研究するひと #43
三原法子
栄養を軸に広がっていく研究の輪
実践的な研究で人と地域に貢献。
2022.01.31
研究するひと #43
三原法子
2022.01.31
病院で管理栄養士を務めていた三原法子先生は、米国レベルの栄養士を育成する目的のプロジェクトに参加し、その時に得た知識や経験が研究や地域貢献に 邁進する今日の姿につながっているようだ。本学着任後も栄養士としての活躍は多方面に及び、その功績により令和3年度厚生労働大臣表彰を受賞。さらに、高齢者の栄養管理に関する多分野の共同研究を統括するなど、今後の活動にも意欲を示している。
大学の管理栄養士専攻コースで学び、国家資格を取得し管理栄養士として病院勤務していた三原先生は、友人の誘いで国が主催する栄養士のレベルを上げるための全国的なプロジェクトに参加することになった。栄養に関する世界的権威に学ぶ機会に恵まれ、栄養については何でも知っていたつもりが、実は世界レベルからすると何も分かっていないことを思い知らされたという。病院勤務を続けながら数年にわたってこの研修を受け続け、人間栄養学に基づいた臨床栄養の知識、技術およびマネジメント能力を習得した者に与えられる臨床栄養師資格を取得。今でも有資格者は全国的に見ても限られており、三原先生は先駆け的な存在だ。
今でこそ、NST(Nutrition Support Team:栄養サポートチーム)として患者に最適な栄養管理を提供するために、医師、看護師、薬剤師等とともに管理栄養士が医療チームに参加するケースも増えつつあるようだが、当時の栄養士の仕事は献立の作成・食材発注・調理指導など、かなり限定的だった。それでも、三原先生は厨房を飛び出し、病棟を回っては患者の栄養相談や栄養指導を行っていたという。栄養面から体に良いものを知りたいという患者たちの思いと三原先生の大らかな人柄もあって、病棟ではなかなかの人気者だったと聞く。
当時、本学に設置されていた栄養士養成の講座を担当していた先生と親しかった三原先生は、その先生の退任に伴い後任として推薦を受けた。着任前に修士号を取得しようと考えた三原先生は母校である昭和女子大学大学院での学び直しを選択し、40歳を過ぎて大学院生となった。無事に修士号を取得して本学に着任し、栄養士を目指す学生等を熱く指導し、社会に貢献する人材をたくさん世に送り出した。その後、諸事情により栄養士養成課程は廃止されたものの、食そして栄養は健康の源であり、誰にとっても大切なものとして食育や基盤共通教育で教鞭を取っている。
学生教育と併せて三原先生が力を入れている研究テーマが「75歳以上要介護高齢者における栄養管理」。長年勤務していた病院の入院患者の多くが後期高齢者で、基礎代謝の誤算によるカロリーオーバーで発熱するケースや嚥下障害などを目の当たりにして来たからだ。特に、嚥下障害については、噛む力、飲み込む力を訓練する言語聴覚士や口腔外科医、歯科医師、歯科衛生士と共同で研究を進め、加齢によって急激に低下する舌圧に関係していることを解明。今では、うまく飲み込めなくなる前に医療介入を行うための指標にまでなっている。さらに、今後も学生指導や共同研究においてワクワクするような計画が目白押しだという。
2020年頃から三原先生はAIを使いこなせる栄養士をテーマに掲げ、情報・エレクトロニクスを専門とする工学部の原田助教や山形県栄養士会と共同で一つの研究を結実させた。「栄養指導における“見える化”を体験できるIoT食器の研究開発」では、糖尿病や肥満など、厳しい食事制限が必要な人々に対して、引き算ではなく足し算で食事制限を少し楽しんでもらえる食器を開発した。どうしても食べたいものを最初に食器に載せると、その人が摂取できるカロリーに合わせて一緒に食べられるご飯やサラダなどの副菜の量が画像で浮かんでくるというもの。確かに、これなら食事制限にも少し前向きになれそうだ。
そして、三原先生を今もっともワクワクさせているのは、文化創生コースで音楽を専攻する学生の発案による認知症対策に関する研究。地域教育文化学部、工学部、医学部の先生方が学部の枠を超えて、音楽と唾液の分泌、食欲、脳波などの関係性を明らかにして認知症の進行を抑える研究に取り組む。もちろん、発案の学生も参加し、卒論としてまとめる。三原先生と言えば、山形県の食に関する識者としてテレビ番組にも度々登場し、その親しみやすい人柄で自治体からの依頼や相談も多い。地域密着型の栄養士として今後も多方面での活躍が見られそうだ。
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みはらのりこ●地域教育文化学部講師/管理栄養士・臨床栄養師。山形県出身。病院勤務を経て本学着任。多年にわたる栄養指導業務等の功績が認められ、令和2年度山形県知事表彰、令和3年度厚生労働大臣表彰を受賞。
※内容や所属等は2022年1月当時のものです。