程度の柱状ナノ結晶のこと。画像では同じに見えるが、太さが変わると色や特性が変わる。構造の違いによって、現れる発光特性の変化を調べるために作製したさまざまなナノコラムアレイ構造。

顕微分光測定による検証

顕微分光測定による検証直径や周期の異なるナノコラムアレイ構造の電子顕微鏡像と発光像。コラム直径や周期を変化させると、発光色や発光強度が変化することに着目し、高効率な赤色発光が得られる構造を探求している。

 そこで、大音研究室では従来の作製技術や特性評価を発展させ、ナノコラムアレイ構造と表面プラズモンを同時導入し、“プラズモニック結晶”と呼ばれる「金属/半導体のハイブリッド周期構造」を作製することで発光効率の向上をめざしている。表面プラズモンとは金属/誘電体(半導体)界面に生じる電子の集団的振動で、それを用いた技術をプラズモニクスと呼ぶ。最もわかりやすい応用例としてはステンドグラスがある。ガラスにさまざまな金属粒子を混ぜることで赤色や青色、黄色といったさまざまな色を実現しているのだ。大音先生は、この金/窒化物半導体のプラズモニック結晶の導入によって5.2倍の著しい発光増強に成功している。

ナノ構造と表面プラズモンの同時導入

ナノ構造と表面プラズモンの同時導入従来のナノコラムアレイ構造をSOG(塗布ガラス)で間を埋め込み、BHF(エッチング剤)でエッチング。そこに金を蒸着させ、金/窒化物半導体のプラズモニック結晶を作製。

有機ELなどへの応用も可能
目標は光デバイスの開発。

 また、バンド構造を制御することでエネルギー・光・表面プラズモンの状態・機能を制御できることを利用し、高効率なLED・低閾値ナノレーザや新機能を付加した光電子デバイスへの応用を目指して研究を進めている。とはいえ、プラズモニック結晶に関してはわかっていないことが多く、実験と理論の両側面から未知の光物性探究、光デバイスの高効率化に挑む。
 まだ新しい研究室のため現在のメンバーは、大音先生と4年生2名の計3名。「多様なシミュレーションやディスカッション、実験をするにもまだまだメンバー不足。徐々に人数が増えれば研究の幅も広げられます」と大音先生。窒化物半導体だけではなく、有機半導体など様々な材料系への応用も考えられ、他の研究室とのコラボレーションも視野にあらゆる可能性を追求していく。

プラズモニック結晶のシミュレーション

プラズモニック結晶のシミュレーション左図は、シミュレーションに用いたプラズモニック結晶を上から見た模式図。金色領域は金、青色領域は発光層、緑の六角柱はGaNナノコラムを表す。右図は、金/誘電体界面に発生する表面プラズモン起因の電界強度分布。

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おおとたかお

おおとたかお●助教/専門はナノ構造物理、電子・電気材料工学。奈良県出身。2014年京都大学大学院博士後期課程修了、博士(工学)。日本学術振興会特別研究員、上智大学プロジェクト博士研究員を経て、2017年10月本学着任。

※内容や所属等は2018年当時のものです。

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